第134話 武具のメンテナンスと開発

 俺がアメリカ行きの準備を進めている時だった。


「おい、譲。そういやお前、魔導銃のメンテナンスはちゃんと自分でやってるんだろうな?」


 先生に扱き使われているはずの一鉄が俺の前に現れて開口一番に言ってきた言葉はそれだった。


 それに対する答えは決まっている。


「いや、そう言えば全くしてないな。だけどインベントリに入れている内は経年劣化とかもしないはずだろ?」


 いざという時のために収納してある食料や水などもしまったときのままの状態で出てくるのだ。


 魔導銃もそれは同じであり、インベントリに内にあるのならショップで購入した時新品の状態が維持されるのである。


 また戦闘で使用した時間もそう長くはなかったので、これまでにメンテナンスなどしたこともなければ気にしたことも無かったくらいだ。


「今すぐ出せ。俺が見てやる」


 だがそれを一鉄は許してくれないらしい。


 沖縄で自衛隊に貸していた魔導銃も含めた、これまで使用したことのある魔導銃の全てを出させた一鉄はそれらを丁寧に、だけど迅速に確認していく。


「……やっぱりな。使用したことのある魔導銃は、どれもこれも内部の劣化が相当進んでやがる」

「分かるのか?」

「当たり前だろ。こういう物を弄るのが俺の能力なんだからよ」


 剣や槍などならともかく魔導銃はどういう原理で動いているのかも定かではない、それこそ未知の技術で出来ている武具に等しい。


 一応前に乱暴に扱って壊してしまった時に中身を見たこともあるが、はっきり言って俺ではどう動いているかなどまるで分からなかった。


 当然ながらそんな物に手を加えるなど出来る訳もなく、手入れなどもやれるはずがない。


 だが目の前の一鉄は持ち前のユニークスキルのおかげもあって状態の確認ばかりか、いとも簡単にそれらの修理まで行なっていく。


「それにしても魔導銃にメンテナンスが必要だなんてよく分かったな」

「お前の家族や友人の訓練で魔導銃を使ってた時に気付いたんだよ。この魔導銃って武器は、想像以上に脆く出来てる部分があるってな」


 MPを消費することもありゴブリンの亜種から手に入ったにしては威力や射程などは申し分ない。


 だけどその代わりに外部からの衝撃や、使用すれば使用するほど内部で劣化が進むという弱点も存在しているとのこと。


 更に多少の劣化程度なら問題なく使えるが限界を超えると急に動かなくなったり、最悪は銃身が暴発するなどして壊れたりしてしまう可能性もあり得るそうだ。


「なんだかそれを聞く限りだと欠陥品みたいだな」

「言っても魔導銃はゴブリン程度の雑魚に持たせてる物だからな。敵を殺すために威力や射程だけは確保して、それ以外の面は最低限にすることで製造コストとかを削減してるんだろ。仮に魔物と同じようにこういう武具も幾らでも補充できるなら、それこそ継戦能力とかは必要ないからな」


 使い捨ての駒に頑丈で長く使えるような武器を持たせる意味はないということか。


 だとしたら可能なら俺も同じように使い捨て前提で運用すれば良いのかもしれないが、それなりのポイントを消費して購入した物なのでそういう訳もいかないのが困ったところである。


 蘇生スキルを手に入れるためには大量のポイントが必要なのに、無駄なところで浪費していてはいつまで経っても目標達成など出来るはずもないだろうし。


「アメリカに渡る前に自衛隊にそれなりの数の魔導銃を渡すつもりだったんだが、この分だとそれについても説明しとかなきゃいけないな」


 それにアメリカでも魔導銃を提供することも考えていたが、そういう弱点があるのなら運用方法についても改めて考えなければいけないかもしれない。


「だけどこれが俺達に都合の良い点もあるぞ。今のところこういう武具のメンテナンスが可能なのは俺だけみたいだから、魔導銃を長期的に運用するためにはどうあっても俺に預けなきゃいけない。それなら無限発砲が可能になるように俺がスキルで手を加えたって話もそうそう疑われることはないだろ」


 なるほど。一鉄がこういう武具に精通していると周りに印象付けられるほど、魔導銃に加えられた細工については一鉄が行なったと思われる。


 延いては俺の魔力譲渡が発覚する可能性は低くなる訳だ。


 それに加えて持ち逃げしようと企てても、遠くない内に故障するのが目に見えているのならそれも断念せざるを得ないに違いない。


 だって持ち出すことに成功しても武器としてまともに使えないのなら意味がないのだから。


「だけど大丈夫なのか? 色々と先生に扱き使われているだろうに、そんなメンテナンスの仕事まで請け負って」

「心配すんなって。お前達がダンジョン攻略に勤しんでいる間にこっちも最低限の工房を居住区に用意しておいたからよ。簡単な修理とかならそこで半自動的に行なえるはずだ」


 一鉄の錬金術は工房などの施設がなくても物を作り出せる能力ではあるが、それでもサポートがあるに越したことはない。


 だからこそ一鉄は聖樹にやって来てから指導役をすると並行して、自らの工房を構える準備を進めていたのだとか。


「と言ってもあの工房はあくまで簡易的なもんだからな。それこそ聖樹の施設で工房なんかがあれば、もっとできることも増えそうだし早めにその施設が解放されると助かるんだだがな」


 これからの事を考えて通常の銃でも使用可能な魔物に効果の高い銃弾の開発などを進めているそうだが、材料不足なこともあってあまり順調には進んでいないらしい。


 また開発に成功しても量産するとなると、そういったことに特化した設備が必要不可欠になるとのこと。


「とは言え、次にどんな施設が解放されるのは未知数だからな。現状だと早めにそういう施設が解放されるのを祈るしかないだろ」

「ま、そらそうだな」

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