第133話 特典を得た精鋭

 出現した魔物を最初に倒した人物には特典として大量のポイントが付与される。


 ゴブリンやオークを倒したことで俺がそうであったように。


 そしてそれが俺だけに限った特典ではない以上、他にも同じようにして大量のポイントを入手した人物がいるはずだった。


(北海道のサハギンを倒した奴は魔物と戦って死んでしまったって前に叶恵から聞いたっけな)


 また新潟で得点を得た覚醒者は碌でもない奴だったらしく、特典のポイントを使って手に入れたスキルを魔物との戦いに使わなかった。


 それどころかそれを悪用して、覚醒者でもない人間を襲うようなことまでしたのだとか。


 恐らくは他のならず者のように御霊石を得ることで、更なるスキルなどを得ようと画策したのだろう。


 だがそれを知った国がそんな奴を野放しにする訳もなく、最終的には警察や自衛隊の覚醒者によって追い詰められて撃ち殺されたとのことだ。


 追い詰めた時には既に罪のない人を何人も手に掛けていたそうだし、改心の見込みがなさそうな奴なら生かしておいても扱いに困るだけなのでそれも仕方がないことだろうと思う。


 愛知の特典を得た覚醒者は意外なことに民間の医療従事者の女性だった。


 偶然にも車を運転中に急に現れた魔物を轢いたとかで。


 ただし彼女のスキル適正は回復魔法などであり、本人も争いごとに向かない性格をしていたこともあって、大量のポイントを得ても戦いの場に出るという選択を取ることはなかったようだが。


 それでも手に入れた回復魔法などを駆使して、負傷者の手当てなどを率先して行っているそうなので、今後もそちらの方面で活躍してくれることを祈るばかりである。


 そして沖縄の影法師の特典は叶恵が手に入れているので、残るはガーゴイルとハーピーとなる訳だが、それらの特典を手に入れた二人は自衛隊員と米兵という戦いを生業にしていたこと。


 そしてスキル適正的にも魔物との戦闘で役に立つ力を手に入れたとかで、これまでバリバリ前線に出て戦っていたそうだ。


「ヘイ! お前が日本に聖樹なんていう安全地帯を作り出したって噂の英雄ヒーローって奴だな。こうして会えるのを心待ちにしていたぜ。なにせ沖縄では近くで戦っていたのに最後まで会えなかったんだからよ」


 その二人の内の一人。沖縄のガーゴイルを最初に倒した米兵のアーノルドがラフな感じで挨拶をしてくる。


 年齢的には三十代後半ってところだろうか。隙のない立ち振る舞いから、歴戦の戦士に似た雰囲気を感じさせる男だった。


「自分もお会いできて光栄です。あ、自分の名前は鹿島 鋼と言います。階級は二等陸士です」


 そしてもう一人の大阪のハーピーから特典を得た人物は、まだかなり若い自衛隊員の男だった。


 二十代前半か、それこそ十代でもおかしくない感じである。


「おっと、謙遜するのは良くないぞ、鋼。お前、今回の活躍で階級が上がるかもって聞いてるぜ?」

「な、なんでアーノルドさんがそんなことを知ってるんですか……。と云うか、そもそもまだそれは正式に決まった訳じゃないですし、たとえそうなっても偶然そうなった面が大きいから戸惑いの方が大きいですよ」

「ハハ! 相変わらずクソ真面目な奴だな。こんな状況なんだし、活躍した自分が昇格するのは当然のこと、くらいに思っておけよ。どうせお前がいなきゃ壊滅していた部隊もあったんだろう?」

「それはそうかもしれないですけど……って、そんな自分のことはどうでも良くて、それよりも肝心の話を進めないと!」


 沖縄という戦地で共に戦っていた間柄だからだろうか。


 目の前の二人は割と仲良さげに話をしていた。


「ま、確かに今は鋼の事よりも目の前の英雄ヒーローと話をするのが先決か。そんでもってお前はどこまで話を聞いてるんだ?」

「生憎とアメリカ政府から俺や叶恵に向けて協力要請が出てるって程度だな」

「まあそれで間違っちゃいないな。現状ではアメリカでも魔物発生は止められる目途は立っておらず、奴らに侵略された地域は未だに取り返せていない。なにせ銃弾の雨を降らせてそこら一帯の魔物を壊滅させても、次の晩にはどこからともなく復活しまうんだからな」


 復活した奴らを何度も何度も退治しても、一晩で元通りになってしまう。


 それでも復活する回数に限度があるのではないかと推測して、犠牲を出しながらも殲滅作戦を実行していたところだった。


 日本の一部の地域で突如として聖樹が現れ、それと同時に周囲から魔物が消えたのは。


「しかもどうやらこの聖樹とやらは居住区ばかりか、魔物と戦える施設であるダンジョンまで存在する、それこそ単なる安全地帯以上の機能を兼ね備えているのが間違いない重要施設ときた。それを世界で誰よりも先に確保して設置して回っている人物の協力は、我が国としては喉から手が出るほど欲しいって訳よ」


 俺としても日本を解放したら残りの他国ことは知らんぷり、なんてことをするつもりはない。


 どうせ人類陣営が勝つためには世界各地に聖樹を設置しなければならない。


 だから協力要請があろうがなかろうが関係なく、俺は世界中のダンジョンを攻略するつもりである。


 だけど現地の政府などの協力が得られるのなら、こちらとしても動き易くなるのは間違いない訳で、だからこそ先生も俺にこの件を受けるように薦めてきたのだろう。


「ただしその前に幾つか解決しておきたい懸念点もあってな」

「懸念点?」

「ぶっちゃけて言えば、本当にお前がダンジョンという敵の拠点を単独で攻略できる実力者なのか確認しろって軍の上層部から指令が出ていてな」


 万が一、俺が詐欺師か何かで本当はそんな実力を持っていなかったとなれば目も当てられない。


 当てにしていた人物が使えなくて作戦を立て直しにでもなれば、それだけで時間のロスなどは避けられない事になりかねないからだ。


「そういう訳で本当なら手合わせでもして実力を確かさせてもらう……つもりだったんだが、実はここに来る前に自衛隊の訓練とやらを見学させてもらっていてな。そこでこの鋼が戦乙女ヴァルキリーとやらにボコボコにされている光景を目の当たりにさせられた訳よ」

「実は自分も上からあなた達の実力を可能な限り確かめるように指示されていたので、叶恵さんに正直にそのことを話して手合わせをしてもらったんです。個人的にダンジョンを攻略したあなた達の実力がどれほどのものか興味もあったので」


 またそこで実力差がどれほどあるかで、自分にもダンジョン攻略が可能なのかどうか図ろうと考えていたらしい。


「と言っても恥ずかしながら手合わせどころか、その場から一歩も動かすこともできないという、まともな勝負にすらならないような不甲斐ない結果で終わってしまいましたが」

「観戦してた他の自衛官も、それこそ戦々恐々としていたようだぜ? 俺と鋼は所有するスキルこそ違えど、やり合えば勝率は五分五分ってところで、そんな実力者の鋼ですらなす術なく負けたんだからよ」


 この二人は特典で得たポイント使って戦うためのスキルを幾つか獲得しており、それを活用することでそれなりの数の魔物を倒している。


 それによりほかの自衛官などよりランクも上がっており、通常のガーゴイル程度なら難なく倒せるくらいの実力を持っているとのこと。


 だからこそこれまで沖縄などの日本における魔物との戦いでも大いに活躍しており、それぞれが自衛隊と米兵の最強の人物と噂されていたのだとか。


 そんな最強と思っていた人物をボコボコにした。


 それもその場から動かないなんてこれ以上無いくらいの余裕を持ちながら。


 そりゃ恐れられても仕方のない事だろう。


「なによりこうして相対してみて、全く勝てる気がしないからな。それどころか攻撃を当てられるイメージすらできないし、それだけで俺や鋼とは隔絶した実力者だってことは嫌でも伝わるってもんだよ」

「なら手合わせはしなくていいんだな? 別に俺はやっても構わないけど」


 それに絶対に嫌だと回答したアーノルドに対して、鋼の方は是非お願いしたいと頼み込んでくる。


 どうやら鋼は叶恵との実力差を思い知らされてもめげない心の持ち主らしい。


 そしてその手合わせの結果など言うまでもなく、俺達の実力の確認は無事に完了するのだった。

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