第125話 進化するユニークスキル
俺の知る限り叶恵のエナジードレイン及びエネルギードレインは対象から生命力や魔力を吸い取り、自分の物とすることが可能となるという能力だった。
そしてそこに間違いはないと叶恵は言う。
「だけどこの能力はそれだけじゃなかった。正確には異世界でエナジードレインを使い続ける内に、その能力に変化が起こっていったの」
「戦いの中で経験を積んで、それにより新たな能力を獲得したってことか?」
「正確には能力が進化して、出来ることが増えた感じかしらね。ちなみに別にこれは私に限った話じゃないはずよ。恐らくだけど勇者一行の大半が同じような経験をしているはずだもの」
それについては心当たりがなくもなかった。
俺から無限の魔力を与えられたことにより、休みなく能力を行使できるようになったことで、美夜などはその癒しの力をより巧みに扱えるようになっていったという話は聞いてはいたので。
そしてそれ以外の面々も大なり小なり、同じような形で各々の能力の扱いを上達させていたはずだ。
俺から供給される無限の魔力があれば、それこそ休むことなく能力の行使も可能だったはずだし。
だがそれはあくまで能力の扱いが上達したという事だと思っていた。
(異世界でもスキル経験値的な隠された仕様があって、叶恵や勇者一行は意図せずそれを稼ぎまくってたってことか?)
それがあったからこそ勇者一行は他とは隔絶した活躍をすることが出来たというのはあり得ない話ではないのかもしれない。
かく言う俺だって、魔力譲渡を何度も何度も繰り返すことで一度に譲渡できる対象や魔力の量を増やすことができるようになっていたものだ。
それを考えれば使えば使うほどに能力が強化されていくのはおかしなことではない。
「とにかく、そうやって私のエナジードレインは魔物や魔族との戦いの中で新たな能力を獲得してたってわけ」
「それが件の復活する能力だと」
「正確には生命力をストックする、要するに自身の残機を増やす感じの力ね」
異世界では同じ人間から大量の生命力を吸収して貯蔵すること。
それにより叶恵は自分が死亡するような大きなダメージを負った際でも、その生命力を消費することで死を回避することができるようになっていたらしい。
「だけどそのために必要とされる生命力は膨大な量だったこともあって、これは気軽に何度も使える能力じゃなかった。溜めておける生命力も無限ではなかったし」
また魔物や魔族から奪い取った生命力では駄目だったことも使い難い点だったそうだ。
基本的には人類を裏切った奴や犯罪者などから生命力を回収したそうだが、それにも限度がある。
「かと言って罪のない人から生命力を根こそぎ奪い取っていたら、それこそ私の方が人類の敵として扱われかねないでしょう?」
仮に叶恵が死なないために何千、何万人もの人から生命力を絞り尽くしていたら、その時点で確実に排除されていたことだろう。
それこそ神から与えられた能力を悪用していた奴らと同じように。
また、そんなことはしないと言っても信じないで疑う奴も大勢現れたに違いない。
「だからこれまでその能力は隠していたと」
「そういうこと。ちなみに異世界でも何度か死を免れない瞬間もあったけど、これでどうにか回避して生き残ってた感じ。幸いなことにエナジードレインのおかげもあって、致命傷を負ったのに生き残ってもそこまで怪しまれることはなかったもの」
たとえ脳や心臓を貫かれて確実に死ぬしかない状況でも、溜め込んでおいた膨大な生命力を消費することでどうにかその死を免れる。
その上で周りにはギリギリ致命傷を避けていたことにすれば、通常のエナジードレインでどうにか死の淵から回復をしたとようにしか思われないということか。
「それにエナジードレインを知っている敵は、私と戦う際にどうにかして一撃で仕留めようとしてきた。だってそうしないとエナジードレインで回復されるんだから、それも当然よね」
「でも実際には一撃で仕留めても殺しきれない、か」
「確実な致命傷を与えて仕留めたと思った敵は油断する。そうなればこっちのものよ」
叶恵がエナジードレインを駆使して戦えば戦うほど、そう簡単に死なないという印象が周囲には勝手に植え付けられていく。
俺だって叶恵の能力なら四肢が吹き飛んだとしても、そこから回復できる可能性があるかもしれないと思っていたくらいだったのだし。
でもそう思うこと自体、叶恵が張り巡らせていた罠だった訳だ。
「ただこっちに来てから英雄様に転移能力が増えたり、茜だけがショップで買える商品が存在していたように私のエナジードレインの仕様も結構変わっててね。それこそエネルギードレインって名称が変わるくらい別物な感じな訳よ。正直、私もまだ完全に使いこなせているとは言い難いわ」
エナジードレインの頃は吸収できるのは生命力と魔力だけだった。
だがエネルギードレインになった時点でその制限は無くなっており運動エネルギーや熱エネルギーなど、その気になればありとあらゆる種類のエネルギー吸い取れるようになっているというのだ。
更に復活に関しても生命力を溜め込む必要がなくなり、その代わりに御霊石がコストとして消費する形になっていたとのこと。
「んで、エネルギードレインだと御霊石を所持しておくか自身のインベントリにでも入れておけば、死んだ際にそれを自動的に消費して復活できるようになっているわ」
「だからあの時、お前の身体から現れた御霊石が砕け散ったのか」
「私はその現場を見てないけど、どうやらそういう感じで消費されたみたいね。ちなみに私のランクやステータスが上昇すればするほど、復活のために必要とされる御霊石の数は多くなるみたい」
つまり叶恵は十分な数の御霊石さえ揃えておけば、何度でも復活できる。
つまり条件を満たせば決して死なない、不死身な存在になる訳だ。
もっともそのためには大量の御霊石がという、人間の死体からしか取得できないアイテムが必要になるのだが。
「……確かにこの情報を周りに知られるのは危険だな」
魔族側がこのことを知れば対策を練るだろう。
そればかりか味方のはずの人類側でも、叶恵が御霊石を乱獲する危険性を考えるはずだ。
叶恵の性格からすれば、裏切り者や犯罪者などからしか御霊石を得ることはない。
少なくとも無辜の民を虐殺してまでそれを確保する人物ではないと俺達は分かっているが、そんなことを知らない人からすればその可能性を否定できない。
あるいは魔族達が画策して、この情報を流すことで叶恵の事を危険人物だとして吊し上げる状況に持っていくことも大いにあり得た。
「ま、そういうこともあってこの復活の力は英雄様の能力と同じで、可能な限り秘密にしておくのが賢明な訳よ」
叶恵の復活の能力は言ってしまえば、他人の命を消費して自分が死なないようにするものだ。
それは見る人から見れば、他者の命を食い物としているようにも思えるかもしれないし、魔物以上の恐怖を人類側に与える存在として扱われてもおかしくないかもしれない。
「分かった、そういう事なら俺も何も言わない。ただ復活のための御霊石の数が足りなくなりそうな場合は教えろよ。譲れる物なら渡すから」
だけど俺は叶恵がこれからもその能力を行使するのを止めるつもりはなかった。
何故ならこれは邪神陣営と人類陣営の戦争なのだ。
それも負けたら滅ぼされることが確定している。
そんな命を奪い合う生存競争である以上、綺麗事ばかり言ってはいられない。
どんなに汚い手段でも、必要なら取らざるを得ない時がある。
それを異世界での経験から俺達は嫌というほど知っているのだった。
「安心して。まだ最低でも四、五回ほど復活できる御霊石のストックはあるし、この後にでも安全になった沖縄を巡って落ちているだろう御霊石を回収するつもりだから」
「俺達が見て回った範囲だとグールの姿は見かけなかったけど、流石に犠牲者の数的にグールが皆無ってことはあり得ないか」
聖域化した範囲にいるグールは浄化されて御霊石になっているはず。
それを手に入れた誰かに悪用されないためにも回収できる範囲では回収しておくに越したことはないだろう。
「そういう訳で、そっちは私がのんびりとやっておくから英雄様は茜とかをこっちに呼び寄せて聖樹の主の登録とかを進めておいて」
「了解だ」
そうやって聖樹の外へと出て行った叶恵だったが、予想に反して御霊石はほんの僅かしかかしか回収できないという結果に終わるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます