第124話 新たな施設 牢獄

 叶恵が一度死亡してから復活するという大事件も発生したが、それでもどうにか聖樹を設置するという目標は達成できた。


 つまりそれによって新しい施設も解放されているはずである。


 その施設の機能によっては今後出来ることも色々と変わってくるだろう。


 だからこそそれを確認すべく、俺と叶恵は休息も兼ねて安全な聖樹の中へと入っていた。


「それで今回解放されたのはどんな施設だったの?」

「……詳しい機能はまだ分からない点も多いが、名前は牢獄だとよ」

「ふーん、これまた随分と物騒な名称の施設ね」


 とりあえず影法師とガーゴイルのマスターキーを使っておいて、それらのダンジョンも作れるようにしておく。


 その上で俺は新たな牢獄という施設の機能について調べてみた。


 現状ではこの聖樹を設置した人物である俺だけが沖縄の聖樹の主となっているし、そうでなくとも叶恵は復活すると疲れるとかで聖樹の中に入るなりダラダラと寛ぐモードになっていたので。


「どうやら基本的には名前の通りの施設で、対象とした人物などを檻の中に閉じ込めておけるらしい」


 牢獄の名の通り、その施設の中の部屋はどれも頑丈な檻で囲まれており、中に入れられた対象は聖樹のエネルギーが無くならない限り外に出られないようになっているようだ。


 その上、どうやら中に入った対象はステータスカードの効果も無効化されてしまい、通常のスキルなども使用不可になるとのこと。なので脱獄はまず不可能なのは間違いなさそうだった。


 そして牢獄に収監する対象については、基本的には該当の聖樹のマスターが決定することができるらしい。


 とりあえず物は試しということで俺は叶恵を対象にして、牢獄に収監する機能を使ってみる。


 勿論、収監される本人にも許可は得た上でだが。


 その結果により居住区や救護施設などの通常の施設だけでなく、聖樹のダンジョンで魔物と戦っていても、更には聖樹の外の聖域であっても、聖樹の主によって収監することが決定した瞬間に牢獄に転送する形で送られることが確認できた。


「該当の聖樹の影響範囲にある対象なら、たとえどこにいても問答無用な感じね」

「対象を視認していなくても指定すれば効果を発動できるのはかなり便利だな」


 ユニークスキル持ちの叶恵でも逃げることは出来ないで収監されたし、対象として選択されたのなら、まず逃げられないと思ってよさそうだ。


 牢屋の中はステータスも効果を失って通常のスキルも使えなくなっている上に、インベントリ内だろうと関係なく持ち物の没収も行えるので檻を破壊するために爆弾を持ち込むとかもできないし。


 ただし例外として、あらゆる制限などが効果をなさないユニークスキルだけは牢獄内でも使用可能とのことだが。


「だとすると茜なら力尽くで脱獄も可能かもな」

「それもそうだし、なんなら英雄様だって転移で檻の外に出るのも容易なんじゃない?」


 その点も気になったので叶恵を新たな聖樹の主として登録した後に、俺を対象に選んで牢獄に収監してもらおうとする。


 するとその際は誰から収監するという指示が出されているのか、そしてそれに許可を出すかどうかを聖樹から尋ねられる形となった。


 どうやら聖樹の主同士だと、どちらかが片方が牢獄の機能を使って強制的に相手を排除するようなことはできないようになっているらしい。


 そのことも把握しながら許可を出して俺も牢獄の中に収監される。


 その途端、一気に身体が重くなった。


(これはステータスが無効化されたからか)


 そればかりか魔闘気を始めとしたスキルは効果を発揮できなくなっている。


 この普通の人間と同じ程度の膂力しかない状態では、頑丈そうな檻を壊しての脱獄はどう頑張っても不可能だった。


 その代わりと言ってもなんだが、ユニークスキルを使えば簡単に叶恵の傍に転移することで脱出できる結果となった。


「俺達のような帰還者は例外として、それ以外には使い道はありそうな施設だな」

「人が増えれば居住区で問題を起こす輩も出てくるでしょうし、そういう軽度な罪を犯した奴を閉じ込めるのには便利かも。ただ聖樹の主が独断で収監できる対象を選択できるのはちょっと怖い面があるわね」


 仮に聖樹の主となった人物が独裁者的な人物だった場合、この機能を使えば自らの邪魔者を簡単に牢獄に収監することで排除することが出来ることになってしまう訳だ。


 今のところ俺達しか聖樹の主となった人物はいないから現状ではそういう心配はいらないだろう。


 だがこの先もそうだとは限らないのが問題だった。


「とは言え牢獄も他の施設と同じで、その機能を維持するのにエネルギーを必要とするからな。それに広さや部屋の数にも上限がある」

「収監している数によって消費するエネルギーも増えるみたいだし、英雄様のユニークスキルでもない限りは悪用するにも限度あるってことね」


 牢獄に収監する人数を増やすことで聖樹のエネルギーを浪費すれば、聖樹の守りが薄くなるのだ。


 それによって聖樹の守りを突破されたら、その聖樹の主だって危険に陥ることを考えれば、そういうことをやるとしても限度があるはず。


「まあ、現状だと聖樹の数がまだまだ足りてないはずだし、それを心配するのは聖樹の数が増えてからでもいいだろ」

「それもそうね」


 どんなに便利で素晴らしい機能や仕組みであっても、それを悪用したりシステムの穴を突こうとしたりする奴は現れるものだ。


 それら全てをどうにかしようとするのは無理なので、ある程度は黙認するか無視するしかない。


 そう決めたところで俺は次の話題に移ることにした。


「それよりもいい加減に教えろよ。確実に死んでたはずのお前が、どうやって復活したのかをよ」


 この後には茜や先生たちを呼び寄せて聖樹の主に登録してもらう予定だ。


 だからその前にこの話を済ませておかなければならないのだった。


「あれは愛の力。きっと英雄様が私を愛する心が奇跡を起こしたのよ……ってこれは冗談だから、そのゴミを見るような眼は止めてくれない?」

「ならバカなこと言って説明を先延ばしにしようとしてないで、さっさと話せ」

「はいはい、分かりましたよっと」


 こちらが冗談に誤魔化されてやるつもりがないことが伝わったのか、観念した様子でその能力について叶恵は語りだした。

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