第121話 恐るべき魔力爆発と犠牲
大量の魔力を圧縮した上で放ち爆発させる。
それはかつて魔力砲という魔族や魔物に対して絶大な効果を発揮した兵器と同じ原理による攻撃方法だった。
そしてその魔力爆発による攻撃の威力の凄まじさを俺は嫌というほど知っている。
なにせそれによって異世界では押されていた戦況か一変したケースもあったのだから。
そしてなにより自分の能力によって行われていた攻撃を、まさか敵に利用されることになろうとは。
と言っても流石に圧縮された魔力量は俺がかつて行なっていたほどではなく、威力についても魔力砲ほどではなかったようだが。
それでも展開していた氷の障壁は全て破壊されており、更に俺の全身も血だらけになるほどの傷を負っている。
魔闘気を発動中でもこれだけのダメージを負ったし、守りが無かったら死んでいてもおかしくなかっただろう。
だが今はそんなことよりも、もっと重要な出来事があった。
「バカ野郎……!」
魔力爆発が起こるあの瞬間、どうにか俺はアイスウォールの魔法で自分達の守りを固めようとした。
そしてそれはどうにか間に合ったはずだった。
「どうしてだ、叶恵!」
だが最後の瞬間、叶恵はその守りから自らの意思で外へと飛び出したのだ。
幾ら叶恵の能力が死に難いとは言え、魔力爆発をまともにその身で受けて無事で済むはずがない。
それにエネルギードレインという能力はその特性上、持続的な回復になることもあって強力な一撃には弱いのだ。
HPが1でも残れば敵や周囲から吸収して回復できるとしても、残らなければ回復できないのだから。
いや、叶恵がそうした理由も本当は分かっている。
それは俺を庇うためだ。
叶恵のエネルギードレインは魔力も吸収できる。
それはつまり今にも爆発しようとしている魔力にも影響を及ぼせることを意味していた。
実際に先程でも、完全には無理だったものの、どうにかして暴走する魔力を吸収しようとしていたことからもそれは明らかだ。
あの時、恐らく叶恵は爆発が起こる方向にエネルギードレインを全力で展開したのだ。
そしてそれによりどうにかしてこちらに押し寄せる魔力爆発の威力を抑えようとしたのである。
だが全力で展開されたエネルギードレインは俺の作り出した魔法にも影響を及ぼしてしまう可能性があった。
だからこそ叶恵はそうならないようにアイスウォールの守りから飛び出たのだ。
あるいは俺を守るような形でエネルギードレインを展開したのかもしれない。
それによって自分の守りが薄くなることも、自分が死ぬかもしれないことも分かった上で。
(くそ、また俺は失うのか……!)
爆発の影響が収まってきた周囲を見ると、まず魔石が目に入る。
それは自分を犠牲にすることを厭わなかったあの魔族のものだ。
俺に切り捨てられた時点で既に死にかけだったし、その状態で魔力爆発に巻き込まれて無事で済む訳がないのでこれは当然の結末である。
「叶恵……!」
そして遅れて離れた場所で倒れている叶恵の姿が目に入った。
どうにか人の形は留めているものの左腕以外の四肢は吹き飛んでおり、それどころか明らかに息をしていない。
だけどそれでも僅かな可能性を信じて駆け寄った俺は、インベントリから取り出した回復薬をその身体に掛ける。
「頼む、死ぬな!」
HPが1で残っていればいいのだ。
1さえあれば叶恵はそのユニークスキルによって回復できるのだから。
その奇跡を信じて、縋るように俺は叶恵の回復が始まるのを待つ。
だけどその望みが叶うことはなかった。
何故なら叶恵の懐から落ちたステータスカード。
そこに書かれた内容は残酷なものだったのだから。
いや本当はその前から分かってはいたのだ。
あの爆発が起きた瞬間、叶恵を対象としていた魔力譲渡や転移マーカーが消えた時点で。
人を対象としたそれらが消えるということはどういう意味なのかを、俺は既に知っている。
「……くそ」
それでも信じたくなくて手にした叶恵のステータスカード、そのHPの欄。
そこには0という、どうしようもない変えられない残酷な現実が記されているのだった。
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