第107話 魔力スポットの恩恵
本来なら二十四時間で1しか回復しないMP、それが一時間で1回復するようになる場所。
更にそこでなら魔力回復薬が効果を発揮するようにもなる、それが魔力スポットという場所の主な効果だ。
ただ無限魔力と魔力譲渡を持つ俺からすれば、あまり使うことのない設備である。
それらのユニークスキルのせいでMPはずっと0表記のままだし、そうでなくても自前の能力だけで必要なMPは用意できてしまえるのだから。
それでもそれ以外の人からすれば魔力スポットの恩恵は決してバカに出来るものではないのも理解している。
そんなある意味では重要な場所である魔力スポットの見た目なのだが、何らかの結晶の柱が地面から生えているような感じになっており、言ってしまえば聖樹のミニチュア版に近かった。
ただし聖樹と違って向こうが透けて見える霊体のような状態で触れられないようだが。
(聖樹も魔力スポットも邪神陣営に対抗するために設置されているはずだったし、両方の見た目が似ているのもおかしな話ではないか)
自衛隊が魔力スポットを防衛拠点に選んだのは理解できる。
ここなら他の場所よりも覚醒者がMPを枯渇することを防げるからだ。
あるいは窮地に瀕してもショップから魔力回復薬を飲むことが可能という判断だろう。
ショップで購入できる回復薬では条件を満たせば、HPやMPを回復できることなども既に自衛隊は把握しているらしい。
というか魔力スポットに関連については俺達よりもずっと彼らの知識の方が豊富なようだ。
(まあ帰還者連中のほとんどが、魔力譲渡があったおかげでこれまで魔力スポットを利用する必要性がなかったからな)
更に言えば俺と出会う前から魔物と戦っていた叶恵も自前のユニークスキルであるエネルギードレインで敵からMPを吸収することができたため、魔力スポットなどを頼らずとも問題はなかった形である。
そんな俺達と違って普通の覚醒者達からすれば、MPの回復手段は魔力スポットとそこで使用できる魔力回復薬しかないのが現状だ。
そうやって必要不可欠だからこそ、その詳細の把握は急務であり、彼らはどこまで回復速度上昇の効果が及ぶかなどもかなり正確に確かめているとのこと。
「君達も魔力回復薬などを所持しているかい?」
「ああ、一応な」
草壁隊長に尋ねられた俺はそう嘘を答えた。
体力回復薬はともかく魔力回復薬は実質的に必要ないので一つも持っていないのだが、無限魔力のことを話す訳にもいかないのでこう答えておくしかないのだ。
「まああれだけの魔物を倒せる実力があるのだから、そのための魔石も潤沢に集められるだろうし当然か。ただ分かっているかもしれないが、回復薬の使用は緊急性がある時だけに頼むよ。いざという時に使えないとなったら困るからね」
ショップで購入できる回復薬は基本的には二種類がある。
HPと状態異常などを回復できる体力回復薬とMPを回復できる魔力回復薬だ。
使用時の回復できる数値などによって幾つかの種類に分けられており、効果が高いアイテムほど必要なポイントが多いという差はあれど、大まかな分類はその二つとなっている。
そして使い方によっては非常に強力な効果を発揮するこれらのアイテムは、魔力スポットならどちらも使用可能だった。
そんなある意味で強力なアイテムである二つ回復薬だが、実はその点以外でも明確な弱点が存在している。
それはどの種類の回復薬であっても、使用してから再使用まで最低でも30分は時間を空けないといけないという点だ。
(効果が強力になるほど再使用までのクールタイムも長くなる。その辺りはスキルと同じ感じの仕様みたいだな)
その時間を待たずに再度回復薬を使用しても回復効果は得られないので、連続での使用は単に美味しくない液体を飲むだけになってしまうらしい。
そうでなければ魔力スポットなら魔力回復薬をガブ飲みして、実質的に無限魔力のような状態になることも不可能ではなかっただろうから、これは非常に残念な点ではあった。
(そう考えると簡単なのでいいから回復魔法を習得しておいたがいいか)
無限魔力があるので普段のダメージ回復には回復魔法を使って、いざという時に回復薬を使用できるようにしておくのが無難というものだろう。
そう考えた俺はショップから回復魔法を選んで習得しておく。
「しかし不思議とこの辺りには魔物がいないんだな。魔力スポットまでの道中ではそれなりの数のガーゴイルの姿を見かけたってのに」
「それについてなんだが、どうやらこの魔力スポットという場所は、ある程度までなら魔物を寄せ付けないような効果があるようなんだ」
魔力スポットには聖樹が展開している聖域に近い効果があるのだと、俺の疑問に答えるような内容を草壁隊長は口にする。
「魔物から逃げてきた民間人や怪我をした隊員などが、各地の魔力スポットに逃げ込んでからくも生き延びたという証言が幾つか得られているし、恐らく間違いないと思う」
「でもさっきのその口ぶりその効果も完全ではない感じか」
「強度や範囲など詳しいことはまだ分からないが、魔力スポットの効果範囲内に人が増えれば増えるほど、その効果は薄まってしまう傾向にあるみたいだ。あるいは効果が薄まるのではなく、敵にとっての獲物が増え過ぎると敵を退ける力よりも奴らの敵意が勝ってしまうということなのかもしれない」
その辺りは要検証とのことだが、魔物が襲ってくる状況で呑気に調べている余裕はあまりないので完全に理解するのは難しいとのこと。
だから自衛隊としてはこうして魔力スポットに部隊でまとまって集まって防衛拠点とした場合は、いずれ魔物も襲ってくるだろうと考えているそうだ。
「それと前に話した魔物の侵攻の偏りについても、この魔力スポットが影響していると我々は見ている。魔力スポットに似た、天高く聳え立つ異様な柱の傍では魔物が消え去ったと聞いているし、これらが魔物に対して何らかの影響があるのは間違いないだろう」
魔物の出現に遅れるようにして現れたこれらは、もしかしたら人類の希望となるかもしれない。
そう語る草壁隊長や隊員の様子を見て、俺はこれまでの自分のやってきたことが無駄ではなかったと内心でホッとする。
(魔力スポットの解放は狙って行なったことではなかったけど、それでも結果として犠牲を減らせたのなら良かった)
俺が聖樹を設置したからこそ魔力スポットも解放された。
だとすれば俺がそれを起動させたことは、期せずして幾許かの沖縄の人を救うことに繋がったのかもしれない。
そんなことを考えている時だった。
慌てた様子の隊員が駆け込んできたのは。
「隊長! 間もなく到着する別動隊ですが、かなりの数の魔物に追われており救援を求めるとのことです!」
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