第108話 別動隊からの救援要請
救援を求めてきた別動隊は、保護した民間人を連れながらも合流ポイントまで向かっていたそうだ。
だがその幸運も最後まで続かなかったらしく、このままでは合流ポイントまで自力で辿り着くのは難しい状況に追い込まれてしまっているとのこと。
「隊長、すぐに部隊を編成して救援を送りましょう!」
「……いや、ダメだ。まだ防衛の準備も整っていないこの状況で部隊を分ける訳にはいかない」
「ですが、このままでは」
「私だって分かっている! だが救援を送って戦力が低下した状態では、ここを守り切れるかも分からない以上はどうしようもないんだ……!」
それに確かめたところ、今から救援部隊を送ったところで間に合うかどうか怪しい距離に別動隊とやらはいるらしい。
つまりここで救援部隊を出しても、最悪の場合は辿り着く前に別動隊が全滅している可能性すらあり得る。
(それで救援部隊にまで被害が出たら、それこそ無駄な犠牲が生まれる可能性もあり得るからな。その判断は間違いじゃない)
覚醒者という戦力をむざむざ失う危険を冒す訳にもいかないし、冷静で冷徹な状況判断を下すなら、これが最適解というものなのだろう。
少なくとも彼らの戦力で考えるなら。
それでもどうにかして助けたい。
けれどそうする訳にはいかない。
判断を仰がれた草壁隊長の顔を見れば、そう悩んでいるのは簡単に見て取れた。
だからこそ咄嗟に反対しようとした隊員は幾人かいたが、他の大半は沈痛な表情を浮かべるだけに留めている。
「それなら私が一人で行けばいい」
そんな悲壮な空気をぶち壊すように、そんな言葉を平然と口にしたのは叶恵だった。
しかも大きく伸びをしながら、実になんてことないといった様子で。
「それなら戦力の分散も気にする必要はない、そうでしょう? だから別動隊とやらがいる場所を教えて」
「いや、いくら何でもたった一人で向かわせる訳には……」
その事に草壁隊長が何か言おうとしたが、それにかぶせるように俺は言葉を発する。
「悪い、頼んだ」
「ええ、敵を強化させないためにも無駄な犠牲は少しでも減らしとかないと。それにこの場所には英雄様が残っていれば問題ないでしょうし、私のスキル的に防衛戦よりも単騎突撃の方が向いてるもの」
戸惑いこちらを止めようとしてくる自衛官の制止を聞かず、叶恵は別動隊の大まかな場所を聞き出す。
「そうそう、英雄様。悪いんだけどその魔導銃を貸してくれない?」
「魔導銃? まあ別に構わないけど……」
そして何故かそんなことをあえて周りに聞こえるような声量で言葉にしてくる。
どう考えても叶恵には魔導銃なんて必要ないだろうに。
(というか叶恵も聖樹のダンジョンでゴブリンガンナーを倒してたはずだし、その時に魔導銃をショップで買えるようしてたよな?)
つまりわざわざ俺に借りなくても自分で購入すればいいだけである。
けれどインベントリに何本かの予備があるし、叶恵の事だから何か狙いがあってそうしているのだろう。
そう考えた俺はここで無駄な問答をして時間を食うのを嫌って素直に自分の魔導銃を手渡すことにした。
「ありがと。それじゃあさくっと片付けてくるわ」
その言葉と同時にその場から大きく跳躍した叶恵は、そこから更に加速して目にも止まらぬ速さで別動隊がいるはずの方向へと駆けて抜けて行った。
かなりの速度だし、恐らくは何らかのスキルを使っているだろう。
あれなら間に合いそうだ。
『で、あえて俺の魔導銃を周りに見せつけるようにして借りた目的は?』
『思っていた以上に自衛隊の戦力が貧弱だって話はさっきしたでしょう? だからそれを補うために魔導銃の貸し出しを行なうのが良いと思う』
魔導銃は込められたMPが尽きない限りは連続使用も可能だし、銃器に似ているので自衛隊も扱い易いだろうという事らしい。
『それは構わないけど、撃ち切って魔力切れを起こした後はどうするつもりだ?』
『そんなの英雄様が魔力譲渡し続ければいいだけでしょ。使用者じゃなくて魔導銃そのものに』
そこまで言われて俺も叶恵の意図を理解した。
『ああ、なるほど。それならそもそも魔力切れを起こす心配も無いし、なにより魔力譲渡しても使用者のMPが回復する訳じゃないから秘密がバレ難いか』
異世界でも同じようなことをやっていたものだ。
街を守る結界装置とかに、こっそりと魔力だけを流し込むとかで。
『あるいは一鉄辺りと口裏を合わせて、英雄様が所持している幾つかの魔導銃だけスキルで特別な処置を施したってことにすればいいでしょ』
この場で無限に弾が出るのは、あくまでスキルによる一時的な強化のおかげってことにするのか。
そしてそれは一定期間だけってことにしておいて、この戦いが終わった後は魔力譲渡をしなければ通常の魔導銃に戻ると。
それなら仮に貸した物が返ってこなくても問題がないという訳か。
『その辺りの面倒な詳細については英雄様が決めておいて。私はこの無限に弾の出る魔導銃を使うか、あるいは苦戦している隊員に貸すなりして、その有用性を知らしめてくるから』
(……こいつ、面倒事はこっちに押し付ける気だな)
あえて俺が持つ銃が特別だという風にしたのも、自分が持っている物がそうだと思われると、この話を自分で片付けなければならなくなるかもしれないからに違いない。
つまりあの場で俺からわざわざ魔導銃を借りたのも、俺の持つ物だけ特別だと周りに印象付けるためだったということか。
まあこれで自衛隊の戦力不足をある程度補う目途も出来たし、その程度の面倒事を押し付けられるくらい構わないというもの。
『それよりも万が一、ヤバそうな事態が起きたらすぐに念話しろよ。転移で援護しに行くから』
『ガーゴイル程度ならどれだけいても問題ないわよ。まあでも何かあったら念話で知らせるわ。……って、そろそろ見えてきたけど、どうやら間に合いそうよ』
今のやり取りを見ても分かる通り、色々と破天荒ながらも思慮深い叶恵がそう言うのなら大丈夫だろう。
その頼りになる言葉を聞いて俺はそう思うのだった。
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