第103話 二つの反応と大勢の避難民

 まだ海上だったがダンジョンの支配領域に近づいたせいだろうか。

 ダンジョンの気配を僅かだが感じ始める。


(まだ魔物が出現する範囲に入ってないのにダンジョンの気配を感じるな。ってことは前よりも感知範囲が広がってるのか?)


 心当たりがあるとすれば大阪などの別のダンジョンを攻略したことくらいだろうか。


 それにより与えられる加護が強化されて、ダンジョンに対しての感知能力が高くなったと言ったところだろう。


 この予想が正しいのか間違っているのかは分からないが、なんにせよ感知範囲が広くなったことは有用なので文句はない。


 だからそれにより離れた場所からでもダンジョンの場所の大まかな場所が分かるようになったのは良かった……のだが、


(おいおい、ダンジョンの反応が二つもあるぞ)


 まだ距離があるせいか微弱な反応だが、これが間違いでないなら沖縄にはダンジョンが二つ存在しているということになるではないか。


 それはつまり東京と同じで二種類の魔物がいることになる。


 だが今のところ集めた情報に依れば、沖縄に出現するのは動く石像のような魔物の一種だけのはずだった。


 そして初期にそいつらが出現した場所も首里城付近と場所の特定も済んでいる。


(特徴からして出現する魔物はガーゴイルだと予想していたが、この分だとそれだけでは済まなそうだな)


 もう一種類の魔物はこれまで情報がないということはガーゴイルに活動させて、その裏に潜んでいるということだろうか。


 だとするとハーピーと同じように知恵の回るタイプかもしれない。


(もう一種類の魔物の情報がないのは厄介だが、それで立ち止まる訳にもいかないか)


 状況にもよるが、場合によっては俺と叶恵で二つのダンジョンを同時に攻略することも視野に入れなければならないかもしれない。


 そんなことを考えている内に俺達は奄美大島へと到着する。


 どうやらここには魔物は出現していないようだが、至る所で騒ぎが起きている様子が上空からでも見て取れた。


(魔物の気配はないのに各地で騒ぎが起きてるってことは覚醒者が暴れでもしているのか?)


 勿論、この騒ぎに魔物や覚醒者などが全く関係ない可能性もある。

 ただ関係があった際に何も知らないでいるのは危険かもしれない。


 現に大阪ではただ敵を倒すだけでは不味い事態に陥った可能性もあるのだから。


 なので俺はこの騒動の原因を確かめることにした。


「クー、少し情報を集めてくるから待っててくれるか」

「ギャー」


 しょうがないと言わんばかりに鳴いて人のいない地面へと着陸したクーの背中から俺は飛び降りる。


 その途端にクーも成竜化を解除して、俺の頭の上に乗ってきた。


(透明化してるなら他人から見える心配はないか)


 情報集めが終われば、また俺を乗せて飛行してもらうのだ。


 今は休んでもらうとしよう。


「すみません、何かあったんですか?」

「何かあったか、じゃねえよ! このままだとここにもバケモノ共が襲ってくるかもしれないんだぞ!」


 そうして道行く人に何度か声を掛けていったところ、意外なことに割と簡単におおよその事態は把握できた。


 その内容は、これまで沖縄本島の南側でしか活動していなかった魔物。

 そいつらがつい最近になって急に行動範囲を広げ始めたというものだった。


 そしてその範囲は沖縄の北側まで広がっており、そこから奄美大島へと避難してきた人達が大勢いることで、今のこの混乱が生じているらしい。


(行動範囲が広がったってことは敵の支配領域が広がったってことだ。だとすると二つ目のダンジョンが発生したのはつい最近か?)


 敵の根城であるダンジョンが増えたことで範囲が広がったとすれば、残った魔族がこの地域に逃げ込んで何か画策した可能性もあり得るかもしれない。


 だが今はそれよりも重要なのは、沖縄本島北側にはまだまだ避難し切れていない人が大勢いるという点だった。


(こうなる前にもっと遠くに逃げてくれていれば……いや、混乱したこの状況下でそれを言うのは酷ってもんか)


 魔物についての情報など一般の人には欠片もないのだ。


 そんな情報がない中で最善の手を選び続けることなど無理難題というもの。


 それに結果論だが、もしかした避難した鹿児島やそれ以外の地域でダンジョンが発生する可能性だってあり得なくはなかったのだ。


 聖樹による聖域がない場所では、どこにダンジョンが現れてもおかしくはないのだから。


(とにかく、このままだと本島北側で避難し切れていない人達が全滅するかもしれない)


 このまま彼らの命が失われるような被害が出ることも避けなければならないし、そうなった際に敵に大量の御霊石が渡るのも不味い。


 それは敵の大幅な強化を意味しているのだから。


「緊急事態だ、クー。悪いが、急ぎで頼む」


 人気のないところに再度移動した俺はクーに頼む。


 するとクーも状況を理解しているのか何も言わずに成竜化すると、俺が背に乗った瞬間に力強く空へと羽ばたく。


 そして先程よりもずっと速く、俺が指示する沖縄本島への方向へと進んでいった。


(頼むから間に合ってくれよ)


 転移が可能なユニークスキルがあっても、どこにでも好きなタイミングで向かえる訳ではない。


 転移するためには転移マーカーを設置しなければならない。


 そのことは美夜を失った時に嫌というほど思い知ったことだ


「ギャー!」


 咆哮を上げる竜の背に乗りながら、俺は避難民の無事を願うしかなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る