第104話 救援
凄まじい速さで飛行するクーのおかげもあって、そう時間が掛からずに沖縄本島が見えてきた。
それと同時に強化された視界が魔物の姿を遠くからでも捉える。
(やっぱりガーゴイルだな)
見える範囲にいるのは動く石像の魔物、ガーゴイルだけだ。
あいつらは色々な石像の形をしているが、それらは別種類ではない。
正確には石像の中身のコアが魔物の本体であり、その周りを覆っている石像の肉体は単なるガワでしかないはずだった。
そのガーゴイルだが、どうやら数十体ほどの群れが船着き場を襲っているようだ。
そしてそこには避難民と思われる人々と、それを守ろうとする銃を手に持った自衛隊らしき人物がいるではないか。
自衛隊らしき人物達は手に持った銃で魔物を撃退しようとしているが、石像のように硬いガーゴイルの肉体に効果はあまり高くないらしい。
何発もの銃弾を撃ち込まれてもガーゴイルは中々消えることなく、その中の一体が防衛線を突破して避難民に襲い掛かろうとしている。
「魔闘気、発動」
このままでは犠牲が出る。そう思った俺は半ば無意識の内に魔闘気を発動した。
「クーはそのまま姿を隠して待機していてくれ」
こちらの世界ではあり得ない姿形をした生物である竜。
それを見た彼らが魔物だと勘違いして攻撃してくるかもしれないことを考えると、今は姿を現さない方が賢明だろう。
だから俺はクーがその場を通過する瞬間を狙って、背中らから飛び降りると一気に敵へと迫る。
そしてその勢いのままオークキングの大剣で今にも避難民の一角に到着しそうになっているガーゴイルを一刀両断してみせた。
「な、何だ!」
「新手か!?」
「いや、待て! こいつは、人間だぞ」
ガーゴイルを斬り捨てながら着地した俺に対して銃を向けてきた自衛隊連中だったが、こちらが人間であることを視認したおかげか、すぐに発砲してくるようなことはなかった。
「俺は覚醒者だ! 救援にきた!」
未だにガーゴイルが襲ってきている現状では長々と話をしている暇などない。
そう判断した俺はそれだけ大声で周りに告げると、大剣を手にガーゴイルの群れに単身で突っ込んでいく。
「基本的には俺がガーゴイルの相手をするから、擦り抜けた奴の対処は任せたぞ!」
「草壁隊長。ああ言ってますが、どうします?」
「この状況だ。味方が増えるなら何でも構わないさ。それにどうやら相当な
幾ら頑丈な身体を持つガーゴイルだとしても、魔闘気を使いながらオークキングの大剣を振るう俺の攻撃に耐えられるほどではない。
それもあって俺が剣を一振りするだけで狙われたガーゴイルはその肉体を大きく破壊され、魔石だけを残して消滅していく。
それでも数が数なだけに、全てのガーゴイルを一瞬で倒し切れる訳ではない。
俺の攻撃が届かない範囲にいる個体が現れることもあるが、それに関しては背後の自衛隊が落ち着いたのか、しっかりと対処してくれているので避難民の元まで辿り着くことはなさそうだった。
「マジかよ。あの頑丈な魔物が一撃とか、どんなバカ力なんだっての」
「あんな覚醒者がいるなんて聞いてないぞ。今までどこにいたんだ?」
「なんにせよ助かったな。あのままだと俺達どころか、民間人にも被害が出るのは避けられなかったぞ」
超聴覚で背後からそんな声がするのを拾いながらも、俺は魔闘気の効果が切れるまでの間にその場に存在する大半のガーゴイルを仕留めることに成功する。
(増援が送り込まれる様子はないか)
この場にいたのは四十体ほどのガーゴイルのみ。
上位種はいないし、ガーゴイル以外の魔物も見かけないので一旦は落ち着けるだろうか。
だけどこの場所が既に魔物が活動可能な敵の支配領域であることを考えると、これで襲撃が終わりだとは到底思えない。
敵からしたら避難民という御霊石を大量に入手できる格好の獲物がいるのだから。
普通なら遠くない内に新たな戦力を差し向けてくると考えられる。
その前に避難できる人達には避難してもらわなければ。
もっともそれについては俺が特に言わなくても大丈夫そうではあったが。
ガーゴイルの群れを退けたと確認が取れた時点で、自衛隊がその場にいた民間人を船に乗せるために動き始めたので。
「助かった。君のおかげで無事にこの場の民間人を本土の方に逃がすことができそうだ」
「それは良かった」
先程、草壁隊長と呼ばれていた人物が俺に話しかけてくる。
聞けば、この場の自衛官達は突如として行動範囲を広げた魔物から逃げ遅れた民間人を保護して、何とかこの船着き場まで来ていた最中だったとのこと。
そしてあと少しで避難が完了すると思われたところで、あのガーゴイルの群れが襲ってきたらしい。
「ただここには我々が連れている以外にも、多くの民間人がまだ避難し切れずに残っているはずだ」
だから可能であれば、その避難を行なうのに協力してほしい。
そう目の前の男は俺に告げてくる。
「それは構わないけど、良いのか? あんた達からしたら俺だって民間人の扱いだろうし、こんな素性の知れない怪しい奴を信頼して」
「実際のところはまるで良くはない。上に知られたら、それこそ叱責程度では済まないだろうな。だがこんな地獄のような状況で手段を選んでる場合じゃないし、魔物と戦える戦力はどれだけ有っても困ることはないだろう。ましてや君のような実力のある覚醒者なら、現場からすればそれこそ喉から手が出るほど欲しいってのが本音なのさ」
下手に上に報告すると、素性の確認などが必要とかになってしまうかもしれない。
そしてそれでは助けられるはずの民間人の救援が間に合わなくなるかもしれないし、部隊の犠牲も大きくなるだろう。
だから今は細かいことには目を瞑ってことにする。
だから上に報告するのは民間人の避難が終わってからにするそうだ。
「なにより現状だと、それだけの力がある覚醒者を捕縛するなんて土台無理な話だからな」
捕縛するにしても手錠なんてバカ力で破壊されるのがオチだし、仮に捕まえられたとしても逃げ出さないように隊員を見張りに立てるだけの戦力的な余裕が皆無なのだと、目の前の男はぶっちゃけてくる。
「まあ俺も捕まえようするなら逃げるつもりだし、この状況下において人間同士で無駄な争いをすることほど愚かなことはないだろうな」
「そうだろう? という訳で改めて協力してくれないか。まだまだ避難し切れていない民間人が大勢いるんだ」
御霊石を敵に奪われたくないという思惑がこちらにもある以上、協力すること自体に否はない。
(俺達だけだと大勢の避難民の誘導とかまで手が回らないだろうからな)
それに以前からこの場にいた彼らから新たなダンジョンが出来た時の状況や、未だに姿の見えないもう一種類の魔物の情報などが得られるかもしれない。
(なんにしても、まずは叶恵を連れてくるか)
戦力の補充、まずはそれからだ。
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