第101話 地竜の赤子

 小さなトリケラトプスのような外見をしている、地竜の子供であるチっくん。


 脈絡なく忽然と現れたように思えるこいつだが、別にクーの時の様に茜がこっそりと隠していたとかではない。


「ダンジョン攻略の報酬でスキルが手に入ることはあるのは知ってたけど、ショップの物が手に入るケースもあるんだな」


 大阪のダンジョンを攻略したことにより、俺は新たに危機感知という5000Pスキルを入手していた。


 これはこれで役に立つものだったので良かったのだが、茜が手に入れた報酬と比較すると価値がまるで違うというものだろう。


 なにせ子供とはいえ竜だ。


 幼過ぎるのかクーと違ってこのままでは戦力にならないようだが、それでも成竜の飴は使える。


 つまり一時的になら大人の状態になれるのだ。

 そうなれば十分過ぎる力を発揮できるというもの。


 実際にその状態も確認しており、防衛戦に置いて非常に有用そうなのは間違いなかった。


 ちなみに茜と共に叶恵にはそのような報酬はなかったので、どうやら複数名の場合はダンジョン攻略の特別な報酬とやらはボスを討伐した人物にのみ与えられるようだ。


「キュー!」

「食べ物が欲しいの? ちょっと待ってね。今、用意するから」


 茜に抱っこされたまま甘えた様子で鳴いてご飯を催促するチッくん。


 それに対して茜は優しく答えているし、クーも弟だとでも思っているのか甲斐甲斐しく世話をしている。


 と言うか茜も子供なはずなのだが、子守するその姿は何と言うか実に様になっていた。


(流石はあっちでも同じような経験をしてるだけあるな)


 あっちでは親世代の竜に気に入られた後、その子供を紹介されたらしい。


 その際に子供の竜の育て方や対処の仕方も自然と学んだようだ。


 本来なら手に入れるのに大量のポイントと魔力が必要な永続型のこの地竜の赤子。それを持ち前の運で見事に引き当てた茜だったが、それで万事解決となる訳ではない。


 何故ならクーと違って、これらの竜の赤子は最初の内は自分で成長のための魔力などのエネルギーを上手く吸収することが出来ないようなのだ。


「クーが幼い子供なら、チッ君は赤ちゃんってところか」

「人間なら親にミルクを与えてもらってる感じでしょうね。まあ赤ちゃんにしては些か以上に強過ぎる気がしないでもないけど」


 幸いにも竜の友というユニークスキルを持つ茜や同族の竜であるクーから活動するためのエネルギーを分け与えることは可能なようだし、更に言えば無限魔力供給機関である俺という存在もいる。


 なので成長のためのエネルギー供給に関しては今のところ問題はないはずだ。


「美味しい?」

「キュー」


 茜から差し出された普通の牛肉をパクパクと食みながらチっくんは嬉しそうに鳴いている。


(俺の魔力譲渡でほぼ常時魔力を食ってるはずなのに、それだけじゃ全然足りないってか。やっぱり竜はどいつもこいつも大飯喰らいなんだな)


 魔力以外でも茜が差し出した食べ物や魔石やらを美味しそうにかなりの量を食べているのだが、今のところその身体が大きく成長するとかの変化はない。


 やはり竜という強大な生物が力を付けるためには生半可ではない大量のエネルギーが必要となるということなのだろう。


 まあそれだけの価値がある存在なので、そのために労力を割くこと自体は問題ない。


 こいつがクーくらいになるまで成長してくれるだけでも、戦力的なリターンとしてはデカ過ぎるのだから。


 だけどその代わりと言っては何だが、茜はしばらくの間はチッくんの世話に掛かりきりとなるしかないのだった。


 なにせ赤子のチッくんは茜のことを母親と思っているのか、少しの時間でも姿が見えないだけで盛大に鳴いて暴れ出すのである。


 それも最終的には自分が傷つくことも厭わずに。


(仮に無理矢理抑えられたとしても、それで自傷されて死なれたら意味がないからな)


 またそれで信頼関係の構築に失敗してしまえば、成長させた後にこちらに協力してくれなくなるかもしれないと茜は言うのだ。


 戦力不足が深刻な今、その貴重な戦力を失うような事態は絶対に避けなければならない。


「となると茜は沖縄のダンジョン攻略には不参加だな。流石に赤子のチッくんを抱えたまま挑む訳にもいかんだろうし」

「うん、無茶はしない方が良いと思う。私やクーちゃんはともかく、チっくんはまだまだ力が足りてないし」


 いざという時は成竜の飴で大人になれるとは言え、それはあくまで一時的な話だ。


 それに不意を突かれて赤子の状態の時に魔族などから攻撃を受けたら、下手すれば死ぬこともあり得る。


 となれば危険な場所に連れて行くのは避けるのが賢明というものだろう。


「でもその代わり沖縄まではクーちゃんが運んでくれるって」

「だとしたらまずは俺がクーの背中に乗って沖縄まで行くことにするか。それで転移できるようになったら叶恵を連れてくればいいだろ」

「まあ二人で長々とクーの背中にいるよりはその方がいいでしょうね」


 やらなければならないことは山積みだし、のんびり竜の背中での旅を楽しんでいる暇などないのだから。


 ちなみに本当ならクーだけを派遣して沖縄についたら俺が転移するのが最も効率的ではあるのだが、こちらの世界の地理などに詳しくないクーだけだと沖縄に辿り着けるか不安が残るので、こういう形となったのだった。

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