第100話 拡張された機能 倉庫と厨房

 今のところ日本に残された最後のダンジョンがある沖縄。


 すぐにそこに向かってしまいたいところではあるが、その前に確認しておかなければならない事などがある。


 その内に一つが拡張された聖樹の機能だ。


 俺と叶恵達によって新たに二つのダンジョンが攻略されて、その場所に新たな聖樹も設置された。


 つまりそれによって聖樹にまた新たな機能が追加されることとなった訳だ。


「それがこの倉庫と厨房ってことだな」


 恒例のことながらこれらの施設を作るのにも維持するのにもエネルギーが必要となる。


 だが俺のユニークスキルや聖樹の数が増えたことで一日に生み出されるエネルギーが増えたこともあり、問題なくそれらの施設を作り出して維持することは可能であった。


 もっとも流石に規模を大きくするのには限界があるだろうが。


(本来ならもっと大量の聖樹が存在して、その辺りの心配もいらなかっただろうに)


 敵に奪われなければこれらの施設がもっと楽に使えていたことを考えると、実に惜しいと思わざるを得ない。


 居住区だって今の何倍にできていたらもっと多くの人を避難させることも可能だっただろうし。


 もっともその事に文句を言ったところでどうにかなることでもないから仕方がないと諦めるしかないが。


 無駄に愚痴るよりもその理想に近づける努力をした方が賢明だろうし。


 なお倉庫も厨房も、その名前から推察できる通りのものだった。


 倉庫は中に生物以外の物体を収納でき、そこでは時間が停止した状態となるようだ。


 つまり農場などで実った作物を半永久的に保存しておけるのである。


 これで一先ず大量の作物を作っても腐らせる心配がなくなった形だろう。


 これは以前にも望んでいた機能なので、このタイミングで実装されたのはかなり助かった。


(厨房で作った料理などもここで保管しておけるみたいだしな)


 厨房もその名の通りの効果を持っており、そこでは持ち込んだ食材やエネルギーを消費して料理などを作れる場所だった。


 そしてそれらの機能を使わないで普通に料理も可能なようだ。そのために各種調理施設も揃えられている。


 居住区の家にも料理が出来る施設は追加できるが、それはあくまで最低限のもの。精々簡単な家庭料理を作るのが限界だろう、


 それこそ大勢の人間に料理を作るとなったらどう考えても間に合わない。


(恐らく聖樹の中に避難させた人々の食事はここで用意しろってことだろうな)


 また特別な食材を使った料理は一時的にステータスを上昇させるなどの特殊な効果を発揮させることもできるようで、その辺りは要検証といったところだろう。


 特別な食材の候補としては大地礼賛で作られた作物などもあるし、それでどんな効果が発生するかも早めに確認しなければ。


 こちらにとって有利となる手段は幾ら有っても困ることはない。


 ならばどんな些細な事でも利用するべき。


 ただでさえこちらは聖樹という大事な拠点を奪われている不利な状況なのだから。


「一日でダンジョンが創り出せる魔物の数も、聖樹が作り出すエネルギーも順調に増えているみたいだし、結構良い調子なんじゃない?」

「そうだな。だけどまだまだ十分には程遠い」


 聖樹は俺達だけで利用するためにあるのではない。


 日本や世界中の人が利用することを考えれば、この程度の規模では全く足りてないのだ。


 それにこの調子だと今後も色んな生産拠点などが追加されていきそうだし、それを考えれば聖樹自体が生み出すエネルギーも、もっともっと増やしておきたいところだった。


 それに聖樹の数が増えれば、俺の魔力譲渡の供給先も増える。


 今のところは魔力譲渡の限界が訪れる兆候はないし、その限界が来るまではどんどん聖樹の数を増やして魔力の供給も欠かさないつもりだった。


(今のところ聖樹が攻め込まれるなんてこともないけど、いつまでもそうだなんてことは絶対にあり得ない。だとすると襲撃があった時に防衛にどれだけのエネルギーを消耗するかも結構重要になってきそうだな)


 その辺りは実際にやってみないことには分からないことも多いので、十分なエネルギーだけは確保しておいてその時が来るのを待つしかないだろう。


「まあ防衛に関しては頼もしい戦力が増えたことだし、そこまで心配はしてないけどな」

「でしょうね。てか生半可な魔族なら相手にもならないじゃない?」


 そういう俺と叶恵の視線の先には茜によって抱きかかえられた一体の竜の子供が存在している。


 そしてそれはクーではなかった。


「うん、任せて。チッくんは守りが得意な子だから」

「キュー?」


 茜が自信満々な様子を見せるのに対して、チッくんと呼ばれた地竜の子供はよく分からないといった様子で可愛らしく小首を傾げていた。

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