第99話 叶恵と茜と魔族との戦い

「へーそっちも色々と大変だったみたいね」

「それは否定しないが、魔族が現れたそっちよりはマシだったろうよ」

「そうでもないと思うけど。だってこっちはボスも魔族も全然相手にならなかったし」


 無事に新潟のダンジョンを攻略して、更にその後に現れた魔族も圧倒的な力で叩きのめしたというのに、目の前の女傑二人は平然としていた。


 それこそクーは勿論の事、二人して傷一つ負うことなく楽勝だったというのだから流石と言うしかないだろう。


「でも良かったわね。もし私達が大阪の方に行ってたら、まんまと敵の罠に引っ掛かってたかもしれないもの」

「そうだね、クーちゃんも私もそういうのの相手は苦手だし」


 茜とクーはそうだと思うが、勘の鋭い叶恵ならそんなことはないのではないか。


 そう思ったがここでそれを口にすると、叶恵以外を敵に回す恐れがあるので止めておいた。


 なにより茜に抱っこされて気持ちよさそうにしているクーの怒りを無駄に買うと酷い目に遭わされそうだし。


「こっちのことは今、話した通りだ」


 あの凄惨な現場となっていた場所は燃やしてからその場を後にした。


 死体は損壊が激し過ぎて身元が分かるようなものは何もなかったし、ハーピー達がいなくなったのなら放置すれば死体も腐敗してしまっただろうから。


(それに自衛隊が発見した死体を持ち帰って研究するとかもなくはないからな)


 グールから人間に戻そうと研究している奴らからすれば、グールとならなかった死体は研究の対象となってもおかしくない代物だ。


 それを調べればグールとの差異も分かるという風に。


 だがそれはあまりに惨いではないか。


 死んだ後に今度は同じ人間の手で、弄繰り回されるかもしれないなんて。


 だから燃やして全てを灰にしたのは 俺なりのせめてもの供養という奴であった。


 死んだ後くらいは、せめて安らかに眠れるように。


「優しいのね。その現場を利用して敵の邪悪さを知らしめるのに利用することもできたってのに」


 一見すると褒めるような言葉に聞こえるが、実際にはこちらを揶揄するような意味が込められているのが分かった。


「何だよ、甘いと言いたいのか?」

「まあね。少なくとも私ならそれすら利用した。聖女様と違って復活する可能性のない死体なんだから」


 確かに理屈だけで言うなら叶恵が正しい。


 死体などただのタンパク質の塊と見る考え方があるのも、好きではないが否定はできないし。


「うーん、カナちゃんが言ってることの方が理屈としては正しいんだとは思うよ。だけど気持ちとしては譲兄のが分かる感じかも」


 まだ子供の茜がこんなフォローすることを言ってのけてしまえるのは、果たして喜んでいいものなのだろうか。


 その力を利用している俺が言える立場ではないかもしれないが、どう考えても普通の子供とはかけ離れてしまっているのが如実に出ているし。


「まあそもそも私達が理屈で動くような人間なら、こっちの世界に戻ってくるなんて選択肢を選ばなかった。それを考えればその決断もある意味では当然の事かもしれないわね」


 こんな事態にならなければ俺達は神から与えられた力は封じられて、何の変哲もない一般人として生きていくはずだった。


 それに対して異世界に残れば与えられた力はそのままだったことからも、強大な力を駆使して生きていけたことだろう。


 普通に考えれば、理屈だけで考えるならどちらを選ぶべきかなど分かり切っている。


 それでもそちらを選ばなかった時点で、俺達は多かれ少なかれ理屈以外の感情などを捨てられないことを示しているのだった。


 俺で言えば、かつて仲間のアンデッドを始末した経験があるせいか、死後の安らぎを汚すことを嫌っているような感じだろうか。


 美夜の件があるように絶対にではないが、可能な限りそうしたいという思いがどうしてもあるのである。


「まあそんな些細なことよりももっと重要なこっちの方の話に戻すとして……」


 茜と叶恵が挑んだダンジョンは塔のような形の場所を登っていくようなところだったらしい。


 そこには複数の階層が存在しており、それぞれの階層で色々な試練を課されたとのこと。


「これまた面倒な事に、攻略にはかなりの時間が掛かる構造をしていたのよ」

「念のために朝から挑んだのに、ボスを倒したのは夕方だったもんね」


 それでも圧倒的な戦力で蹂躙しながら進みボスも討伐も成功。


 奉納も終わってダンジョン消滅も決定し、あとは帰るだけだと思って外に飛ばされたところで魔族が強襲してきた。


「て言ってもクーちゃんの不意を突ける訳ないのにね」


 が、残念なことに感知能力にも優れているクーの隙を突くなど土台無理な話だった。


 だから攻撃を仕掛けたはずの魔族が逆にクーによって四肢をもがれることになったそうな。


 それもほんの一瞬で。


「無力化に成功した後はエネルギードレインとかを駆使して拷問。それで死ぬまでの間に結構情報を吐かせることに成功したわ。そして結論から言うと、日本にはもう一体だけ魔族がいるみたい」


 そして今回のハーピーの件を仕組んだのもそいつとのこと。


 倒された魔族は短絡的な上にバカだったらしく、勝ち誇って大阪にはそいつが仕掛けた罠があると言っていたらしいし。


「ってことは最後の沖縄でそいつが待ち受けていると見るべきか」

「例の件からして、他とは比較にならないくらいに性格悪そうだし、これまでの魔族よりも手強い相手かもしれないわね」


 だとしてもここで手を緩めることはできない。

 そう、やるしかないのだ。


 残された最後の魔族がまた妙な企てをする前に。

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