第96話 ハーピークイーン討伐
ハーピーは悪知恵が働く厄介な相手だが、それは小賢しい策謀を巡らせるからこそ。
だからこうして直接戦闘の場に引きずり出してしまえば、その本領を十全に発揮することは難しくなる。
「この数相手に単身で乗り込んでくるとは随分と自信があるようだな! だが!?」
驚愕の表情を浮かべた個体は、言葉の途中で地面へと落下していく。
こちらの剣で斬られたことによって激しく血を流しながら。
「この状況でお前らと問答をするなんて時間の無駄でしかない。時間稼ぎなのは目に見えてるからな」
だってそれくらいしかないのだ。
追い込まれたこいつらに勝ち目のある戦い方は。
鋭い爪の生えた足でこちらを切り裂こうと何匹もハーピーが突撃してくる。
または翼を使って巻き起こした風でこちらにぶつけようとしている個体もいるようだ。
無論の事、これもある程度までの相手なら通用しただろう。
それこそ普通の自衛隊などにとっては相当な脅威となったに違いない。
だが無駄だ。
俺のステータスは既にこいつらよりも圧倒的に上になっている。
それに単純な戦闘力という面でオークよりも遥かに劣るこいつらが幾ら束になったところで、魔闘気を使っていない俺ですら倒すことは難しいのだから。
(どうせこれまで散々、罪のない一般人を言葉巧みに弄んできたんだろう? その報いをここで受けろ)
俺はオークキングの大剣や魔法や駆使してハーピーの群れを容赦なく蹂躙していく。
それはまるで吹き荒れる嵐のようであり、そこに僅かでも巻き込まれたハーピーはなす術なく呑み込まれて命を落とすしかない。
「アイスボール」
最も早く発動できる魔法であるそれも、今やレベルⅤになったことで五十発まで一度に生みさせるようになった。
だからそれらを周囲に向けて一斉に掃射するだけで、凍り付いたハーピー共は地面に落下して落下の衝撃で砕け散ることになる。
運の良い個体は羽だけ凍るなどで即死はしていないようだが、空を主戦場とするハーピーが地べたを這いずり回ることしかできないようでは終わりなのに変わりない。
生命探知や超聴覚などを駆使して、群れの後方などに控えている指示を出していると思われる個体から狙っていく。
こういう場合、頭を失った集団は脆い。
それをよく知っているから。
「止めて!」
「どうして私達を殺すの? 私達だって生きただけなのに!」
「死にたくないの、お願い殺さないで……」
「仲良くしましょう? 争っても誰も喜ばないわ」
「そうよ、仲良くしましょう? 同じ命じゃない」
(やかましいな、クソ鳥共が)
命乞いや情けを求める言葉に始まり、こちらの動揺を誘おうとありとあらゆる言葉で揺さぶりをかけてくる相手。
だが生憎とそれらの言葉で動揺することなど皆無だった。
(魔物は殺す。今更そこがブレるものかよ)
どんな言葉を投げかけられても反応せずに淡々と群れを処分していく姿を見てハーピー達も悟ってはいるのだろう。
その声掛けが何の意味もなしていないことに。
だけどそれでも奴らはそうするしかないのだ。
それ以外に打つ手がないから。
なにせランク13となっている俺のAGIは遂に100を超えている。
それも魔闘気を使っていない素の状態で。
それだけあれば通常種どころか、その上位種であるハーピーリーダーであろうともこちらの動きについてくることは難しい。
だからオークキングの大剣から放たれる飛ぶ斬撃によって、刎ねられたリーダーと思われる個体の首が空中を舞うことになるのも何ら不思議な事ではない。
むしろ当然の結末とさえ言えるだろう。
「それで女王はどこにいる? どうせ群れの頂点としてボスのハーピークイーンがいるんだろ?」
「それが分かるということは、貴様はやはり異世界からの帰還者か!」
まともな回答をしなかった個体を生かしておく必要はないので、斬撃で上半身と下半身の二つに肉体を分かれるようにしてやる。
「教えないなら構わないさ。全てを狩り尽くせばいいだけの話だからな」
逆にこちらの挑発に乗ってハーピークイーンが現れてくれても問題はない。
どちらにせよ俺からすれば敵を殲滅するのは決定事項なのだし、それが遅くなるか早くなるかの違いでしかないのだから。
「キー!」
そこでひと際、甲高い鳴き声が超聴覚を使用した俺の耳に飛び込んでくる。
(この鳴き声、ようやくお出ましか)
そこでこれまで姿を隠していたと思われるハーピークイーンの声が、とある方向から聞こえてくる。
大量の通常のハーピーで姿は見えないが、その中に姿を隠しているようだ。
(わざわざ居場所が割れる危険を冒して鳴き声を発したってことは何かするつもりだな)
そしてその群れの頂点である絶対者の言葉を聞いたことで覚悟を決めたのか、通常のハーピー共は無駄な会話を止めて、なんと次の瞬間には近くにいた仲間に爪を立てて血を流し始める。
そして同士討ちによって流れた血は重力に逆らってフワフワと浮き上がると、ある地点へと集まり始めた。
その場所にこそこいつらの群れの頂点であるハーピークイーンがいるのだ。
そして見ての通り、こうやって同胞の血を捧げることで力の全てを女王一体に集めるつもりなのだろう。
オークキングほどではないがハーピークイーンもそれなりの力は有している魔物だ。
少なくとも通常の魔物よりはずっと手強いと言っていい。
そんな奴に全ての力が結集したのなら、あるいはオークキングよりもずっと強くなる可能性も秘めていたかもしれない。
「魔闘気、発動」
だけどこちらがそれを待ってやる義理などない。
(鳴いて指示を出したのが間違いだったな)
黙っていれば隠れていればまだ分からなかったかもしれないが、音を出したら超聴覚で居場所を捉えることができる。
それにそうでなくても血の集まっていく方向からおおよその位置を把握することは難しくなかった。
それを証明するように俺はこれまで以上の速さを持って、その隠れている敵へと接近する。
「ま、待て!? 話し合いを!」
「黙ってろ、さっきからうるせえんだよ」
他の個体の例に漏れず、どうにか命乞いで時間を稼ごうとしたハーピークイーンは、集まっていた血の塊を取り込む前にオークキングの大剣によって頭から両断される。
こうして群れの女王は抵抗する間も与えられず、実に呆気なく仕留められるのだった。
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