第95話 急襲作戦
叡智の書は所有者の望みを反映して知りたいと思った全ての事柄が記される。
そこに偽りは絶対にありえない。
だからそれを使えば神の使いの中にいるかもしれない例の裏切者の特定も簡単だと思うだろう。
だけど残念ながらそうはいかない。
何故なら叡智の書の所有者にとって未知の事柄や情報がないことを記すためには多くの魔力やポイントが必要になるからだ。
だから裏切り者の存在を知った先生はそれを調べようとしたが、念入りに隠されている上に手掛かりがないこともあり、それを暴くことは叶わなかったらしい。
まあそうでなければとっくの昔に裏切者の問題は解決していたので、ある意味でそれも当然だが。
だが今回の質問は、俺が特定した鍵があると思われる場所に本当に鍵があるのかどうか、だ。つまりある程度までの情報収集は済んでいる。
そしてその結果は、
「くそ、やっぱり罠だったのかよ」
『そのようじゃのう。となるとそこに奇襲を仕掛けなくて正解だったみたいじゃな』
俺が突き止めたハーピー達が隠れている民家にはダンジョンの鍵はないとのこと。
つまりあそこは敵を誘き寄せるための罠だったことが判明した訳である。
これだから知恵のある魔物は厄介なのだ。
難しいことは考えずに力押しでどうにかできたこれまでの奴らと違うし、色々と考えて対応も変えなければならないので。
『それで鍵のある場所は特定できそうか?』
『ふむ……どうやらそこからかなり近くにあるようじゃ。と言うことは恐らく、そちらの本命の場所は結界か何かで隠されておるのじゃろう』
そうでなければ昨日の時点で俺も気付いたはずだからそれは間違いないだろう。
『なるほど、それが分かれば十分だ』
『これで片は付くかのう?』
『ああ、助かったよ、ここからは俺だけで十分だし、残りは別の事を調べるのに使ってくれ』
昨日は例の民家にばかり注目していたし、そこの奴らに気付かれないようになるべく動かないようにしていたこともあって本命の場所については掴めなかった。
だが近くにあると分かったのなら問題ない。
今日中に生命探知などの感知系のスキルを総動員して、その隠された場所をあちらに気取られる前に暴いてやる。
そしてそこからは一気にダンジョンも攻略してやろうではないか。
これ以上、敵がどんな作戦を練っていたとしても、それを実行させる暇など与えずに。
そうして転移で昨日の場所まで戻った俺は、相変わらず結界もなしに民家に居座っているハーピー共の存在は無視して、その周囲を調べ始める。
勿論、そのことを誰かに見つからないように慎重に。
(……ここだな)
そして見つけた。
例の民家からそう遠くない別の建物の中に、僅かな生命の反応があるのを。
隠蔽されているせいでかなり近寄らなければ分からなかったが、注意して調べたので間違いない。
更に超嗅覚などでも不自然にそこで匂いが途切れているではないか。
これは隠蔽しているせいで、そこから先の匂いが辿れなくなっているのだ。
こんな何か隠していますと言わんばかりの不自然な痕跡があるのならほぼ間違いないだろう。
ここにダンジョンに入るための鍵がある。
(そして敵はここを気付かれたとは思ってないはず)
普通ならデコイとして用意されたあの民家に辿り着く。
ハーピー共を追跡した俺がそうであったように。
だがこちらにその欺瞞が通用しない相手がいたことで、今度こそ先制が取れるはずだった。
「よし、ここからは一気に行くか」
まずは鍵の奪取だ。
俺は魔闘気を発動すると、全力でその建物に向かって突っ込んでいく。
猛スピードで建物の中に侵入しようとした俺を、張られていた結界が阻もうとするがその抵抗は無駄だった。
なにせこちらの圧倒的な力の前に、結界はほんの僅かも耐えることはできずに砕け散ることになったからだ。
そして砕け散った結界が完全に消滅する前に侵入を果たした俺は、中にいたハーピーを見つけると一瞬でそれらを切り伏せていく。
(鍵は……あいつだな)
その中にリーダーと思われる個体を見つけた。
他の奴よりも体が大きく、周りのハーピーも咄嗟にそいつを守ろうと動いているので間違いないだろう。
「な、何者だ!?」
(答える訳ねえだろ。てか黙って死んでろ)
一応、それが演技である可能性も考慮して周囲に逃げる個体がいないかも生命探知などで確認しながら、俺はオークキングの大剣の飛ぶ斬撃を駆使して全てのハーピーを倒し切る。
そして予想通りにそのハーピーリーダーという魔物の魔石とダンジョンの鍵も手に入れた。
(ここを襲ったこともいずれ気付かれるだろうし、早めにダンジョンに向かおう)
あるいはもう既に気付かれているか。
賢しいハーピーのことだから結界を破られた通知が行くようにしていてもおかしくはないだろうし。
まあなんにしても迅速に行動するべきだった。
そうすればするだけ敵が準備をする時間を奪えるのだし。
だから俺はすぐに転移を発動すると、奴らの本拠地のダンジョンが存在している通天閣の傍に移動する。そして鍵を使ってダンジョンの封印を解いて、
「おっと、お出迎えか」
ダンジョンの中に入ると熱烈な歓迎を受けた。
なにせ大量のハーピーが転移してきた俺を待ち構えるように周囲を飛び回っているので。
もっとも全員がこの事態に対応できてはいないのか、大半が驚いて隊列などバラバラなようだが。
「貴様、どうやって鍵の場所を突き止めた! あそこは結界で隠してあったはずだ!」
「誰が教えるかよ」
そんな中でも自衛隊と交渉していた個体が問い掛けてくるが、そんな問答に付き合う気など更々ない。
俺はオークキングの大剣を構えると、そこに全力で魔力を込め始めた。
「斬り刻んでやるよ、厄介なクソ鳥共が」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます