第4章 解放と進化

第89話 生産拠点の確立

 適材適所というのだろう。


 聖樹の中に新たにできた農場という施設で大樹はその大地礼賛という能力だけでなく、元々土いじりが好きなこともあって実に生き生きと活動しているらしい。


『で、大地礼賛で作った農作物の方がショップでの売却額は高いと』


 聖樹のことを先生や大樹たちに任せて残るダンジョンが存在する大阪に向かっている俺にそんな報告が齎される。


『んだ。オラがユニークスキルを使った作物は物にも依るが、一つで数十から百ポイントくらいで売れるみたいだべ』


 普通の作物だと高くても十くらいしか値段が付かないことを考えたら数倍から十倍の値段ではないか。


 そしてこれを活用できれば魔物を倒せなくてもポイントをある程度までは稼げそうである。


『今後はオラのユニークスキルが作物にどんな影響を及ぼすのかも含めて、色々と調べてみるつもりだべ。難しいことはよく分からんけど、その辺りは一鉄さんや先生も協力してくれるって話だしな』

『今の俺はダンジョン攻略の方が忙しくて、そっちのことまで見るのは無理だろうからな。悪いが頼むよ』


 最初から最後までユニークスキルを使わないでも売れるポイント額が変化するのか。


 発芽をするところまでと、実を成すところまでユニークスキルを行使するのではまた色々と違ってきそうだし。


 それに売却額以外でも食べ物としてユニークスキルや聖樹の機能など特殊な力を利用した物は普通の作物と何らかの違いがある可能性も否定できない。


 今後の世界がどうなるかは分からないが、聖樹の中で食料を大量生産しなければならなくなった時のことを考えて、その辺りの事もはっきりさせておいた方が賢明だろう。


異世界あっちではオラの能力で育てた作物は食べれば少しの間だけ力を増すとかもあったし、もしかしたらこっちでも同じような形で皆を援護できるかもしれねえ。オラ、魔物と戦うことは出来ねえからそっちの方で頑張るつもりだ』

『その気持ちは有難いが無理はするなよ』


 一鉄もそうだが、特別な能力を与えられた奴らはその能力故に出来ることが多いからこそ無理をしてしまう人が多いのだった。


 ぶっちゃけると過労で倒れても聖樹の中にある救護施設に運び込めばどうにかなるとは思うのだが、それを端から当てにして無理するのが当たり前になるのは決して良いことではないだろうという面もある。


(健康面以外でも色々と問題が出そうだしな)


 どの施設も稼働させるのにはエネルギーを消耗するのだから、それを浪費する前提でいるのは良くない。


 何故なら俺が魔力譲渡でエネルギーを供給できないことも考えていかなければいかないからだ。


 でなければ俺に何かあって魔力を供給できなくなった途端に聖樹の運用が破綻しかねないし。


『それで、そっちのダンジョン攻略の方は順調なんか?』

『生憎と俺はまだ予定通り愛知から大阪に移動している最中だよ』


 愛知の聖樹から車で大阪に向かっているのだが、まだ交通網が麻痺し始めていることもあってまだ目的地に到着するところまで至っていなかった。


 当然、範囲外では魔物が現れることも無いので特に問題は起きてはいない感じである。


『ただ叶恵と茜はもう新潟に到着して、ダンジョン捜索を始めているみたいだな』


 二人も奉納者のジョブを手に入れているので、ある程度ならダンジョンの場所は分かるようになっている。


 門番がどういう形になっているかにもよるだろうが、あの二人がいるならそう遠くない内にダンジョン攻略も成し遂げることだろう。


(脱出ポイントとかも俺が魔力譲渡しているからMPでどうにかなるだろうしな)


 普通なら一晩でダンジョンを攻略するためには大量のポイント、もしくは必要な数の魔石や御霊石を用意する必要がある。


 個人のHPやMPでは普通ならどうやってもそれらを稼働させるためのエネルギーを満たすことが難しいのだから。


 だけど二人を始めとして異世界からの帰還者達には尽きることのないMPが俺によって常に供給されているのだ。


 それがあればMPによる奉納も可能であり、だからこそ魔石や御霊石を用意する手間も必要ない訳である。


『オラ、美味しい野菜や果物を作って待ってるし、なんならそれらを使って手料理を振る舞うべ。だからそっちも無理せず無事に戻ってきてくれな』

『ああ、それは分かってるよ』


 残り三つのダンジョンを攻略し終わって一区切りついたら、その時は盛大に祝うこと約束して俺は大樹との念話を終える。


 たぶんだがその後も別の地域にダンジョンが現れて、その対応をすることになると思われた。


 つまり日本を解放してもそこで終わりでは決してない。


 だけどずっと緊張し続けていては心が持たないし、長い戦いを乗り越えるためにもそういうご褒美とか心が安らぐことがあった方が良い。


 そのことを俺達は異世界の戦いで嫌になるほど思い知らされたものだ。


 だからだろうか。

 後でこの話を聞いた叶恵や茜などは自分の好きなフルーツの盛り合わせなどを大量に作ってくれるように、割と遠慮なく大樹に要望を出しているらしい。


 まあ何もせずにそんなことを言い出されたら困ったものだが、それに見合うだけの働きをしているのだからこちらとしても文句はない。


(二人が攻略を終える前に大阪の方も攻略して聖樹を植えてしまいたいな)


 これから攻略するどちらかのダンジョンで新たな聖樹の種が得られれば、そのまま合流して沖縄のダンジョンに挑めばいい。


 そうでなかった場合は聖樹を植えられないのを承知の上で、とりあえずダンジョン攻略するだけにするとかを決めなければならないだろうが、それについてはやってみない事には分からないのである。


「なんにせよ早めにダンジョンを攻略するしかないな」


 出現している魔物もそう強い種族ではないので難しくないだろう。


 そう考えていた俺はこの時、まるで予想していなかった。


 そういった魔物の強さとは別に面倒な問題が俺達の前に立ちはだかることになるなんて。

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