第88話 追憶 魔女と賢者が導き出した結論と兵器

 古今東西、異世界のありとあらゆる魔法を習得できることが可能な力を与えられた少女は、その能力もあって魔女と称されていた。


「つまり結論から言うと、アンタの中に無限の魔力なんてものは存在しねえ」


 そしてその俺よりも二つほど年下の魔女から俺は自身に与えられた能力を真っ向から否定されてしまっていた。


 場所は賢者と称されることも多い先生が誰にも知られないように密かに作っていた魔法の研究所兼隠れ家であり、この場には俺とガラの悪い魔女しかいなかった。


「俺の中に魔力がないって、どういうことだよ?」


 勇者や聖女だけなく、この魔女にだって既に何度も隠れて魔力譲渡をしたことがあるのだ。


 譲渡だから魔力を回復させているのではなく渡している訳で、その元となるものがなければ譲渡しようがないではないか。


「別にその膨大な魔力がない存在しないとは言ってねえよ。あくまでアンタの中にはないってだけでな」

「つまり膨大の魔力は俺の中以外にあるってことか?」


 俺の中にないなら別の場所にある。


 そういう結論しか出てこなかったがこの考えは間違ってはいなかったらしい。


「そういうこった。んで賢者と称された先生様の協力の元に色々とアンタの身体とかを調べた結果なんだけど、アンタの体内に保有されている魔力は、やっぱりこっちの世界の常人以下しかないねえみてえだな。血とか諸々で検査した数字も全てその事実を示してやがる」


 渡された資料には俺の身体の中にある魔力はどう考えても他者に分け与えられるものではない。


 それどころか異世界の普通の奴よりも圧倒的に下回っていることを如実に示していた。


 と言ってもどうも異世界での魔力量は遺伝と鍛錬で決定するようで、つい最近まで全く鍛錬を積んでいなかった異世界人達の魔力量が多くないのはおかしな事ではない。


 ただそれだと全ての異世界人が魔力不足で満足に与えられた能力を使えないから、大半の異世界人には一定の魔力増加の恩恵をセットで与えられているようだが。


 でなければ目の前の魔女だって魔法の知識だけは得られても実際にはほとんど使えないとかになってしまうので。


「アタシに与えられた魔力量限界突破は例外としても、あんたには普通の奴が持っている程度の魔力増加の恩恵すら与えられてないのは間違いねえよ。最低限魔力に適応はされてるみたいだけど、それでも体内の魔力はこっちに送り込まれてから鍛錬した分だけしかないのはこの資料からも明らかだからな」


 悲しいことに、そこには異世界の小さな子供にすら負けている俺自身の魔力量が記されていた。


 これを読む限りでは鍛錬をしていないのも原因の一つではあるが、それ以前に遺伝的にも俺自身の魔力量は決して多くはないらしい。


「だとすると勇者やお前達に供給してる膨大な魔力はどこにあるんだ?」

「それはアタシにも分からねえよ。ただこの世界のどこにもそんな魔力の源泉が発見されたって話はないし、たぶんアタシ達をこの世界の送り込んだ神様たちの元にでもあるんじゃねえの?」


 それにそれよりも今はもっと大切なことがあると魔女は続ける。


「これまでの経緯からして、膨大な魔力が神様だかのとこに存在するのも、そしてそれをアンタが他人に与えられるのも間違いない。だけど恐らくアンタに与えられたのは、それをどこに流すかの権限だけって感じんだなんだろうよ」


 尽きぬ電気を供給する発電所がどこかに存在しており、そこで生まれた電気を送る先を俺は任意で決定することが可能となっている。


 だけどあくまで俺が操作できるのはどこにその電気を送るかを決めるだけという感じらしい。


 だから俺自身の魔力量は僅かしかなく、それ故にまともに魔力を扱うこともできない。


 勿論その送り先を自分自身にすることも出来なくはないのだが、実は前にそれをやった時は死にかけたのだ。


 流れ込む膨大な魔力の量に肉体が耐え切れなくなったかのように。


 これは他の勇者や異世界人ではなかった現象である。


「検査して分かったけど、アンタの肉体は他と比べて魔力に対する強度が著しく低い。ってかマジでほぼ皆無なんだよ。だからここに下手に大量の魔力を流し込むと、それに耐え切れずにあっという間に器である肉体が崩壊するかもしれねえ。鍛錬で多少は改善するだろうけど、それにも限界はあるってのがかの賢者の見解だな」

「……他の異世界人には同じような奴はいないようだし、だとするとこれは無限の魔力を他人に分け与えられるデメリットってところか」


 残念ながら膨大な魔力を他人に与えられるという強力な能力の代わりに、俺自身はとことん直接的な戦いに向かないようになっているようだ。


 前から思ってはいたのだ。一人に複数の能力を与えられるのなら、最初から勇者に膨大な魔力を与えておけばよかったのではないかと。


 それ以外でももっと数を絞って少数精鋭に強力な能力を複数付与すればもっと強力な戦力が生まれたことだろうと。


 でもたぶんそれはできなかったのだろう。


 魔力譲渡という強力な能力の代わりに、まともに戦えない状態になっている俺を見れば、個人に抱えられる能力の総量には限界があると見た。


「まあでもこれもデメリットばかりではないな。だって俺自身の魔力がないからこそ、魔族や魔物に見つからなくて済んでるんだし」

「あるいはそれを見越して神はそういう風になるようにしたってところなのかもしれねえぞ」


 あの勇者の力を十全に発揮できる魔力量を体内に隠し持っていたとしたら、どんなに隠れてようとしても難しかったことだろう。


 魔力や敵の力の感知に優れた魔族相手に、いつまでもそれを抱えたまま誤魔化し続けられるとは思えないし。


「とにかくだ。アンタの能力は勇者の力を活用するためにも必要不可欠だし、デメリットからしてマジで戦闘には向いてない。だからこれまで通り基本的には自身で戦うことは避ける方が賢明だとよ」


 俺だってそうしたい。


 ただし邪神陣営に圧されている現状では、そうも言っていられないも事実だった。


 局地的には勇者一行が戦況を覆しているところもあるのだが、まだまだ全体では圧倒的にこちらが不利なのは否めないのである。


「そう言うと思って賢者やアタシ達が共同で設計した武器、ってか兵器を用意してやったよ。通常なら魔力不足で運用不可能なだけど、アンタの能力ならこのバカみたいに魔力を食う兵器も稼働できる……はず」

「おいおい、最後に不安になる言葉を付けるなよ」

「仕方ねえだろ。こんなアホみたいな魔力を消費する設計は理論的には可能でも、普通は実現不可能なもんなんだよ」


 理論上は可能でも、それはあくまで理論上の話。


 現実的には使い物にならないからこそ、これは異世界で誰も実際に作ったことも無いような代物とのこと。


 その名も魔力砲。


 大砲のようなその兵器の用途は実に単純であり、ただ只管に膨大な魔力を溜めて圧縮し放つだけ。


 だがしかし各地に配備されたその単純な構造の兵器が、しばらく後に途轍もない猛威を振るうことになるのだった。


―――――――――――――

これにて第3章は終了です。いかがだったでしょうか?

日本を敵の手から完全に奪還するのは第4章となります。


それと異世界からの帰還者はこれで揃いました。

ここから他の覚醒者などもどんどん登場する予定ですのでお楽しみに!


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そういう応援が作者にとっては本当に嬉しいものなので(笑)


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