第90話 大阪のハーピー
大阪ではハーピーという魔物が出現しているらしい。
そのハーピーだが外見を一言で表すなら鳥人間と言ったところだろうか。
頭や上半身が人間のものでありながら、それ以外の肉体は鳥の特徴を持っており、個体によっては腕が羽となっている奴もいれば、腕はある状態で背中から翼が生えているタイプもいる。
(そしてハーピー厄介なところが空を飛ぶ点と、弱い魔物にしては賢いところだったな)
空を飛ぶために軽い身体をしているから力こそオークなどよりも下だが、それを補うように奴らには知恵がある。
それこそ賢い個体になれば人語を理解して話すような奴までいるくらいに。
それもあってか弱いふりをして人間を騙すような真似をしてくることもあり、通常の魔物はまた違った意味で脅威になり得るのだった。
(獣型だからグラスウルフと同様に動物のグールを使役してそうだし、その使い方も知恵がある分だけ上手そうなんだよなあ)
一応ネットなどで調べて情報収集はしているが、今のところその成果は芳しくない。
残念ながら自衛隊や警察などが制空権を取られて苦労しているくらいの情報しか分からないので、それ以外の事は現地で確かめてみるしかないだろう。
そう思って愛知から大阪までの道のりを進んだのだが、到着した場所では奇妙な光景が広がっていたのだ。
「……ハーピーがいない?」
大阪は既に大量の魔物が出現している危険地域だからかその周囲では検問などが行なわれており、それに見つからないようにこっそりとやってきた俺。
当然そうなれば魔物からしたら格好の獲物である俺に攻撃が殺到すると思っていたのだが、その予想を裏切るように魔物はまるで現れなかったのだ。
それはハーピーだけでなく他のグールなども同様である。
(生命探知や超聴覚にも引っ掛かる奴はいない。ってことは本当にこの周囲に魔物はいないってのか?)
つい数日前までは大量のハーピーが猛威を振るっていたとネットでも騒がれていた。
だというのに実際にはそうではないのは目の前の光景が証明している。
だとするとこの僅かの間に何かあったと考えるしかない。
(まさか俺達以外の誰かがダンジョンの攻略に成功したとかか?)
それならダンジョンの外の魔物が消え去ったことも頷ける。
初めてハーピーを倒した奴は特典をもらっているはずだし、それを利用して思わぬ力を付けている可能性も零ではないかもしれない。
だが先に進むことで実際にそれはあり得ないと分かる。
何故なら残念なことに奉納者の能力で近くにダンジョンの気配は感じたからだ。
だからここはまだ間違いなく魔物共の支配領域のはず。
「門番はいないか」
それでもダンジョンを攻略できれば問題はなかったかもしれないが、今回はゴブリン時と同じように鍵を持つ奴が隠れているようだ。
だとするとそれを捜索するところから始めないといけないことになる。
あるいは他のダンジョンが攻略されていることを敵も悟って、こうやって完全に姿を消すことでダンジョンに侵入できないように対策をしているのだろうか。
いくら俺達のような異世界の帰還者が魔物との戦いを有利に進められると言っても、ダンジョンを攻略しなければ根本からの解決にはならないことを分かった上で。
「どちらにせよ捜索を続けるしかないか」
敵がダンジョンの鍵を持ったままダンジョンに引き籠ることが可能ならどうしようもないが、そうである確証はまだない。
となればそうではない可能性を信じて鍵を持つ門番を探すしかないだろう。
どれだけ探しても見つからなければ、最悪は先生にその辺りの事を確認してもらうようにして。
そう思いながら人も魔物もいない大阪の街をしばらく捜索していたのだが、
「……そうか、そういうことかよ」
とある光景を目にして俺はここで何が起こっているか大よそのことを理解する。
そしてそれは考えられる中でもかなり質の悪いものだった。
何故な俺の視線の先ではなんと、ハーピーと人間が争い合うことなく向き合っていたからだ。
それもその人間の集団というのは銃を持った自衛隊であり、どちらかが捕縛されているとかでもない。
そして超聴覚を使用することで聞こえてくる会話は、なんと互いに意思疎通を図ろうとしているというようなものだった。
(会話が出来るなら休戦協定が可能だと思ったってところか? あるいは賢しいハーピー共がそうなるように誘導したか)
邪神の眷属である魔物や魔族とは絶対に分かり合えない。
奴らは自分達以外の生命を狩り尽くすことに躊躇いなどないし、そういう習性を抱えた生命体なのだから。
仮に例外があるとしたら奴らを束ねる邪神がそういう命令を出した時くらいだろうか。
(もっともその邪神が一番積極的に侵略を望んでるってんだから平和的な解決なんてあり得ない話だけどな)
だけどそのことを知らない人からすれば、希望が残されていると思うこともあるのだろう。
だって目の前のハーピーなどは自分達には敵意がないという嘘っぱちを自衛隊に告げているのだから。
敵を騙すために可愛らしく美しい外見に化けた上で。
本当は人間の、それも若い奴の生き血を啜るのが大好きなバケモノのくせに。
(……ここで奴らを仕留めるのは不味いな)
あの場のハーピーだけを倒すことは容易い。
だけどここで俺が攻撃したことで交渉が失敗した形となるのは宜しくなかった。
可能なら敵との交渉など無意味だと周囲に分からせた上で奴らは始末したいのである。
そうしないといつまで経っても平和的な解決だとかを訴えるような奴らが出てきそうだし。
なにせ異世界でも似たようなことがあったらしいので。
それにあそこにいるハーピー共がダンジョンに入るための鍵を持っているとは限らないのだ。
というかこうして銃を持つ自衛隊の前に堂々と姿を現しているのだから、その可能性は低いだろう。
交渉が決裂して殺される場合をあっちも考えてないとは思えないし。
(だとするとここは様子見するしかないか)
敵の目的や鍵を持つ個体がどこに潜んでいるのか。
それらの情報を得るためにもここは敵を泳がせるとしよう。そう思いながら俺は超聴覚を使ってそこでの会話を盗み聞きするのだった。
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