第85話 大地礼賛と錬金術

 大樹のユニークスキルは大地礼賛という。


 名前から分かるかもしれないが、作物を育てるなどの土いじり関連で非常に強力な力を扱えるスキルだ。


「大体のところはあっちと変わりなさそうで良かったべ。これならすぐにでも作業に取り掛かれるってもんだ」


 東京の聖樹でも解放しておいた農場に案内した大樹は嬉々として作業に取り掛かる。


 なんでも実家でも小さい規模ながら農業を営んでいるそうなので、本当にこいつにとっては相性ピッタリなユニークスキルなのだろう。


 そんな大樹は嬉しそうな様子で、農場のとある一角を自分で整えると持ってきていた作物の種を丁寧に撒いていく。


「大地礼賛」


 そして自身のユニークスキルを発動すると先ほど植えたばかりの種が発芽したばかりか、芽が生えていく。


 スルスルと上に伸びていくその様はまるでビデオを早送りしているかのようだった。


「……ふう、今のオラだとこれが限界みたいだべ。魔力が空になっちまった」


 その言葉通り芽は伸びているものの花や実がなる前で止まっている。


「ってことは魔力が有れば続きが出来るんだな?」

「んだ。でもこっちは異世界と違って魔力の回復が遅いんだべ? だとすると続きができるのは明日以降になるなあ」


 この言葉から分かる通り大樹や一鉄は俺の能力の事は知らない。


 異世界でも徹底的に隠し通してきたので、同郷の者でも無条件で教えたりしないのは当然の事だろう。


 こちらから教えなくてもその事実を嗅ぎつけて探りを入れてきた叶恵はあくまで例外なのである。


 だからこういう反応になるのは至極当然の事だった。


「一鉄の方はどうだ?」

「俺の方もあっちとそこまで変わりはないな」

「ってことは能力の使うために素材集めから始めないといけない感じか」


 一鉄のユニークスキルは錬金術。簡単に言えば何らかの素材を消費して、新たな物を作り出すというような能力だった。


「どうも簡単な物なら自前の魔力だけで作り出せるみたいだな。あとは魔石を使えば武器の強化とかもできるみたいだぞ」


 物は試しと魔導銃とサハギンやゴブリンなどの俺が持っている魔石を渡す。


「解析開始……完了」


 それらを震える手で受け取った一鉄はまず魔導銃を解析してその構造を理解する。


 そうすることで初めて錬金術を使ってそれを作れるようになるらしい。


「錬金、開始」


 その言葉と同時に一鉄が手に持っていた複数のサハギンの魔石が光の粒子となったと思ったら魔導銃に吸い込まれていく。


 そして一瞬だけ光を発した魔導銃の形が少しだけ変わっていた。


「スイッチていうかレバーが付いてるな」

「これを切り替えることで放つ弾丸の種類が変えられるようになってる。今回使ったサハギンの魔石が水に強い魔物だから、水の弾丸を撃つ感じになるな」


 試してみると威力や溜め込んだ魔力を消費して弾を放つ点などは何も変わっていなかったが、レバーを切り替えると水の弾丸を放てるようになっていた。


 威力も普通の弾丸と変わりないようだし、水に弱い魔物にはより一層効果的な使い方が出来そうである。


「他にも銃の威力を高めたり、あるいは貯蔵できる魔力の量を増やしたりもできる。ただそれには特定の魔物の魔石が必要になるし、高度な錬金術を行使しようとすればするほど魔力も必要になる感じだな」


 しかも別に錬金術で作れるのはアイテムに限らず、現実世界で作られた銃なども可能とのこと。


 勿論それを作るためには実物を解析する必要があるとのことだが、それでも技術や施設がなくともそういう物が作れる利点は計り知れない。


「やっぱり二人とも強力な能力の反面、やっぱり魔力が必要になる感じだな」


 だとすれば俺の能力の出番だった。ただそれについてどう話すかが問題だ。


(一鉄はともかく大樹は隠し事をするのが下手な奴なのがネックなんだよなあ)


 この二人は邪神陣営の危険性については重々承知しているから裏切る心配はないと言っていい。


 特に一鉄は異世界で魔物に身内を殺されており、茜と同様に強い恨みを敵に抱いているので裏切る可能性は皆無だ。


 だから正直に話して聖樹へのエネルギー供給などでも協力してもらいたいところではあるのだが、果たして本当に話しても良いものだろうか。


『おい譲、聞こえるか』


 そう頭を悩ませていたところに急に一鉄から念話が入る。


 合流した際に二人も登録しておいたのだが、周りの様子を見るに一鉄は俺にだけ話しかけているようだ。


『聞こえてるけど、どうした?』

『魔力の件を大樹に話すのは止めとけ。こいつは良い奴だが、だからこそ隠し事が出来るような奴じゃない。話すにしてもそれっぽい嘘にしておかないと情報が漏れかねねえぞ』


 その言葉に思わず驚きを露わにしそうになったが何とか堪える。


『あんた、知ってたんだな』

『いいや、知らねえよ。まああっちでの経験でもしかしたらとは思ってたけどな。だからこれはカマを掛けただけだ』

『ってことは、それに俺はまんまと引っ掛かったってか』


 まあ一鉄に関しては元々話すつもりだったので問題はない。


 だからその助言に従ってこの場では秘密を隠した上で事情を説明することにした。


 即ち勇者一行は全員生きており、今は敵に狙われないように基本的には姿を隠して活動していると。


 そして聖樹の効果を使えば魔力もすぐに回復できるという嘘も添えて。


 美夜が死んでいるという事実や俺が魔力譲渡という能力を持っていることは全て隠した形だ。


 こうすれば魔力を回復させることも出来るし、仮に大樹から情報が漏れても大丈夫だろう。


『あとで詳しい話を聞かせろよ』

『分かったよ』


 それが通用しない一鉄の要求は呑むしかない。その上で協力してもらうとしよう。


 その真逆でこちらの話を素直に信じて、回復した魔力で植えた野菜を更に成長させている大樹。


 本当に畑弄りが好きなのが分かる様子で喜んでいるのを見て、この方が本人のためだろうと俺は自分を納得させるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る