第84話 集結
魔物と戦えるように訓練を積んでいる由里達。
だが予想していた通り、その初心者の中でも戦いに向いている者と向いていない者が現れ始めているようだった。
「どうなってる? 先生」
「やはり何人かは戦いに向いておらんな。全く戦えない訳ではないが、どうしても他者を傷つけることに躊躇いを覚えてしまう者。そしてそもそも習得できるスキルが戦闘向きではない者がおる」
「まあそれは仕方がないだろうな」
スキルの適性に関しては俺達が手を出せる問題ではないのでどうしようもない。
平和な日本においてはその感覚の持ち主こそが普通なのだ。
時間が経過して慣れればあるいは問題なくなる可能性もあるが、ならない可能性もある以上は向いている者を優先して鍛えた方が効率的に良いのも間違いない。
(一日に創り出せる魔物の数にも限りがあるからな。全員を完璧に鍛え上げるのは事実上不可能だ)
それに向いていると思われる者でも、聖樹の中のダンジョンでの戦いでは大丈夫だったとしても実際に敵性ダンジョンではどうなるかも分からない。
ここでは俺や先生が見守っていることもあり、限りなく実戦形式に近付けても訓練であることに変わりはない。
死にそうになれば助けてもらえる。
そんなような意識が訓練を受けている者の中のどこかにあった場合、本当の命のやり取りをするとなったら、それまでの余裕など簡単に吹き飛ぶことだろう。
(場合によってはここで躊躇っている人の方が本気で命のやり取りを想定していて、実戦では輝く例が無いことも無いのが面倒なんだよなあ)
ある程度までは予想はできるが、本当にそれが間違っていないか確認するためには実戦に投入してみるしかないか。
(……向いていない人の中に俺の家族はいないか)
妹の由里を始め、俺の家族はかなり順応が早いグループとのこと。
それが良いことなのか悪いことなのかは判断を下しかねるところではあるが、今は気にしても仕方がないので後にする。
家族の中で訓練を受けることに希望を出したのは妹である由里、父である平治、そして兄である浩一の三人だ。
だから母の美代や姉の明里、そしてその子供などは居住区で待機している。
「戦いに向いているグループの方はここ以外の聖樹の中のダンジョンに連れて行こう。その上で魔導銃を使わない戦い方も覚えさせる時期だと思う」
「賛成じゃよ。便利な武器を利用するのはいいが、それだけに依存すると失われた途端に無力になるからのう。それで戦いに向いていない方のグループはどうするつもりじゃ?」
「まだ人数に余裕はあるし訓練を希望する奴は続ける。だけど農場などの戦い以外の作業に移らないか提案だけはしてみるさ」
有難いことにその指導ができる人物がもうすぐここにやってくるので。
そう思ったタイミングでなんとそいつらから電話が掛かってきた。
「大樹と一鉄の二人が東京についたみたいだから迎えに行ってくる」
その二人こそ残りの異世界の帰還者であり、戦えないながらも戦場に立つ者なのだった。
◆
「はーここが聖樹の中なんだべ? とんでもねえとこだな」
「こりゃオモロい。とても謎の鉱石の柱の中とは思えねえな」
東京に避難してきた二人とその家族を無事に聖樹の居住区へ迎え入れられていた。それが二人の協力を得る条件だったのである。
「それで俺達は何をやりゃあいいんだ?」
三十代半ばでありながら若々しさというか荒々しさを残した大柄な男の梶 一鉄がそう問いかけてくる。
「まずは二人にも魔物を倒してもらってステータスカードを手に入れてもらいたい。そうすれば封印されてるユニークスキルも解放されるはずだからな」
「ほ、本当にやらなきゃダメなんか? オラ、異世界でも戦えなかったんだべ。だからこっちに戻ってきたってのに」
前者と正反対のような小太りで小柄、更に弱気な様子を隠そうともしない不動 大樹はそう訴えてくる
「分かってる。でも最初の一体だけはどうにか頼む」
「うう……もう、分かったべ。でもこれっきりで頼むべ。オラ、本当に荒事は無理なんだ」
最悪は小百合にやったように目隠しをした状態で魔導銃の引き金を引くだけでいいと言ったら、どうにか納得してくれた。
「俺は構わねえぞ。てか、力を取り戻したらまたあっちみたいに暴れ回ってやるよ」
「あんたはダメだぞ、一鉄。あんたは異世界で無茶し過ぎてまともに戦えるような状態じゃないだろうに」
大樹も一鉄も異世界で与えられた能力は決して戦闘向きではなかった。
その上で大樹は見ての通り気性的にも戦えないのは丸分かりだったこともあり、能力を使った後方支援に徹していたものだ。
だが一鉄の方は事情があって自分だけが守られてはいられないと無理と無茶を押し通して戦い続けたのである。
そうして無理し続けた結果、当人にとって最悪の事態を経験したことで本人の意思とは無関係に戦えるような状態ではなくなってしまったのだ。
「まともに武器を扱えない今のあんたに戦わせるつもりはない。もしその無茶を押し通したいのなら俺を倒してからにするんだな」
「……ちっ、分かったよ」
しばらく睨み合ったが、一鉄の方が折れる形で話は済んだ。
言動も荒くチンピラのような外見をしているが、一鉄は義理人情に厚い割と出来た大人だ。
だから滅多なことでは理屈に合わないことを押し通すことはない。
(それに今はそうするだけの理由もなくなってしまっているはずだからな)
その触れられたくない事実には言及せず、俺は迅速に二人にもユニークスキルを解放してもらうのだった。
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