第82話 拡張された施設と機能 転送の間

 聖樹に転送の間を作成するために、なんと500万ものエネルギーが必要だった。


 正直に言えば無限魔力がなければすぐにこれを作ることは決断できなかっただろう。


(でももあるからエネルギーの補填は割とすぐにできるんだな、これが)


 だから俺は無限魔力と魔力譲渡を駆使して自身から直接聖樹に魔力を奉納しながら転送の間を作成する。


 それと同時に東京の聖樹では先生、北海道の聖樹では茜に頼んでそれぞれの場所でも転送の間を作ってもらった。


 これにより現状で存在する全ての聖樹に転送の間が実装された形だ。


『それじゃあ許可を出すから準備が出来次第、叶恵をこっちに転送してみてくれ』

『なんか物扱いなのが少し不満だけど、まあ面白そうだからいっか』


 そうしてこちらに来るはずの叶恵を迎えるために向かった転送の間だが、そのそれ細広くない部屋には地面に描かれた魔法陣があるだけで他には何もなかった。


 となると恐らくはこの魔法陣の上に叶恵は転送されてくるのだろう。


『他の聖樹から転送申請が入っています。許可を出しますか?』


 案の定、向こうが転送しようとしたらしい。

 そんな声がこの聖樹の主である俺の頭の中に聞こえてきた。


(転送しようとしている聖樹の場所、そして送り主である茜と今回の送られてくる物の中身である叶恵のことが分かるのな)


 転送の際にそれらの情報は転送先の主に開示されるようだ。


 しかも叶恵の情報に関しては身に着けている装備からインベントリ内の持ち物に至る全てを表示することができるようなので、これなら許可を出す人間の目を逃れてこっそりと別の物を紛らわせるようなこともできないだろう。


「って、一度の転送で10万エネルギーを使うのかよ」


 一度に転送できるのは魔法陣の上に乗り切るものだけ。


 そして消費するエネルギーは重さや数に関係ないので、なるべく一度の転送で多くのものを送った方がお得なようだった。


 今回はあくまでお試しなのでそこに拘らずに許可を出す。


 すると転送の間の魔法陣が輝いたと思った次の瞬間には叶恵がその場に立っていた。


「へー茜が消えて英雄様がいるってことは本当に愛知にある聖樹まで転送されたのね」

「みたいだな。それで身体に問題はないな?」

「全然大丈夫。転送も本当に一瞬のことだったし、かなり便利な機能なのは間違いないないわね」


 問題ないことを確認したら、そこで愛知の聖樹の主の一人として叶恵も登録する。


 元々絶対に信用できると言い切れる対象である茜、先生、叶恵の三人には全ての聖樹の主になってもらう予定だったので。


 その後、俺は自身の転移能力を使って北海道の転送の間にいる茜の元まで向かえるか試したが、それはすぐには出来なかった。


 どうやら聖樹の防衛機構には転移による侵入も防ぐ機能があり、許可がなければユニークスキルであってもそれを掻い潜ることは不可能らしい。


(東京の聖樹は俺が主だからな。主の転移や転送には許可を出す必要もないと)


 まあ転移する俺が自分に許可を求めるなんて無駄なことはないし、それも頷ける話だった。


 そうして転送する時と同じように北海道の聖樹の主である茜から許可をもらったことで転移できるようになった俺は茜がいる転送の間に少ない魔力消費で転移する。


「なるほど、単純に自分だけの移動なら転移スキルが一番みたいだな」

「それは転移スキルを持ってる譲兄だから言えることだよ」

「それもそうか」


 そこで茜によって俺も北海道の聖樹の主として登録してもらい、その聖樹にも魔力譲渡でエネルギー供給を開始する。


 これで三つの聖樹全てが常に俺から魔力を奉納されるようになった訳だ。


 そこから転送を駆使して全ての聖樹の主として俺達四人を登録しておく。


『それで三人には申し訳ないんだが悪いんだが、転送の間を作ることで消費したエネルギーを補うまで魔力を使って奉納してもらえないか? 他の施設を作るのにも大量のエネルギーが必要になりそうだからな』


 俺が自分で各聖樹に魔力を奉納するのとは別に、俺から三人に魔力譲渡をしてその魔力を聖樹に奉納する形だ。


 全ては無限魔力から供給されているのに、供給する人数を増やすだけで効率が何倍にも高まるとか我ながら詐欺だと思う。


(まあ詐欺でも何でも利用できるものはしない手はないからな)


 この裏技を利用することにより自分だけで魔力譲渡するよりも何倍も効率よく聖樹にエネルギーを貯めることができるのだった。


『それは構わないけど、相変わらず条件が整うとほんとにえげつない能力ね』

『今は三人じゃから三倍程度で済んでいるが、これで供給する人数を百人に増やせば効率も百倍じゃからのう』

『でもそんなに数を増やして譲兄は大丈夫なの? あっちでもそれのやり過ぎで最後の方は死にかけたって聞いたよ』

『ああ、それか。この程度の人数ならまだまだ問題ないし大丈夫だよ』


 異世界では戦いが終盤になるにつれて激しさを増していったこともあり、戦線維持のため各都市の結界装置や迎撃装置などにもこっそりと魔力供給をする羽目になったのだ。


 それでも供給する魔力そのものが枯れることがなかったのは流石神から与えられた力だが、それら全てに魔力を流していた俺に途轍もない負荷が圧し掛かったのである。


 さながらタコ足配線をしたことで大量の電気が流れて熱を持ち、発火寸前にまでなった電源コードやプラグのように。


 それでも鍛錬や気合と根性などで耐えられる量が増えるので良かったものだ。


 その成長がなければ確実に最終決戦まで持たなかったと断言できるので。


(可能なら供給する人数をもっと増やしたいところなんだけどな)


 家族の事は信用しているが、それでもこのことを教える気にはなれない。


 由里が意図せず友人達に念話できることを気付かれてしまったように、どこから情報が漏れるか分からないのだ。


 だからこそこの能力の重要性を知って私欲に走ることもなく、情報管理も徹底して行える対象にしか教えられない。


 そしてそんな相手は残念ながら多くはなかった。


『とにかくこれで消費したエネルギーを補充して、ある程度の余裕が出来たら残りの新たな施設や機能について確認しよう』


 それに他の三人が了承の意を返してきたことで、一先ずこの話は終了となった。

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