第81話 報酬と聖樹の同時設置

 ダンジョンの中心地から離れた場所でボスを倒すとボスを倒した人物にその場所が分かるようになる。


 そんなこれまで知らなかった新事実が発覚するという一件もありながら、俺達は無事にサハギンダンジョンのマスターキーを入手していた。


 ちなみに残念ながらこのサハギンダンジョンにも聖樹の種はないようだ。


「譲兄、これで今日の夜にダンジョンが消えるんだよね?」

「ああ、そのはずだ」


 それも愛知と北海道の二ヶ所が同時に。それで聖樹の種が設置できるようになるはず。


「北海道の設置は二人に任せた。それで俺は愛知の方を担当する」


 茜がボスを倒した上に最後の魔法陣に魔力を流すこともやってもらったので、聖樹が設置できる場所は最低でも茜には知らされるはずだ。


(奉納者のジョブ持ちなら設置場所が分かるならいいんだけどな)


 それか攻略に参加した者なら分かるとか。それなら俺や叶恵でも北海道の聖樹の設置場所が分かるだろうし。


 それに対して愛知のダンジョンは俺が単独で攻略したこともあり、俺が担当する方が無難となった形である。


 ダンジョンを攻略した奴しか分からないとなれば、茜や叶恵をあっちに派遣しても設置場所が分からないこともあり得るので。


「今のところ魔族が現れる気配もないから大丈夫だとは思うけど、聖域が展開されるまで警戒は怠るなよ」

「こっちは最強戦力がいるから問題ないわよ。むしろそっちが気をつけて」


 何かあったら念話で連絡を取り合うことにして、愛知に転移で戻った俺は零時が来るのを待つ。


『ダンジョンボス討伐に伴いグラスウルフダンジョン及びサハギンダンジョンの消滅が完了しました。各ダンジョンの影響下にあった魔物も同時に消滅を確認、それらの魔石はボス討伐者へと自動的に与えられます。人類側の陣地の一部を奪還したことにより功労者には特別な報酬を功績に応じて付与します。……一定範囲の陣地の奪還を確認。奪われた領域の奪還が可能となります。功労者は急ぎ指定ポイントに向かってください』

(……距離は関係なく分かるのか)


 そして零時になった瞬間に前と同じように謎の声が聞こえると、すぐ近くと遠くで聖樹が設置できるポイントが存在しているのが分かる。


 まあ流石に北海道の方は距離があるせいか大体の方角が分かる程度だったが。


 そして茜などの念話によってあちらが愛知の方の設置場所が分からないことなどから、どうやらダンジョンの攻略に参加した者だけが設置場所が分かるらしいことも判明した。


(謎の声も功労者は指定ポイントに急げって言ってたし、功労者の定義はダンジョン攻略に参加した奴ってことだな)


 恐らくはボスを消滅させるに当たって強制的にダンジョンの外に排出された奴が対象といったところだろう。


 だから俺だけは特別な報酬とやらを二つもらえた形だった。


(これだとなるべく大勢でダンジョンを攻略した方がいいのか?)


 だけどグラスウルフダンジョンの方は報酬を独り占め出来たのに対して、サハギンダンジョンの方のポイントはほぼ山分け。


 更に新しいスキルを得るなどのポイント以外での特別な報酬はボスを討伐した茜だけしかもらえていないようである。


(つまり自分の力を強化することだけを考えるなら一人で攻略した方が感じか)


 まあその辺りについての考察は後でも出来るので、俺はすぐにその思考を断ち切ると指定ポイントへと向かう。


『指定ポイントへの到着を確認しました。功労者は指定ポイントに聖樹の種を設置してください』


 その声に逆らう意味などないので俺は素直に聖樹の種をその場へ置く。


 すると前の時と同じように種から光が飛び出して、地面から出現した結晶の柱が空高く聳え立つ。


 ただ前と違ってルビリアなどの神の使いからの声が届くようなことはないようだ。


『こっちは設置完了した。茜、そっちはどうだ?』

『こっちも丁度終わったところだよ』


 あちらも何事もなく無事に設置が終わったとのことで一先ず安堵する。


 魔族が妨害してくるならこちらから聖樹の種を奪えるこのタイミングが最も可能性が高いと思っていたので。


(叶恵の予想通り迅速にダンジョンを攻略しているのが効いてるのか?)


 それなら今後も攻略は時間を掛けずにやっていきたいところである。


 ただ問題があるとすれば残る聖樹の種が二つしかない事だろう。


 残る日本のダンジョンは新潟、大阪、沖縄の三ヶ所。つまりこれらのダンジョンに聖樹の種がなければ、どこか一つはダンジョンを攻略しても聖樹を設置できなくなってしまう。


(新しいダンジョンが現れる可能性もあるし、その三つのどこかに聖樹の種があるのを祈るしかないか)


 これについては幾ら思い悩んでも仕方ない。


 だってないものはないのだから。


 それよりも今は設置している聖樹が増えたことで機能が拡張されていないかを確認するとしよう。


 最低でもダンジョンで創り出せる魔物の数が増えていてほしいとこではあるが、果たしてどうなっていることやら。


 俺はグラスウルフダンジョンのマスターキーを聖樹の中に放り込むと、自身も聖樹の中へと入る。


「さてと、早速拡張された機能などがあるなら教えてくれ」

『畏まりました。まず聖樹の設置数が増えたことにより貯蔵や生成できるエネルギーの上限が増加しています』


 前の時は1000万/100億だったのに対してこの聖樹は1000万/130億となっており、更に一日で生成できるエネルギーは100万から300万に増えているようだ。


(聖樹一本につき貯蔵量は10億。生産量は100万増える感じだな)


 ダンジョンで創り出せる魔物に関しては一日で300体までとなっていることから、一本で100体ほど増えるようだ。


 それでもまだまだ十分とは言い難いが、それでも前よりはかなりマシになっているので一先ずはよしとしよう。


『拡張された機能や施設に関しては、まず転送の間が作成可能となりました。それを利用すれば聖樹間同士の転送が可能となります』


 それは聖樹が存在している東京及び北海道、そして愛知なら俺のような転移スキルがなくても一瞬で移動できるということを意味していた。


 しかも転送は生物に限らず物でも送られるらしい。


(仮に物流が断たれても聖樹があれば物資を送れるのは助かるな)


 ただし転送機能を使う際は該当の聖樹の主として登録されている中の誰かの許可が必要とのこと。


 つまり現状では東京なら俺、茜、先生の三人の誰か。


 愛知なら俺、北海道なら茜の許可がいることになる。


(思っていた以上に主の権限が強いみたいだな。となると新たに主として登録する対象は慎重に選ばないと)


 まだまだ他に拡張された機能や施設があるようだが、とりあえずはこの転送の間の機能を実際に確かめてみることにした。

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