第80話 サハギンジェネラルの末路

 茜のユニークスキルの名前は竜の友という。


 その能力は友となった竜の力をコピーして自分でも行使できるというものだ。


 更に力を借り受けられるのは別に一体だけとは限らない。


 だから複数の竜と友となった異世界において、瞬間的な戦闘力において茜は他の追随を許さなかった。


 何故瞬間的なのかと言うと、力そのものはコピーできてもそれを使用するための魔力などは自分で用意する必要があるのと、人間が扱うには強大過ぎる力を長時間行使すると使用者の肉体に大きな反動がきてしまうからだ。


 それに竜はそのためのエネルギーを溜め込んでおけるが人間である茜にはそれができないのも問題だった。


 まあその点に関しては俺が魔力を譲渡することでどうにか解決したのだが。


「いくよ、クーちゃん!」

「ギャー!」


 つまり短時間なら何も問題なくクーと同等の力を行使できる茜は、その力を使って海の上の空へと浮かび上がっている。


 その隣には成竜化したクーも存在しており、二人は同時に大きく息を吸い込むような動作をする。


 すると遠く離れた地面からでも分かるくらい、二人に力が集まっているのが伝わってきた。


 俺が必要な魔力を供給しているとは言え、そのあまりの力の高まり具合に思わず冷や汗が出るほどである。


(あんなの喰らったら魔闘気を使った俺ですら欠片も残らねえぞ)


 これから二人が放つのは幼竜状態のクーがゴブリンなどを仕留める時に使っていた空気砲だ。


 あれはクーが子供の竜であることと全力でなかったから空気砲という表現を使っていたが正式名称は別にある。


 その名も竜の吐息ドラゴンブレス。竜が用いる攻撃の中でも広範囲に向けるには最強の威力を誇るそれだった。


「「ガアー!!」」


 そうしてサハギン達が触れることも出来ない遥か上空から降り注いだその攻撃は海中深くまで到達して、次の瞬間にはその周囲へと爆散した。


 その威力の高さは可能な限り遠く離れた場所に避難した俺と叶恵の元まで突風が吹き荒れることで証明されている。


 前もって氷結魔法で波がこないように壁を作っておいたからこちらに被害は出ていないが、それが無かったら余波の津波に呑み込まれていたに違いない。


(てか、見事に海が割れてるな)


 竜の吐息が着弾した付近は完全に海水が吹き飛んでおり、普段は隠れている海の底が完全に姿を覗かせていた。


 当然ながらその周囲にいたサハギンが無事な訳がないので、あの強大な力の前になす術なく魔石となっていることだろう。


「いやー相変わらずぶっ飛んでるわね、あの子の力は」

「まあ異世界最強の生物である竜の力だからな」


 流石に人間である茜では再現できる限界があるのでクー方が竜の吐息の威力は高い。


 だけどそんなのは誤差だと言えるほどに今の一撃は圧倒的だった。


 その攻撃を三回ほど繰り返したところで突然クーが海の中へと飛翔すると、それを置いて茜だけがこちらに戻ってくる。


「大丈夫か?」

「うん、クーちゃんが見つけたって」


 力の反動が来たのかと思ったがそういう訳ではないらしいのでホッとする。


 そしてその言葉を証明するかのように、少し遅れてクーが大量の海水を撒き散らしながら砂浜へと上がってくる。


 器用なことにその鋭い牙の生えた口にボスと思われるサハギンの上位種をしっかりと咥えながら。


(サハギンジェネラルか。キングではないのは意外だったな)


 水中では圧倒的な力に加えて機敏な動きを行使することが可能なサハギンジェネラルと言えど、こうなってはまな板の上の鯉同然である。


 死に物狂いで自らを拘束しているクーに攻撃しているが、残念なことにまるで効いてないし。


「それじゃあ茜、倒してくれ」

「うん、分かった」


 どうしてこのままクーに倒させないのかは簡単な話で、少しでも経験値を茜に稼いで貰うためである。


 魔物に止めを刺した存在にしか経験値が入らないようなので、このままクーに倒させるのは勿体ないのだ。


 クーは魔物を倒してもステータスカードが出ることも無かったし、本人曰く別に魔物を倒しても経験値が手に入ることもないそうなので。


 そうして捕らえられていたサハギンジェネラルはクーが茜の指示に従って口を開いたことで解放されて、


「えい」


 その身体が地面に落下する前に、茜がそいつに向けて引っ掻くような動作をするだけでその肉体は八つ裂きとなっていた。


 これは切れ味鋭い竜の爪の攻撃を人間である茜が再現したものである。


 そうして三枚どこでは済まないくらいにおろされたサハギンジェネラルが生きていられるはずもなく魔石だけを残して消えていった。


 このダンジョンを統べるボスの末路としてはあまりに呆気ないものである。


「はい、クーちゃん。ご苦労様」

「キュー」


 成竜化を解いた小さくて可愛らしい見た目のクーに茜がボスの魔石を食べさせている様子は、それこそ子供が小さな動物にエサをあげているようにしか見えない。


「……叶恵」

「ん?」

「あの状態の二人に勝てる奴っていると思うか?」

「いや、いる訳ないでしょ。上位魔族でも束になって掛からないと無理だし、ワンチャン勇者様なら持久戦に持ち込めば何とかって感じかしら? 他の連中じゃ私を含めて数秒ももたないわよ」

「だよなー」


 本当に茜とクーが味方にいてくれて良かった思いながら、無事に俺達はサハギンダンジョンの攻略を終えるのだった。

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