第77話 旧友との再会 叶恵
異世界からの帰還者が三人も揃ったのだ。
一人でもサハギン程度なら余裕なこともあって、その戦闘は実にあっさりと終了する。
勿論俺達の圧勝という形で。
「カナちゃん!」
「おお、茜じゃんか。ちょっと見ない間にまた大きくなったわねー」
「私は成長期だからね。カナちゃんは元気だった?」
「勿論よ。私はニコチン不足と肺ガン以外では死なない女だからね」
わしゃわしゃと茜の頭を撫でながら叶恵はそんなことを宣っている。
まあ実際にこいつのユニークスキルなら滅多なことでもなければ死なないので、言っていることそのものは間違っていないのだろうが。
それこそ単純な生存能力という意味では勇者一行すら上回るくらいだし。
「英雄様も久しぶり。あ、言っとけど今の戦闘で出た魔石は私のだからね! 一人でもこの程度なら余裕だったし、手に入れた魔石をポイントにして尽きかけてるタバコの在庫を増やすんだから!」
必死に落ちている魔石の所有権を主張する目の前の変人。
それよりももっと大切なことなど幾らでもあるだろうに。
いや、こいつにとってはそれ以上に大事なことなどないのか。
こっちとはまるで違った異世界においてですら、常にタバコの代わりになる物を追い求め続けていたような奴だし。
「別に俺は盗ったりしねえし好きにしろよ。ったく、お前は相変わらずみたいだな」
「そりゃ一度死んで異世界に行っても変わらなかった好みだもの。そんな私からタバコを取ったら何が残るのかって話だわ」
稼いだポイントをタバコ代にすることに何の躊躇いもないような奴がこいつ意外にそうそういる訳もない。
だけどその変人っぷりに比例するかのように、こいつの実力は確かなものがあった。
「ギャー!」
「あ、こら! 勝手に私のタバコ代を食べるな!」
だがそんな叶恵の主張など知ったことかとばかりに、いつの間にかクーがバクバクと落ちている魔石を食い始めていた。
それに対抗するかのように叶恵も必死になって自分の分の魔石を確保していく。
「もうクーちゃんったら、食いしん坊なんだから」
「……はあ、どうでもいいけど早くしてくれ」
最後に残された魔石を奪い合う一人と一匹のあまりに低レベルな争いに、思わず溜息を吐くのも仕方ないというものだろう。
◆
叶恵は信用できる貴重な戦力なので、俺は美夜が死亡している件も含めてこれまでの大体の事情を説明した。
「なるほどねー……て、なんで白竜の子供がこっちにいるのよ。異世界に残してきたはずでしょ」
低レベルな争いに敗れて最後の魔石を奪われた叶恵は不満を隠さずにそう漏らす。
「勝手に付いてきてたんだ。で、それに気付いた時は戻せなくなってたらしい」
「何それ、いい加減な話ね。まあでもこの現状を考えれば、そうなってくれてて本当に良かったんでしょうけど。竜の子がいるなら茜の力も活かせるだろうし、まさかあの美夜が早々にやられてるとは私も予想できなかったから」
叶恵は異世界でもバリバリ魔物や魔族と戦っていたこともあり、茜や美夜を始めとした勇者一行とも共に行動したこともあるのだとか。
だからこそ勇者一行の実力の高さについても把握しており、聖女が脱落したことには流石に驚きを隠せないようだった。
「てっきり英雄様と聖女様は行動を共にしてると思ってたし」
「俺だってそうするつもりだったよ。敵の大金星のせいでそれも叶わなかったけどな。そんな訳で悪いがお前にも色々と協力してもらいたい。ただでさえ戦力不足だからな」
「えーぶっちゃけ面倒臭いんだけどなあ。私の能力的にも一人で行動した方が色々とやり易いし。……まあでも生き残るためにはそうしなきゃいけないか」
幾ら叶恵が単騎としての性能に特化していても、それで勝てるほど戦いは甘くない。
そしてそのくらいのことを分からない相手ではなかった。
「まあ私としては聖樹とやらを設置してその中に敵から奪ったダンジョンを利用するのは大賛成よ。魔石の安定供給が可能になれば私のタバコ代も稼げるだろうし、バンバン聖樹を設置して手に入れられる魔石の数を増やしましょうよ」
「ああ、いざという時のためにもな」
「悪いけどその辺りのややこしい話はそっちに任せるわ。私は自分のことだけで精一杯だから」
魔物が現れたことによる混乱で物流も滞り、通常の方法だと好きな銘柄を中々手に入れられなくなったと愚痴る叶恵。
幸いにもショップでタバコも販売していたから今はどうにかなっているが、戦力を増やすためにポイントが必須なことを考えればそれがいつまで続けられるかは分からない。
何故なら最悪の場合は足りない食料などもポイントで賄わなければならない状況だって十分にあり得るからだ。
食料を供給している農地などが魔物に支配されたら、そこから食糧を得ることも出来なくなるのだし。
そうやってまともに外で活動できなくなった時のために聖樹が用意されていた節があるし、その時が来る前になるべく多くの聖樹を設置しておくに越したことはないだろう。
「それじゃあ英雄様、早速魔力をちょうだい」
「それはいいけど、他の奴らには言うなよ」
「分かってるって。この状況で英雄様が私達の生命線になるってことはバカでも分かるもの」
そう言いながら握手を求めてくる叶恵に応えて俺はその手を握る。
その際に転移マーカーや念話の登録をするのも忘れずに。
「さてと、それじゃあここのダンジョンもさっさと攻略しちゃいましょう。それで落ち着いた場所でゆっくりと至福の一服を味わいたいし」
「ギャー!」
そこで魔石を食い終わったクーがそれに賛成するように鳴いていた。
まあクーがしたいのは一服ではなくて食事だろうけど。
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