第78話 エネルギードレイン

 異世界で叶恵に与えられた能力は割とシンプルなものだった。


 その名もエナジードレイン。


 攻撃した敵や自身の周辺など能力の効果が及ぶ範囲の生命体から体力や魔力などの特定の力を吸収するというものだ。


 それに加えて戦闘に関する才能も与えられていた叶恵は、割と最初期の頃から頭角を現していた異世界人だったものである。


 なにせ戦闘に関する才能のせいか扱ったことのない武器の使い方もすぐに理解して、一度戦場に出ればそれらの武器を振るい決して倒れることなく敵を倒し続けるのだから。


 仮に普通なら戦闘不能に陥るようなダメージや怪我を負っても、また長時間による戦闘による疲労が蓄積してもエナジードレインを発動すれば回復できるのだ。


 これほど生存能力に特化した能力もそうないだろう。


 それに異世界のとある街を陥落せるために大量の弱い魔物を投入する物量作戦を展開した敵に対して、たった一人で魔物の群れを相手どって防衛に大きく貢献したこともあるらしい。


 それもあって叶恵は異世界でも一騎当千の猛者として名が通っていたものだ。


「そう言ってもあっちだとエナジードレインの長時間の使用はかなりきつくて、その防衛戦の時とかマジでしんどかったんだから。使う時間が長くなるほど空腹感とかが酷くなる感じだったし」


 またエナジードレインは基本的には対象を選ばないで発動する。


 つまり味方が効果範囲内に入ればそいつからも体力や魔力を吸い取ってしまうのだ。


 だから味方と共に戦闘する際は攻撃した相手だけから吸収するようにするなど工夫していたそうだが、それだと折角の能力の強みが活かし切れないのもまた事実。


 だからこそ叶恵は単独での行動を基本としていたのだった。


 まあそれ以外でも自由人である本人の気性も多少は関係していたようだが。


「で、こっちでもそのデメリットは変わらないのか?」

「全くなくなった訳でないけど、多少はマシになったかなー」


 エナジードレイン改めエネルギードレインに変化したユニークスキルは発動すれば能力範囲にいる生命体からエネルギーを吸収するのは変わらない。


 だけど事前に登録していた対象は吸収対象から外すことが出来るようになったとのこと。


 だからこの場では俺や茜のことを登録してもらっており、そのおかげもあって叶恵が能力を発動してもエネルギーを吸収されるようなことはなかった。


 なお、登録していない対象であるサハギンがどうなったかと言えば、まともに近付くことも出来ずにほとんどの個体が叶恵の数メートル前で光の粒子となって消え去ることとなっていた。


 もはや戦闘にすらなっていない有様である。


 このように能力発動中の叶恵は、生きている存在なら近付くだけでも困難な相手となるのだった。


 弱い魔物なら戦うことすらできないくらいに。


「まあでもエネルギードレインも長時間の使用は気力を消耗する上に飢餓感がえげつないことになるのは変わらなくてさ。あんまり長時間は使いたくないんだよね」


 だから今は基本的にはサハギンから奪った槍で戦っているとのこと。


 ショップを利用してスキルも幾つか入手しているがそれを使わなくてもまるで問題ないそうで出番がないらしい。


 このように最強の能力に思える叶恵の力だが明確な弱点も存在している。


 それはこの能力が生命体からエネルギーを吸収するという点だ。


 つまり既に死亡しているとみなされるグールを始めとしたアンデッド系の魔物やゴーレムなどの非生物系の魔物には効果が薄い、あるいは全く効かないのである。


 実際にこっちの人が死んだ際に変化したグールからはほとんどエネルギーを吸収出来なかったとのことだし。


(まあ逆に言えば生命体判定される相手なら滅茶苦茶強いんだけどな)


 オークやゴブリンだけでなく、グラスウルフやハーピーなど日本で発生している魔物には一通り効果抜群と言ったところだろう。


 しかもこの能力であれば回復の遅い魔力も敵から奪い取ることが可能なのだ。


 そうやってHPもMPも敵から奪い取る形で回復できるので継戦能力も高いと、今後に行なわれると思われる防衛戦の時にも重宝する能力である。


「そう言えば北海道には他の覚醒者はいないのか?」

「何人かとは遭遇したけど、はっきり言って現状では使い物にならないから放置で良いと思うわ。自衛隊や警察もこんな事態を想定していないからかまだまだ動きが悪いし、少なくともダンジョンとやらの攻略では足手まといにしかならないって」


 更に覚醒者の中には一人でフラフラしている叶恵を獲物と見定めて襲い掛かってくる奴もいたのだとか。


 やはり御霊石の仕様上、どうしてもそういう考えに及ぶ輩が出てしまうものなのだろう。


 もっともそんなバカなことをした奴らは全員即座に返り討ちにあって、その命の全てを叶恵に吸い取られるという悲惨な末路を辿ったようだが。


 更にそこで得られた御霊石もスキル習得やタバコ代に消えたとのこと。


(死ぬまで搾り取られて、死んだ後も利用し尽くされるとは哀れだな)


 その辺りに関して叶恵は俺なんかよりずっとシビアで割り切っている。


 襲ってきたのが悪いのだから迎撃しても正当防衛だし、そこで手に入れた御霊石も捨てるくらいなら使った方が良いだろうという感じで。


 まあそういう奴らの御霊石を放置して奪われると、敵が進化して強くなることに繋がるので、そうされるよりは断然マシだろう。


「ああそうそう、北海道でサハギンを最初に倒して特典を手に入れた覚醒者についてだけど、既に魔物との戦いで死んでしまったっぽいわよ。英雄様みたいに特典で大量のポイントを手に入れてるなら多少は戦力になるかもしれなかったのにね」

「そうか。まあ正直残念だけど仕方ないな」


 今後の事を考えるならそいつには生き残って欲しかったものだが、どんなに願っても時間は巻き戻せないのだった。


 ならばその事について嘆くよりも、そいつの無念を晴らす意味も込めてダンジョンを攻略するとしよう。


 有難いことにその人物がいなくても戦力としては十分過ぎる上に、奉納者の能力によってダンジョンのおおよその位置も簡単に割り出せるのだから。

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