第75話 グラスウルフの群れとボス
無事に門番からグラスウルフダンジョンの鍵を手に入れた。
茜の方も叶恵を捕まえるまでもう少し時間が掛かりそうとのことで、それならその前にこっちの目的も達成しておいた方がいいだろう。
だから固く閉ざされていた名古屋城の城門が開いてその中に入った俺だったが、ダンジョン内に転移した瞬間に待ち伏せしていた敵に襲われたのだった。
「って何だ、この数は!」
草むらに身を隠しながら敵を攻撃するのを得意とするグラスウルフという魔物。
その狼のような外見か分かる通り、鋭い牙と爪を持っているが、それも生半可な拳銃なら効かない俺の前で通用するものではない。
だから冷静になれば幾らそいつらに噛まれても問題ないのだ。
だが魔法陣の中に転移した俺の周囲全てを取り囲むようにして展開しているその集団の数には驚くしかなかった。
(こいつら、外はグールに任せてダンジョン内で数を揃えることに注力してやがったな)
その何十体どころか何百体いるのか把握することもできない群れの全てが、我先にと獲物である俺に殺到してくる。
なるほど、仮に隠れ潜む門番を倒して何者かがダンジョンにやってきても、こうやって数の暴力で一気に圧し潰してやればいいという作戦か。
こうまで反応が多過ぎると生命探知も役に立たない。
なにせ周囲全てに反応があるようなものなのだから。そしてこんな状況では仮に脱出ポイントがあっても、それを起動させる暇などないだろう。
かく言う俺も最初の方は攻撃を受ける前に迎撃していたのだが、流石にこの数の前ではそれも続けてはいられずに、次々と体に至るところを噛みつかれて牙を突き立てられそうになる。
まあ実際にはそれ等の攻撃で貫くことは叶わずに、ただただグラスウルフの集団が俺の身体に群がっているだけだったのだが。
「……ああ、うぜえ!」
痛みは全くなかったが、それでも全身を涎塗れにされて不快にならないはずもない。
それにこの群れの中にボスが隠れている場合、膨大な数の中からそいつだけを見つけて倒さなければならないことになる。
そんな面倒なことをしていられないので、まず俺はインベントリからオークキングの大剣を取り出して魔力を流し込む。
そして十分な魔力が溜まったところでコマになったかのような形で大剣を振りながらその場で一回転する。
勿論オークキングの大剣から飛ぶ斬撃を出したままで。
その結果、俺の周囲に円を描くように奔った飛ぶ斬撃は周囲の大半のグラスウルフを斬り殺したし、その勢いによって体に取りついていた奴らも吹き飛ばされている。
それによって出来た空白だが、すぐにそれを埋めるかのように残りの群れがまたこちらに殺到してくる。
こうして侵入者を休ませることなく攻め立て疲労を蓄積させること。
そして魔力が尽きるのを待っているのだろう。
残念ながら疲労はともかく魔力の方は枯渇することなどあり得ないというのに。
だから俺はオークキングの大剣から飛ぶ斬撃を何度も何度も自分の周囲のグラスウルフに向けて放つ、それで敵を掃除しつつ自分がいる場所についてもようやく把握した。
このダンジョンは巨大な円形のドームのような形をしていて、その真ん中に入り口の魔法陣があるようだ。
そして真ん中以外のところは大量のグラスウルフで埋め尽くされており、それ以外の設備などは何もない。
まるで隠れたり休んだりすることなど許さないとでもいうかのように。
(流石は魔物の居城。侵入者を排除するために色々と考えられてるよ)
だがそれも俺には通用しない。
オークキングの大剣を振るい続けて周囲の魔物を一掃し続けていると、その殲滅速度に恐れをなしたのか、段々とこちらに襲い掛かるグラスウルフが少なくなっていく。
まだまだ数は揃っているが、このままのペースで自分達がやられ続けたらいずれ全滅させられるということが分かったのだろう。
一度に襲い掛かってくる数を制限して、なるべくながくこちらに魔力を使わせる方向にシフトしているようだ。
「アイスストーム」
悪いがそんな長丁場な戦いに付き合っていられないので、俺はその隙に氷結魔法を唱える。全くダメージを受けないこともあって詠唱中に幾ら攻撃されても中断することなく魔法は発動できた。
それによって周囲のグラスウルフは一瞬で凍りついて、次の瞬間には魔石だけを残して消滅。
「アイスウォール」
更には幾つもの氷の壁が俺とグラスウルフを隔てるように展開する。
スキルレベルⅢで込められるMPの最大量である30も込めたこともあって、完成した氷の壁は非常に頑丈で強固なものだった。
しかも発生してからしばらくは強烈な冷気を発しているのか、破ろうと触れたグラスウルフが逆に凍りつく始末。
(やっぱり魔力を消費するスキルは強力だな)
だがレベルⅢではこの数相手を殲滅するのにかなりの時間を要するだろう。
アイスストームの範囲を広げるにしても限界があるし、なにより攻撃する敵の数が増えれば増えただけ一体辺りに与えるダメージは少なくなるようだから。
だから俺は敵が接近できないように氷の壁を作り出した状態でスキルレベルを上げる。
(レベルⅤもあれば十分だろ)
レベルⅣにするのに40000P、レベルⅤで80000P。
つまり合計で12万Pを消費して強化された氷結魔法のスキルは新たな魔法を俺に与えてくれた。
発動までかなり長い準備時間を必要とするその新しい魔法を、俺は氷の壁によって安全が確保された中で焦ることなく使用する。
「アイスバースト」
それによって作り出されたのは小さな氷の玉だった。
それが今回は作り出されたと同時に破裂して中に秘められていたものが解放される。
レベルⅤで込められる最大の50MPを消費して発動されたその魔法は全体攻撃魔法だった。
MP量によって威力や攻撃範囲が決まり、その範囲内にいる敵全てに等しいダメージを与えるというような。
50という普通なら大量のMPを消費して発動したアイスバーストは円形のダンジョン全てを攻撃範囲としても問題なく、その結果そこにいた全ての敵を一瞬で凍りつかせる。
そのあまりに高い威力はボスだろうと関係なかった。
『ダンジョンボス討伐及びダンジョン中心部への到達を確認しました。奉納による敵性ダンジョンへの干渉が可能となります』
だってそいつがどこにいたのか分かることなく、そんな言葉が俺の頭の中に聞こえてきたので。
「これ、えぐいな」
使用した本人である俺が言うことではないかもしれないがアイスバーストはあまりに強力過ぎだった。
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