第73話 車と徒歩での移動

『ふーん、じゃあそっちは譲兄に任せるね』

『ああ、任せてくれ。それより叶恵は見つかったか?』


 俺は以前にショップで購入した装甲車を走らせながら茜と念話する。


『ううん。北海道の魔物が出てくる場所には着いたんだけど、まだカナちゃんは見つからないや』


 それでも自分以外に魔物と戦った誰かがいる痕跡が複数見つかっているそうで、叶恵らしき人物が周辺にいるのは間違いないそうだ。


 少なくとも魔物と戦う術をもった誰かがいることは確定だろう。


『神出鬼没のあいつのことだから見つけるのは苦労すると思うが頑張ってくれ』

『それは大丈夫。だってクーちゃんがいるから』


 肝心のクーが以前に遭ったことのある叶恵の匂いを覚えていなかったせいで多少時間が掛かっているそうだが、それも時間の問題とのこと。


 いくらフラフラとどこに現れるか分からない叶恵だとしてもあのクーの追跡からは逃げられないだろうし。


『北海道に出現する魔物はサハギンだったよな』

『うん、クーちゃんがゴブリンよりもこっちの方が美味しいって喜んでる。オークみたいなお肉も好きだけどたまにはお魚も良いって』


 普通の人類にとって脅威となる魔物もクーの前では美味しい海鮮扱いらしい。


 となると叶恵を探す傍らで大量のサハギンを狩っているに違いない。


 省エネの幼竜状態でもサハギンくらい楽勝だろうし。


『それであっちと比べて強さはどうだった?』

『やっぱりオークと同じであっちよりも弱い感じかな。でもこっちの人の話だと最初の頃より通常種以外のサハギンの数が増えてるみたいだよ』

『ってことは時間経過で魔物が強化されるのも間違いないか。あるいは魔物共が進化するのに十分な数の御霊石を手に入れたのか』


 設置された聖樹が自身を動かすためのエネルギーを生み出しているように、ダンジョン等も同じ様にそういったエネルギーを生み出して利用している事は、先生がルビリアから与えられた知識から得ていた。


 だから時間が経てば経つほどに強力な魔物が増えていくということである。


(それこそゲームのように占領した陣地の範囲や時間に応じてボーナスが手に入ると)


 今のところその強化具合も異世界の帰還者である俺達なら問題にならない程度だが、一般人などからしてみればその差は大きい。


 それに今は大丈夫でもずっと強化がされるとなれば俺達だってどうなるか分からない以上、やはり早めに陣地は取り戻しておくに限る。


 お互いになるべく早めに目的を達しようと決めて、念話を終えた俺は車の速度を上げる。


(この辺りは道路が壊れてもいないし、人も多くないからスムーズに進めるな)


 東京近郊では場所によっては道路が崩壊していたり、避難や魔物居なくなった東京に戻ろうとしている集団のせいで渋滞が起きていたりする場所もあったが、そこから離れれば車での移動は十分に可能だった。


 なお、その辺りでの車での走行が難しそうな場所では車はインベントリにしまった上での徒歩で移動となっていた。


 短距離ならむしろそうやって走った方が早いケースもあったくらいだし。


(愛知に出現している狼系の魔物、見た目からいってグラスウルフってところか。ただ発見される数が少ないってのが気になるな)


 そうやって一人で車を走らせながらこれから向かう場所で出現している魔物について考えを巡らせる。


 誰かがネットに投稿した映像を見る限りでは、そいつは草原などでの活動を得意としている魔物だった。


 鋭い牙や爪と狼らしい素早い身のこなしをする魔物だが、その分耐久力は低い。


 強さ的にはゴブリンよりは強いがオークよりは弱いといったところだろうか。


 はっきり言ってあちらの世界でもどちらかと言えば弱い方に分類されていた魔物である。


「日本以外の地域でもそれは同じ、か」


 世界中全ての魔物の情報が得られている訳ではないが、少なくともネットに出てくる時魔物の情報で種族的に強いような奴らは確認できていない。


 それこそドラゴンとか魔物の中にはクーに匹敵するくらい強い奴らもいるというのに。


 そんな強い魔物共が最初から世界各地で猛威を振るっていたのなら、どう控えめに見てもこの程度の被害で済まなかったことだろう。


 それどころか人類側のほとんどが滅ぼされていたとしてもおかしくはなかった。


(となると、やっぱりルビリアの情報は嘘ではないんだろうな)


 ルビリアからの情報ではこの世界の神とその使いは現在そういった強い魔物の侵入を防いでいるとのこと。


 その中には力ある魔族も入っており、魔族がほとんど姿を現さないのはそれも原因の一つらしい。


(以前に俺が倒した魔族も、魔族にしてはかなり弱い方だったからな)


 だがその守りも敵に陣地取られている地域では段々緩んでくる。


 つまり敵に長期間占拠された地域では強力な魔族や魔物が段々と現れるということだった。


 それを阻止するためにはやはりダンジョンを攻略して聖樹を設置するしかない。


 そのために必死にアクセルを踏んで先を急いでいる訳だが、流石に空を飛べるクーとは比べものにならない速度しか出せなかった。


(あっちは半日も経たずに東京から北海道まで移動したってのによ)


 こちらの車での移動も別に遅い訳ではないので数時間あれば辿り着けるだろう。


 だけどこの先に世界を巡ることを考えた場合、クーのような便利で高速の移動手段が欲しいところではある。


 荒れ果てて車で移動できない場所だってこれからはどんどん増えていくと思われるし、何より燃料のガソリンだって普通の手段で確保するのは難しくなっていくだろうから。


(各種燃料もショップで買えるから最悪はポイントでどうにかするけど、それにポイントを割くのは正直勿体ないからな)


 有用なスキルを手に入れるために、そして蘇生スキルを手に入れるためにもポイントはなるべく消費したくないのだ。


 また聖樹を設置することで魔物の作成限界が増加すれば、それは実質的に一日で得られるポイントを増やすことにも繋がる。


 無限魔力がある俺はMPで魔物を創り出して、その分の魔石を手に入れることができるからだ。


(現状だと10000Pのオークキングが一番高い。それを一日で百体倒せば100万Pが手に入る)


 とは言え通常の聖樹ではこれはそう簡単にできることではない。だってオークキング一体を創り出すのに20000、つまり百体なら200万ものエネルギーが必要になるのだから。


 残存エネルギーが1000万で一日に100万しか作れない状況でそれをやれば、防衛あるいは居住区や救護施設に使うためのエネルギーなどすぐに枯渇してしまうだろう。


 だが無限魔力と魔力譲渡を持つ俺ならば話は変わってくるのだった。


(複数の聖樹の主となれたなら、どこかは自分達専用のものにするのもありかもな)


 最初の方の先生がやったように、それこそそこで得られるポイントは全て独占するような形で。それならいずれ蘇生スキルを購入するのも不可能ではなくなるだろうし。


 だからそれをやるためにはやはりダンジョンを攻略して聖樹を設置する必要があるという話にと落ち着く訳だ。

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