第66話 聖樹と聖域の維持のために必要なもの
地上から遥か上、クーによって作られた氷の足場に転移マーカーを設置した俺は先生の元へと向かう。
「それで何ができるんだ?」
「それはダンジョンを攻略した際に手に入れたマスターキーを聖樹に差し込めば分かるはずじゃ」
言われるがまま二本のオークダンジョンのマスターキーとゴブリンダンジョンのマスターをインベントリから取り出した俺は、水晶のような聖樹の表面にそれを当てる。
すると俺の身体や他の物と違って鍵だけがスルっと固い表面を透過して聖樹の中に入れられるようだ。
完全に中に入れていいことを確認して、俺は二つのマスターキーを中に放り込む。
そうして聖樹に取り込まれる形となった二つのマスターキーはあっという間に、まるで溶けるようにして消えていった。
「これでいいのか?」
「うむ」
その言葉が正しいことはすぐに分かった。
何故ならこれまで透明だった聖樹の表面に何らかの魔法陣が突如として浮かび上がったからだ。
「これで中に入れるはずじゃ」
「中には何があるんだ?」
この質問に対して先生は驚くべき回答を寄こしてくる。
「それはのう、ダンジョンじゃよ」
◆
「こいつは驚いたな……」
先生の言葉は嘘ではなかった。
魔法陣に触れることで聖樹の中に入れた俺達だが、なんとそこには以前に俺が攻略したオークダンジョンのような迷宮に出たからだ。
それこそ消えたダンジョンがそっくりそのまま引っ越してきたかのように。
「しかし肝心のオークはいないんだな」
入る際の移動先としてゴブリンダンジョンも選べたのでそちらも確認したが、草原のような環境は同じでもゴブリンは一体も存在してなかった。
どうやら再現しているのはあくまでダンジョンの環境だけらしい。
「魔物共がこちらの銃器を奪ったり、あるいはこちらの世界の特性を得た新たな魔物が生まれたりしているのは知っておろう」
「ゴブリンガンナーとかのことだな」
「どうも陣地を奪うと同時に、奴らはそういったこちらの世界の特性も自分達に取り込んでいるらしい。だから奪われた陣地が増えれば増えるほど、そういうこちらの世界に関連した魔物が現れるそうじゃ」
それこそ銃ではなく、ミサイルなどのもっと強力な兵器の力を持った魔物とか。あるいはこちらの世界の伝承になぞらえた魔物とかも現れる可能性もあるらしい。
だが人類陣営もただ奴らに奪われるだけではなかった。
敵がそういう形でこちらの世界の情報などを奪って強化を図るのなら、こちらも敵の物を奪い取れって同じようにしてやればいいという風に。
「つまり俺がダンジョンを攻略することで魔物の居城という敵の施設を奪い取ったってことか?」
「ボスを倒した際に出現するマスターキーはダンジョンの制御中枢のようなものということじゃな。それを奪うことでダンジョンそのものをこちらの支配下に置けるようになるらしい」
だがダンジョンを攻略した際に中に居た魔物などは全て消滅させている。
敵の拠点を奪うにしても、残党が隠れ潜んでいたら大変なことになるからそこは徹底的にやる必要があるらしい。
「じゃから新しく魔物を生み出すためにはエネルギーが必要となる。鍵の持ち主であるお前さんなら念じればそれが分かるらしいぞ」
言われた通り魔物を作り出せないかと念じてみると、例の謎の声が頭の中に聞こえてきた。
『現在の聖樹は聖域維持にエネルギーを使用しています。エネルギーの供給なくダンジョンに魔物を出現させることは聖域が破られる可能性を高めます。それでも本当に実行しますか?』
これは流石にNOだ。
神の使いが迎撃拠点となると言っていたし、それを維持するのは最優先事項だろう。
いくら魔物を作り出しても聖樹が失われれば中に入っているダンジョンも同じだろうし。
(残存するエネルギーはどのくらいだ?)
『1000万/100億です。現在の聖樹では一日に100万のエネルギーを生み出すことができますが、聖域維持にも100万のエネルギーが必要となります。また敵からの攻撃を受けた際は消費するエネルギーが増えることが予想されます』
つまりこのままダンジョンに魔物を生み出せばその分だけエネルギーは減っていき、いざという時の守りが薄くなってしまうと。
(どうすればそのエネルギーとやらを増やすことができる?)
『単純に残存エネルギーを増やすのなら奉納することです』
奉納できる物の種類は脱出ポイントなどと同じようだ。HPやMP、ポイントと魔石。
そして御霊石だ。
『一日に生み出されるエネルギーを増やすためには設置されている聖樹の数を増やす必要があります』
(つまり聖樹の数が増えれば増えるほど防衛面でも強化されて、更に魔物も生み出しやすくなると)
『その通りです』
敵性ダンジョンを攻略すると魔物が出現しなくなる。
それは良いことなのだが、それと同時にステータスカードを入手する方法やポイントを稼ぐ手段が少なくなることも意味していた。
だけどこうやって聖樹の中にダンジョンを作れて、それを自由に管理できるのならそういう面での問題は解決できるはず。
(なんなら由里達をここに連れてきて鍛錬するのもありかもしれないな)
どの程度まで作り出した魔物をコントロールできるかなどにも依るが、仮にコントロールができなくても俺が付き添えば死ぬことはないだろうし。
まだまだ聞きたいことがあるので、俺は次の質問を頭の中に思い浮かべた。
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