第60話 慈悲なき狙撃

 時刻は大半の人が寝静まった深夜。


 そんな時間帯こそ目の前の悪人達にとっては活動しやすいのか、思った以上の人数がアジトと思われるボロボロなビルに集まっていた。


 なお、ここに集まっている奴らの大半が救いようのないカスなのは既に確認済みであった。


 なにせこっちは超聴覚のスキルがあるのだ。


 そうやってこいつらの会話を盗み聞きしたことで誤解の可能性はしっかり潰してある。


「おい、そろそろ酒も食料も少なくなってきた。いい加減に動くべきなんじゃないのか?」

「俺もその意見に賛成だ。飯もそうだが、なにより女を調達したい。我慢の限界なんだ」


 数人の男がそうやってコソコソ隠れていることに異議を申し立てている。


 そこには自分達には他にない特別な力があるのだから、どんなに好き勝手やっても許されるというようなある種の傲慢さが嫌というほど込められていた。


「でも少し前に警察がこの辺りをうろついていたって話も聞いてるぞ。そんな状況で迂闊に動くのは危険じゃないか?」

「別の場所じゃ銃で撃たれて死んだ奴もいるって噂だ。俺達も下手すりゃそうなるってことだよな」


 俺が監視を始めてからここ数日、何故か犯罪もせず大人しくいていると思ったらそういう理由だったのか。


 反省して心を入れ替えた訳ではないのを悲しむべきか喜ぶべきか、俺としては微妙なところである。


「とは言っても警察も自衛隊も魔物とやらの対処に手一杯のはずだぞ。仮に見回りしていてもそこまでの人数は割けねえよ」

「それがどうも東京から魔物が消えちまったって話が出てるそうだ。もしそれが本当なら魔物に割いていた人員が俺達のような無法者に向けられるかもしれねえぞ」

「つまり、やるなら今の内ってことだな」


 アジトにいるのは全部で七人。


 そいつらは相談の結果、近隣の住人を襲って金品を奪った後、殺して御霊石を奪うというような計画を話し出す。


 しかも許し難いことに、その襲撃場所の候補の中には大人しくしている間に目を付けていたという幼稚園や老人ホームも含まれていた。


 力のない子供や老人なら殺して御霊石を奪うのも容易いという、なんとも効率的で反吐が出る理由だ。


 そうして逃亡に必要な金銭や力を手に入れた後は、東京近辺から離れて逃走を図る。


 なんなら大阪など別の地域に向かう道中などでも、適当な民家を襲って回れば良いと宣う始末。


「生きる価値のないゴミ共が……」


 そんな秘密の計画を超聴覚で聞かれているとも知らず、ゴミ共は成功した後のことを楽しそうに話し出している。


 女を攫って犯した後は殺して御霊石を回収すれば一番効率的だとか。


 妊婦が死んだらお腹の中の子供もグールになるのか。


 そしてそれを仕留めれば二体分の御霊石が手に入るのかとか、聞いているだけで胸糞悪くなるような内容ばかりである。


 その碌でもない奴らに掛ける情けなど生憎と俺は持ち合わせていなかった。


 何故なら俺は聖人でもなければ慈悲深くもないので。


 だから建物の外から魔導銃を取り出して壁越しに狙いを定める。


(当たり所が悪くなければ死にはしないだろ)


 なるべく殺さないで生け捕りにしてほしいと言われているので全員を殺す訳にはいかないが、まあ何事にもミスや手違いはつきものということで。


 少しだけチャージした魔導銃から周囲への影響を考えて角度などを考えられた魔力の弾丸が放たれる。


 その弾丸は薄いコンクリートの壁など簡単に貫いて、そのまま建物の中へと侵入。


 そして愚かな話をして盛り上がっていた獲物数人の肉体を容赦なくズタズタに引き裂き、奥の壁にぶち当たったところでようやくその魔力の弾丸は消滅した。


「思ったより威力が強かったからか三人も巻き込めたか」


 丁度弾丸の軌道上に重なってくれたらしい。


 人間に対する魔導銃の威力の確認という意味でもこの結果は有難い限りだった。


 そこで予期せぬ不意打ちによって肉体の一部を失った奴らは、一拍ほど遅れてやってきて痛みに気付いたのか悲鳴を上げ始める。


 もっとも一人は悲鳴を上げることも無く腹部に空いた大穴から大量の血を吹き出して床に倒れていくだけだったが。


「な、何が起こったんだ!?」

「て、敵襲だ!」

「敵!? け、警察か? 自衛隊か?」

「知らねえよ! なんにせよ逃げるぞ! このままここにいたら殺される……がは!?」


 事態を冷静に把握して大正解の結論を出した人物には祝いの品としてその肉体に弾丸を撃ち込んでやった。


 先ほどよりも威力を絞ったから腹部に空いた穴もそれほどではない。たぶんだが死にはしないだろう。


 まあ別に死んだところでこちらは全然構わないのだが。


 むしろ心情的にはさっさとくたばってもらいたいくらいであるし。


「ひい!?」

「うわあああ!?」


 仲間が次々とやられていくのを見て動揺した奴らは転がるように玄関に殺到する。


 その中には気配が薄れる奴もいたので、隠形か何かのスキルを発動したのかもしれない。


 だけど残念ながら以前の経験から超聴覚や生命探知などの索敵スキルを持つ俺の前ではあまり意味はなかった。


(スキルレベルも俺の方が上だろうしな)


 その後も防御のスキルを使うなどして何とか狙撃から逃れようとする奴もいたが、結論から言えばそれらは全て無駄に終わった。


 先程まで自身の力に驕り高ぶっていた奴らは、近付くことは疎か顔を合わせることもなく魔導銃による狙撃で誰一人として部屋から出ることさえ許さずに制圧されている。


 中には呻き声すら上げられなくなってしまった奴もいるが、まあ魔導銃の威力の確認に必要だったので仕方がないと諦めよう。


「よし、終わりっと。それにしてもこの程度の奴らならスキルで防御を固めたとしても魔導銃で十分対応できることが分かったのは大きいな」


 警察や自衛隊は魔物の対応に手一杯であり、覚醒者を集めていることからも分かる通り戦力も不足している。


 それをこの魔導銃でどうにかできるのではないかと俺は考えたのだ。


 一つで25000Pと決して安くはないが、これを装備した小隊などなら弱い魔物を相手にすることも十分に可能だろう。


 あるいは戦う力がない人がこれを使ってステータスカードを入手するのもありかもしれない。


 少なくとも魔力を込めておけば後は引き金を引くだけで、弾を発した際の反動などもほとんどないから普通の銃より扱いやすいのだから。


(……条件次第では何本か譲ることも考えるか)


 今は各地に魔力スポットも現れているので魔力の充填も前よりやり易いだろう。


 そんなことを考えながら俺はこちらの報告を待っているだろう仁たちに任務完了したことを念話で伝えるのだった。

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