第59話 超嗅覚での追跡
オークダンジョンを攻略した際に念話のスキルがレベルⅩになったことは覚えているだろうか。
それもあって当初はダンジョンを攻略した際に何らかの、あるいは一番ポイントが低いスキルのレベルが上がるのが報酬だと思っていたのだが、どうも特別な報酬には幾つか種類があるらしい。
何故ならゴブリンダンジョンを攻略したことに対する報酬は所持スキルのレベルアップではなく超嗅覚という新たな5000Pスキルが手に入るというものだったからだ。
(まあスキルは幾らあっても困るものではないし、新たにスキルが得られること自体は有難いな)
ただ気になったのは異世界からの帰還者以外ではスキル適性があるという点だ。
そして特別に報酬によるスキルの獲得は、もしかしたらその適正に関係ない可能性もあり得る。
そうなるとほぼ全てのスキルをポイントさえあれば手に入れられる俺よりも他の奴がダンジョンを攻略した方がいいかもしれないということになる。
(あとスキル適性とスキル継承がどういう感じになるかだな)
御霊石を使えばスキル継承が出来ることは分かっている。
ただしその際に継承する側が適性のないスキルが御霊石に込められていたらどうなるのか。
適性がなければ継承は不可能なのか。
それともショップでの購入はできなくとも継承はできるのか。
あるいはスキル適性すらも継承して、以前は購入できなかったスキルも買えるようになるのか。
制限のない俺達のような異世界からの帰還者が幾ら御霊石を取り込んでもそれを確認することは出来ないので、それ以外の覚醒者に協力してもらうしかないだろう。
自分達で分かる範囲の情報は調べて、先生のユニークスキルではそれ以外の情報収集をしてもらった方が賢明だろうし。
幸いにも仁や深雪といった協力的な覚醒者の知り合いもできたのだから。
(あいつらにとってもポイントや新たなスキルが手に入ること自体は悪いことじゃないはずだしな)
問題があるとすれば、そのために誰かの御霊石を消費することを彼らがどう思うかだろうか。
あそこにいたメンバーは基本的にはそれを拒否していたようだし。
だからこそ安全な覚醒者だと政府も判断したのだから。
(それに関しては悪人のものなら仕方ないと思ってくれることを祈るしかないか)
なんにしてもそのための御霊石がないことにはどうしようもない。
それも何らかのスキルを有している御霊石が。
「……血の匂いがするな」
教えてもらった悪人共が潜伏していると思われる地域を回っている中、遂に俺はその匂いを超嗅覚で強化された鼻で捉える。
特別な報酬で得た超嗅覚というスキルだが、単に鼻が良くなるだけのものではなかったのは助かった。
スキルレベルにも依るが、特定の匂いに対してのみ反応するような形で嗅覚を強化することも可能なのである。
そして先程の言葉の通り俺が感知するように設定した匂いは主に人間の血の匂いだ。
(……あいつか)
今の俺が居るのは歓楽街だ。
異常事態が発生しているので閉まっている店もあるし活気に満ちているということはないが、それでも魔物が出現している地域ではないので完全に人がいないということもない。
そんな疎らな人込みの中、明らかに強い血の匂いを漂わせている男がいる。
その身体に傷があって出血はしているということでもないので、これは何らかの形で身体に血の匂いが沁み込んでいるのだ。
(グールと戦った際の返り血。あるいはその前に人間を殺した時のものってところか)
こんな状況で体を洗った程度では取れないほどに血の匂い、それも人間のものを漂わせる人物。
これだけでほぼ確定と言っていいだろう。
(こいつを捕まえること自体は簡単だけど、それだとお仲間がいた場合にそいつらまで辿り着けなくなるかもしれないな)
狙うは一網打尽だ。
となればやはりここは追跡するに限る。
「おっと、すみません」
「ちっ! 気を付けろ!」
急いでいるふりをして対象に肩をぶつける。
その際に転移マーカーを設置するのを忘れずに。
これで仮に超嗅覚の感知範囲から逃げられても問題ない。
なにせそいつ自身を対象にして設置された転移マーカーはそいつが死なない限りは効果を発揮し続けるからだ。
(こいつはこれでいいな)
その後もその周辺を見て回りながら危険な匂いを漂せる奴らを片っ端からマーキングしていく。
これから準備を終えて奴らを襲撃する際、仲間を見捨てて逃げる奴が絶対に出るだろうから。
(マーキングしてる奴らは逃げられても追えるけど、中には把握漏れしてる奴がいるかもしれないからな。なるべく取り逃しは少ない方がいい)
なのでやる時は一気に。
それもなるべく他に情報が伝わらない形が望ましい。
「そういう訳で俺がぶちのめした奴らの捕獲は頼んだぞ」
「マジでやるんだな?」
「ああ、直ぐに終わらせるから合図を受け取った後にお前達はきてくれ」
待機している仁達に念話でそう伝えてから俺はゆっくりと立ち上がる。
焦ることはない。
なにせここ数日の成果として、そういった奴らのアジトと思われる場所も突き止めているのだから。
だって危険人物と思われる奴らのマーカーの大半がある場所に集まっているのだ。
(転移マーカーは発信機としても使えると)
それもあってそこまでの大まかな移動ルートなども丸分かりだし、逃走ルートと思われる場所などに回り込めるようにもしてある。
つまりこいつらはもはや籠の中の鳥に等しい訳だ。
「それじゃあ始めようか」
そうして全ての準備を終えた俺は、狩りの開始を宣伝した。
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