第61話 アンデッド化の速度とお偉いさんとの面会

 その後も何件かのゴミ掃除を敢行した。


 聖域の安全確保という自身の目的を叶えると同時に実力と有用性を証明するために。


 その結果、それなりの罪を犯した覚醒者が捕獲されることとなった。


(どいつもこいつもランク5に届いてないし、スキルに関してもレベルⅠやⅡがほとんどだったな)


 それも大半が1000Pスキルや3000Pスキルの。


 ランクは分かる。


 アンデッド化したばかりのグールで手に入る経験値は僅かなもののようだし、オークやゴブリンでもかなりの数や進化した個体を倒さなければ中々多くの経験値を得ることはできないのは自分の身で証明しているので。


 ただ御霊石の方は最低でも一つにつき1万という大量のポイントで売却できるので、やり方によっては大量のポイントも入手できると思うだろう。


 だけどその御霊石を手に入れるためには、死んだ人がグールに変化した後に仕留めなければならない。


 つまりは人を殺した後にすぐにその遺体を破壊してもグールを倒したことにはならないということが捕まえた奴らの証言から発覚したのだ。


 だからこそ奴らはそれほど多くの御霊石を入手できなかったらしい。


(敵の支配領域だとアンデッド化の進行もかなり早いけど、外に出れば違うんだったな)


 グールが上位ハイグールになるのが遅いように、死体がグールになるのも敵の支配領域の外ではそれなりの時間が必要になるようだ。


 それでも混乱に乗じて一人や二人を殺すことはどうにか可能だったのだろう。


 だけどそう何人も殺していたら人目に付くのは避けられないし、大量殺人などの無視できない騒ぎになれば警察なども優先的に対応せざるを得なくなる。


 その結果、犯罪者がグールから御霊石を得るのは想像以上に上手くいかなかったという経緯があるようだ。


(なんにせよ犯罪者共がそこまで力を手に入れてなかったのは俺にとっては好都合だったな)


 おかげで思っていた以上に楽に事が片付いたというもの。


 犯罪者は仁や深雪のように御霊石を利用したがらない奴らよりはずっと多くのスキルを手にしていたようだが、それでもスキル適性などがあるのだ。


 特典や魔物の群れを倒しまくったことでポイントも稼ぎ、習得スキルに制限のない俺の敵ではなかったので。


 そうしてそのゴミ掃除の功績が認められたこともあり、俺は遂に要望していたお偉いさんとの面会が許可されることとなった。


 となれば善は急げ、だ。


 俺は監視員に案内されるまま、すぐに指定された面会場所へと向かうこととなったのだが、


(……随分と警戒されているみたいだな。まあ力を誇示した時点でこうなるだろうとは思っていたけどよ)


 案内された部屋にはお偉いさんの他にも人が待っていたのだ。


 しかもそいつらは銃を構えた状態で油断なくこちらを見つめている。服装からして自衛隊に所属する人物と言ったところだろうか。


「君が真咲 譲か。その活躍は耳にしているし、こうして会えるのを私も待ち望んでいたよ」


 森重一等陸佐と名乗った人物は部下に銃を向けさせているとは思えない友好的な態度でこちらを迎えていた。


「ああ、楽にしてくれて構わないよ。部下が私の身の安全のためにどうしてもと言うから護衛を置いているが、君の様子を見るにこの程度の武器など脅威ではないようだしね」

「……そいつはどうも」


 実際脅威ではないし、別に敬うことを強制する様子もないので俺はズカズカと部屋の中にはいっていくと森重という男と机を挟んだ真正面の椅子に座る。


「それでまずは確認したいのだが、東京があの塔のおかげで安全地帯になったというのは間違いないんだね?」

「ああ。聖樹と聖域が有る限り、その効果が及ぶ範囲では魔物や新たなダンジョンが出現することはないそうだ」

「つまり何かの拍子にその聖樹とやらが破壊されれば、また東京に地獄絵図が発生する可能性があるということか……」


 与えられた情報だけでこちらが言及する前にその事実に思い至る辺り、この森重という人物はかなり頭が切れるようだ。


 そう思って相手のことを見つめていると、向こうも俺の様子を観察してくる。


 そうしてしばらく見つめ合った時間が続いた後だった。


「……なるほど、やはり君は私が待ち望んでいた人物のようだ」


 不意にそう呟いた森重が手を振ると、これまでずっとこちらに銃を突き付けていた部下が構えを解いたと思ったら一斉に部屋の外に出ていく。


 それどころか部屋の外から監視していた奴らも完全にこの部屋から離れており、俺と目の前の人物が完全に一対一となっていた。


「いいのか? 護衛を完全に引き払って」

「構わないよ。そもそも君がその気なら私達など一瞬で皆殺しにできるだろう。それならどれだけ護衛の人数を増やしても意味はないし、むしろ無駄な犠牲を増やすだけさ。それに私の方も君と内密で話したいことがあるんだ」


 そうして発せられた森重という人物の次の言葉には、さしもの俺は驚きを隠せなかった。


「異世界からの帰還者であり、この絶望的な状況を覆すことが可能な唯一の存在であろう君とね」

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