第50話 ゴブリンキング戦
だだっ広い草原を進む傍ら、次々に視界に入るゴブリン達は一匹残らず屠っていく。
侵入者である俺を排除するのが最優先事項なのか、外の魔物と違ってダンジョン内の魔物は逃げることはない。
どんな形であろうと敵である俺に対して向かってきてくれるので、それを迎え撃つ形の俺としては楽で良かった。
逃げられて追う手間が掛からないだけ早く魔物を仕留められるし。
そんな形でゴブリンを排除しながら脱出ポイントも二つか見つけており、逃げようと思えばいつでも逃げられる状態なこともあって、俺は特にこのダンジョンの攻略については問題を感じていなかった。
(この広い草原にも端はあるみたいだし、この調子で進めば全部を調べられるのも時間の問題だしな)
要所には転移マーカーも設置しているので、戻ろうとも思えばいつでもその場に転移もできる。
そんな風に順調にゴブリンの群れをオークナイトの大剣で切り伏せた後、三つ目の脱出ポイントを発見する。
「一応これも解放しておくか」
他の脱出ポイント前にも転移マーカーは設置しているので、外に出たいときはそこまで飛べばいいのは分かっている。
だけどこの魔法陣が奉納などの人類にとって必要と思われる機能を有していたことなどから察するに、そうすることで人類側にとって有利になるだろうことは想像に難くない。
有難いことに無限魔力のおかげで起動するためのエネルギーの供給に困ることはないのだ。
だったらやらない手はないではないか。
そう思ってこれまでと同じように魔法陣とのパスを繋いで魔力譲渡を発動する。
これでこれまでと同じように時間が経てば魔力が満たされた魔法陣が起動することだろう。
ただし今回はこれまで通りとはいかなかった。
何故ならその脱出ポイントを解放されることをよしとしない存在が突如として現れたからだ。
「「グオオオオオ!」」
何もない上空から咆哮を響かせながら突如として二つの影が敵である俺の事を圧し潰さんとばかりに降ってくる。
勿論それを正面から受ける義理もないので、俺はその場から退いて回避するが。
「ゴブリンキングだな。今まで見たことないしお前達がボスってところか?」
それも二体。どちらも敵である俺に鋭い眼光を向けて敵意を隠そうともしていない。
「「グオオ!!」」
当然ながらこちらの言葉に聞く耳を持つはずもなく、二体のゴブリンキングはそれぞれの手に握られた剣を構えると、こちらに向かってくる。
今の俺なら魔闘気を使えばこいつら二体くらいなら楽勝だろう。
だけど今回は他のスキルの性能を試してみたいこともあって、あえてすぐに魔闘気は使わない。
他の魔物との戦いのために考えた戦術が有効なのかも確かめておきたいのだった。
だから俺はまずはとある氷結魔法を発動するべく魔法陣を展開する。
それを見たゴブリンキング達はニヤリと、こちらに迫ってくる最中でも分かるくらいの笑みを浮かべた。
距離的にどう考えても魔法陣に魔力が満たされて魔法が発動するよりも先にゴブリンキング達が到達する。
魔法の発動準備中はその場から動けず無防備になるので、敵からしたら隙だらけの内に攻撃を叩き込める大チャンスだ。
しかも攻撃によって集中力が途切れれば発動していた魔法も不発に終わるので、普通に考えればこれは圧倒的悪手。
敵は突然の奇襲に焦った愚か者だ。ゴブリンキングの頭の中に浮かんでいるのはそんな感じのことだろうか。
(空間跳躍、発動)
だがその程度のことを異世界で何度も死線を潜り抜けてきた俺が理解していない訳がないではないか。
俺は魔法の準備を進めながら更に別のスキルを発動する。
すると先ほどまで立っていた場所から遠く離れた位置、それでも敵の姿を見失わない絶妙な距離に設置しておいた転移マーカーへと移動する。
それも魔法の準備は中断されることなく。
どうやらシステム的にユニークスキルによる転移は移動に含まれないらしく、こうして実質的には移動しているのに魔法陣は展開したままというある種の裏技が可能なのだ。
そうして距離と時間を稼いでいる内に魔法の発動準備は整った。
「アイスボール」
発動したのは以前のカスが使った火炎魔法のファイヤーボールの別属性版の魔法だ。
ただしそこに込められたMPはカスのものとは比べものにもならないだろうが。
なにせカスが生み出した火球は3つだけだったのに対して、俺の周囲に浮き上がっている氷球の数はその十倍の30個もあるので。
どうやらMP1に対して一つの球が生み出せるらしく、レベルⅢで込められる最大値の30ではこうなる訳だ。
「さて、ボスであるお前達は何発まで耐えられるかな?」
流石に腐ってもボスだからレベルⅠの魔法ではどれだけくらっても死ぬことはないだろうか。
それとも俺のINTによって威力が強化された魔法ならゴブリンキングであろうとも容赦なく蹂躙するだろうか。
「降り注げ」
それを確かめるべく俺は全ての氷球を一斉に解き放つ。
ゴブリンキングもこのままやれる訳にはいかないと言わんばかりに一体が口から炎を吐き出して迎撃しようとするが、一発目を相殺するので精一杯だった。
「グオオオ!?」
そのまま濁流に飲まれるように氷球の嵐を受けるしかない二匹のゴブリンキング。
少しして視界が晴れた時には、そのどちらも全身が凍りついているようだった。
ただし完全に氷像と化したのは迎撃しようとした一体のみで、もう一体はその仲間を盾にしたらしくその背後でどうにか生きている。
「仲間を犠牲に自分だけ生き残ったか。賢いと言うべきか、生き汚いと言うべきか迷うところだな」
そう言いながら俺は魔導銃を取り出して、最小限のチャージで一発の弾丸を敵に向けて放つ。
放たれた弾丸は氷像と化した敵に命中して、衝撃によって氷の彫像は砕け散った。
残る一体もこのままチャージした魔導銃を放てば仕留められるだろう。
でもその前にやることがある。
俺は転移を使って生き残りの近くまでくると、そいつが落としていた剣を忘れずに拾っておく。
これで武器を奪う条件は達成した形だった。
「グオオオ!」
近寄ってきた俺に最後の抵抗をするべく飛び掛かろうとしたゴブリンキングだったが、奴が何か行動を起こす前にその足に向けて奪い取った剣を投擲した。
深刻なまでに凍りついていた足はそれが突き刺さった衝撃で砕けてしまい、支えを失ったゴブリンキングの身体はその場に転がるしかできない。
「グウウ……!」
その状態になってもゴブリンキングは戦意を失うどころか、剥き出し敵意をこちらに向けてくる。
僅かでもその身体が動くなら自身と同じ邪神の眷属以外を滅ぼそうとする魔物に相応しい在り方だった。
当然俺も慈悲など与えることはなく、倒れ伏すゴブリンキングの額に照準を合わせながら魔導銃のチャージを開始する。
「あばよ」
放たれた致死の一撃は容赦なく敵を葬り、その場には二つのゴブリンキングの魔石だけが残されるのだった。
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