第45話 御霊石の活用法

 グールは発見次第、早急に始末する。

 

 そう決めていた俺は犠牲になった女性のグールや、色々な実験の役に立ってくれたカス共のグールもしっかり始末して、その御霊石も回収してある。


 もっともこれまでと違ってカス共の御霊石を残しておくつもりはなかったが。


(蘇生スキルを手に入れたとしてもあのカス共を生き返らせるつもりもないし、だったらインベントリに死蔵しているよりも有効活用するさ)


 あれからスキルを持っていた男にはどういう経緯で魔物を倒したのかなど聞きたいことは洗いざらい吐かせた。


 聞けばあいつは魔物が発生した初期の頃。


 逃げる際に車を運転している最中、グールを轢いたとのこと。


 それでステータスカードや御霊石も入手し、火炎魔法などのスキルもその御霊石をショップに売却したポイントで買ったらしい。


 そして避難所に逃げたしばらく後、ネットなどの情報でグールが人間の死体が変化したものだということや覚醒者と称されるステータスカードやスキルを入手した存在のことを知る。


 俺は異世界から戻ってきたこともあってネットの情報などにはまだまだ疎かったが、既に特定の裏サイトなどではそれらの情報がそれなりに出ているらしい。


 もっともそこの情報の全て本物ということでもなければ、覚醒者についても全面的に信じられている訳でもないようだが。


 そうして自身が特別だと誤解した愚かな男は最初こそ魔物を倒して魔石を入手しようと目論んだ。


 だがあの程度のスキルやステータスではゴブリンならともかくオーク相手では分が悪かったらしく逃げるしかできなかったとのこと。


 それもあって俺のように東京中を散策することは出来ず、魔物が移動できる範囲ギリギリで狩りを続けても数日掛けても数体のゴブリンの魔石を入手することしかできなかった奴は、もっと簡単に手に入る物に目を付けた。


 それ即ち御霊石である。


 ただグールはオークなどが狩っていたこともあって、その時期にはグールをそう簡単に発見することもできなくなっていた。


 だから奴はこう考えたのだ。


 だったら自分で人を殺せばグールを作り出せるのではないか。

 そのグールを仕留めれば労せず御霊石を手に入れられるのではないか、と。


 だけど避難所で人殺しなどすれば誰に見られるか分かったものではないし、この緊急時に人殺しの犯罪者がどう対処されるのか分かったものではない。


 それこそ逮捕されるなど生易しい対処ではなく、危険分子として排除されてもおかしくはないのだから。


 そこで奴は避難所の中で、家族や友人を東京に残してきてしまった人達に目を付けた。


 そしてそんな人達に特別な力を持つ自分なら危険な東京でも人探しができるとこっそり持ち掛けたのである。


 自衛隊や警察も必死に人命救助などを行なってはいたが、それでもこの未曽有の事態に対応できているとは言い難い。


 その状況でそんな言葉を聞かされて疑いながらも心動かされる人も中には出てきてしまったのだろう。


 そしてその甘言に乗せられた数人は奴と一緒に東京という秩序が崩壊した場所まできてしまい、その身勝手な欲望の餌食になってしまった。


 そしてその御霊石は既に売られてしまっていたのでもう取り戻すことは出来ない。


「クソ共が」


 だがこういう奴はこれだけではなく他にもいるのだろう。


 異世界でもそうだったし、人間という生物は残酷な生き物であることは分かっていたことだ。


 自分が同じになるつもりはないが、だからといってここでその文句を言ったところで今はどうしようもない。


 それよりも問題は、オークがいなくなったことで奴らも東京での行動が以前よりも簡単になっているということだ。


 それはつまり他の自衛隊なども同じであり、俺以外の誰かと遭遇する可能性が高まるということでもある。


(誰と遭遇するにしても面倒事になるのは必至。そうなる前にゴブリンダンジョンを攻略して東京を解放したいな)


 そう思いながらここで入手した御霊石を初めてショップで売却しようとする。


 ステータスカードを持たない二人については特に問題はなかった。どちらも10000ポイントに変換されるだけだったので。


 だが問題はスキルを持っていた男の御霊石を売ろうとした時である。


「……前に先生が御霊石には色々な使い道がありそうだって言ってたけど、これがその一つってことか」


 まずこの御霊石の売却額は20000ポイントと他よりも高かったのだ。


 以前に手に入れた上位グールの御霊石の売値は10000ポイントだったというのに。


 上位グールが10000でただのグールが20000。

 これはつまり魔物の強さが売値を決める訳ではないということだ。


(他との違いがあるとすれば、ステータスカードやスキルを持っていたことだな。もしくはランクが上がった対象の御霊石だと値段も高くなるとかか?)


 それも大きな問題ではあるのだが、それ以上に困ったことが別にある。


 それは売却しようとした際に出てきたこの警告文のようなものである。


『売却しようとしている御霊石を使えば対象者は新たに『火炎魔法』レベルⅠのスキルを入手することが可能です。それでも本当に売却しますか?』


 これ以外の二つでは『本当に売却しますか?』の確認だけだったというのに、今回はそれ以外の文章が追加されていた。


 火炎魔法は5000ポイントスキルなので、これを売ってからショップでそのスキルを買った方が断然お得だ。


 だから問題はそこではない。


「まさか御霊石を使えば対象が持っていたスキルを継承できるってのか?」


 そう考えた俺はとある御霊石で確認しようとする。


 それは聖女と称され強力な癒しのユニークスキルを持っていただろう美夜の御霊石である。


『売却しようとしている御霊石を使えば対象者は新たに『万能治癒』『聖域展開』のユニークスキル及びショップに新たな商品の追加が可能です。それでも本当に売却しますか?』


 その結果はユニークスキルすらも継承可能というものだった。


 俺は美夜を必ず生き返らせると誓っている。


 だからこそ生き返らせるために必要な御霊石を売るなんて考えたことも無かったし、今も失くさないように大切にインベントリにしまってある。


 だからこの仕組みにもこれまで全く気付けなかった。

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