第44話 魔法の確認と異世界流の後始末

 一瞬で無力化された上、煽るように先程の自らが発した言葉をそっくりそのまま返された男は明らかにそれまでの余裕を失っていた。


「あ、足が。俺の足が!?」


 それどころか自身の膝から下がなくなってしまったに動揺して泣きそうになっている。


 だがその割には痛みに苦しむような様子はないみたいだ。


(回復薬のおかげか傷もほとんど塞がっているな)


 新たな足が生えてくることはないようだが、それでも傷を治す力はかなり強いようなのは確認できたのでよしとしよう。


 なお、おまけ二人に関しては身体に銃弾をぶち込まれた痛みで喚き叫んでいるが、すぐに死にそうにはないから放置である。


「おい」


 だから俺は唯一、ステータスカードを持っているだろう男の髪を掴んで強引にこちらに目線を向けさせる。


「ひ!?」

「ステータスカードを出せ。それとお前の持つスキルについて説明しろ。どうせ御霊石を換金したポイントで何か手に入れてるだろ?」

「わ、分かった! だから殺さないでくれ!」


 慌てた様子で懐からステータスカードを俺に渡してくる。


 先程まであれほど偉ぶっていたとは思えないほど素直な様子で何よりだ。


(スキルはSTRとVIT上昇がレベルⅡと火炎魔法レベルⅠだけか。思ってたより少ないな)


 自信ありげな様子からてっきりもっと強力なスキルを持っているかとも思ったのだが、そこまで大量のポイントは得られていなかったようである。


 ステータス強化は俺も持っているので説明はいらない。


 だから火炎魔法について詳しく話すように聞くと、スキルを手に入れた時点でそのレベルで使える魔法の名称や使い方などが頭の中に流れ込んでくるのだとか。


 例えば火炎魔法のレベルⅠでは火の球を放つファイヤーボールと炎の壁を発生させるファイヤーウォールが使えるようになるらしい。


 ただスキルを得ても使えるようになるだけで、それを使いこなすには鍛錬が必要になるみたいとのこと。


 異世界ではどう頑張っても魔法を習得できなかった俺だが、スキルでそれら魔法が使えるのならかなりの戦力となるのではないだろうか。


 無限魔力を持つ俺ならMPなんて気にせずに魔法を使い放題になるはずだし。


 それを確認するために悲鳴を聞いたのか周囲に集まってきていたゴブリンの内、一体だけを動けないようにしてそれ以外を殲滅する。


「試しにその火炎魔法とやらを見せてみろ」

「わ、分かった」


 その残った一体に向けて魔法を使うように命令する。


 それに逆らえばどうなるか分かっているらしく、男は素直にその指示に従った。


 男が意識を集中させるとその足元に光を失ったような魔法陣が展開され、魔力を流し込むことによって徐々に光を取り戻していった。


 そしてその魔法陣全てが赤い光に満たされた時、


「ファイヤーボール」


 男が魔法を唱えると同時に三つの火の球がそいつの周囲にどこからともなく発生する。


 その内の一つが残されていたゴブリンに命中して、その全身を着弾と同時にまき散らされた炎が包んで焼いていく。


(異世界の魔法と違って詠唱は必要ないのか。ただ魔法発動するまでその場から動けなくなるのは少し使い辛いな)


 魔法陣に魔力を流し込む速度も慣れれば慣れるほどに速くできるようになるそうだから、それも鍛錬次第かもしれないが。


 ただ威力の方は申し分ない。男のINTの数値は7と決して高くないのに、ゴブリンを一撃で仕留められているのだから。


(MPが非常に回復し辛い分、MPを消費した攻撃の威力や性能が高く設定されてる感じか?)


 そんな風に炎に焼き尽くされて魔石だけを残されて死んでいくゴブリンを見ながら考えていたら、それを好機だと捉えたらしい。


「今だ! 死ね、クソヤロウ!」


 奴が残る二つの火球を俺へと放ってくる。


 足がなくて動けなくても魔法なら攻撃できる、俺を仕留められるとでも思ったのか。


「お、丁度いいや」


 他にも確認したいことがあったので、その内の一つに向けて銃弾を受けて地面を転がっていた内の一人を放り投げる。


 そうして投げられた男は空中では何の抵抗をすることもできず火の球に接触。


「ぎゃああああ!」


 そうなれば当然、ゴブリンと同じように炎に包まれる男。


 少しの間はあまりの熱さに勢いよく地面をのたうち回っていたが、やがてその動きも緩慢になっていく。


「ゴブリンとはいえ魔物も仕留められるんだもんな。普通の人間でも当然一撃か」


 STRやVITも上昇して強靭な肉体も手に入れ、更にこのスキルでその気になれば一撃で人を殺せる手段も得た。


 拳銃もショップで手に入れたことも相まって、自分が絶対的な強者になったと勘違いしたのだろう。


 実に愚かな話である。


「く、くそが!?」


 肉壁は残る一発も同じように防ぐことはできたのだが、俺はあえてそうはせずにその火の球の進む軌道から離れてみる。


 すると男は必死の形相で火の球をコントロールして、どうにか逃げる俺に向けてその一撃を当てようとしていた。


 その様子からある程度の軌道変更や操作も可能なのを把握した俺は、最後の確認のためにその身で火の球を受ける。


「よし! やったぞ!」

「……なるほど、思ったよりダメージは受けるのな」


 自らの必殺の一撃を命中させたことで歓喜の声を上げた男だったが、すぐにその表情は絶望の色に染まっていた。


 何故ならその一撃を与えた敵である俺は多少の火傷を負うだけだったから。


「さてと、この際だ。丁度いい実験台があることだし、お前で試したいことを粗方試させてもらうとするか」


 元から助けるつもりなど毛頭もない。


 こういうカスは生かしておいても百害あって一利もないことは異世界での経験で嫌というほど思い知っているので。


「喜べ。お前達の尊い犠牲は人類の勝利に役立つよう俺がキッチリ活かしてやるからよ」


 そうしてしばらく後、その場には犠牲になった女性を含めて新たなグールが四体ほど生まれることとなったのだった。

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