第3章 選択と仲間

第40話 新たな情報

 魔物が出現してからおおよそ一週間が経過した。


 相変わらず世界中で混乱は続いているようであり、日本でも政府が対応に苦慮していると聞く。


(国の中枢だった東京が陥落したのも影響が大きいんだろうな)


 東京から逃れた総理を始めとした政治家などは岐阜で仮設の首相官邸から自衛隊などに指示を出しているとのこと。


 本来は大阪に移動する予定だったそうだが、その大阪でも魔物が出現したことで一先ず岐阜となったとのこと。


 可哀そうなことに国民からは早く何とかしろと、この理不尽な状況の対応を求められているらしいが、こんな事態を想定していたはずもなく混乱状態は未だに脱し切れてはいないようだ。


 自衛隊などが各地の生き残りを救助しているそうだが、魔物に邪魔されて思うよう

に進んでいないようだし。


「となると、やっぱり東京を取り戻すのを最優先にした方が良いか」


 オークダンジョンのボスを倒してダンジョンを攻略することに成功したことによってオークダンジョンは消滅した。


 それと同時に東京中に散らばっていたオークも同じようにその姿を消したことからゴブリンも同じ方法で消せるはず。


(ゴブリンダンジョンが有ると思われる場所も掴んでいるんだ。体力が回復したらすぐにでも動こう)


 北海道や大阪など他の地域についても気になるところではあるが、俺の手の届く範囲はそう広くはない。


 魔物以外にも魔族という厄介な敵が存在することが判明したこともあるし、焦って足元を掬われない為にも一つずつ着実に攻略を進めていくしかないだろう。


 そのためにも情報は必要不可欠。


 これまでのことからも分かるが、人類の神とやらは非常に説明不足で不親切な設計なこともあって分からないことが多過ぎるので。


「ってことで、今回は何が分かった?」

「そう慌てなさんな。順を追って話すが、とりあえず二回目で多少慣れたおかげか前よりも多く情報を得られたぞ」

「それは助かるな」


 芹沢先生のユニークスキルである叡智の書によって手に入れた情報。


 それを彼は念話ですぐに俺に伝えてくれる。


 まず魔族から聞いた情報、魔族の目的や人類陣営と邪神陣営で陣取り合戦のようなものが行なわれているなどの情報は全て本当のことだと分かった。


 しかも今回は俺からその情報を得ていたことから、確認のために必要なMPやポイントが前よりも大分減っていたらしい。


(未知の情報は求められる対価も多くなるが、情報を得るとそれが多少なりとも減る感じなのか)


 だとすれば叡智の書に頼ってばかりではなく、自分で情報を得る努力を今後も続けなければならないだろう。


 七日という長いクールタイムがある上にMPやポイントが求められるユニークスキルの性質上、全てを知るにはどれほどの時間が必要か分からない。


 それを少しでも効率化することは決してこの先でも無駄にならないはずだから。


 それに敵の狙いやこの世界で何が起こっているのかが多少なりとも分かったことの意味は大きい。


 それがあることで今後の方針の立てやすさが段違いなのである。


 次に分かったのは俺がオークダンジョンを攻略した際に手に入れたオークダンジョンのマスターキーと聖樹の種についてである。


 まずこの二つのアイテムは特定の場所でしか使うことができないらしい。そしてそれは現状では世界のどこにも存在していないとのこと。


「ダンジョンを攻略して邪神に侵略された陣地を完全に取り戻す。そうすることで初めてこれらのアイテムは使えるみたいじゃ」

「それってオークダンジョンじゃダメなのか? あそこは俺が攻略して取り戻した人類側の陣地のはずだろ」


 そう思ったのが残念ながらそれは否定されてしまった。


「どうやらダンジョンは発生と同時に一定の範囲内に支配領域のようなものを作り出すようなんじゃ。その領域内では魔族や魔物が曲がりなりにも力を取り戻して、活動できるようになる」


 単体のダンジョンの場合は攻略して消滅させればそれで完全に陣地を取り戻せる。


 だが今回の複数のダンジョンの支配領域が重なった場合、それらは共鳴というか合体するかのように一つの大きな支配領域をとなって、どれか一つを解放しても他の影響が残ってしまうらしい。


 また領域が共鳴した際は領域内に出現する魔物も二つのダンジョンが合わさったものとなるとのこと。


(だから東京ではゴブリンとオークが出現したのか)


 邪神側からしたらそうやって自分達や配下の魔物が自由に行動できる支配領域を広げていこうとしているに違いない。


 つまり今回の場合ではオークダンジョンだけでなく、それと領域を合体していた思われるゴブリンダンジョンも全てを消さないと完全に陣地を取り戻すことはできないということのはず。


 なお、マスターキーや聖樹の種を使った際の効果はポイントが高過ぎて調べられなかったとのこと。


 だがそれだけポイントが高いということは重要なアイテムである可能性が高いと考えられる。


(どうせ東京は解放しなきゃいけないと思っていたところだしな。それらのアイテムの効果を確かめる意味でも好都合だ)


 ゴブリンダンジョンを消滅させて人類の陣地とやらを完全に取り戻した後、それらのアイテムの効果を確かめるとしよう。


 この感じだとこちら側に不利になるようなものではないようだし。


 ただそこで注意しなければならない点がある。それはこちらが奪われた陣地を奪還できたように、敵も陣地を奪い取れるらしいということだ。


 まあ一度はダンジョンを発生させて侵略しているのだ。同じことが出来ても何らおかしくはないのだろう。


「残念ながらその具体的な方法までは分からんかった。だが敵も奪還されてそのまま諦める、なんてことはあり得ないということじゃな」

「陣地を奪還しても、それを守らなければいけないってことか。てなるとやっぱり俺達以外の戦力がどうあっても必要になってくるな」


 数は力というだけではない。


 仮に俺や茜達が必死になって世界中の陣地を取り戻したとしても、それを守れなければ意味がないかもしれない。


 だが幾ら勇者一行でも身体は一つしかないし、やれることに限界がある。


 あるいは茜が大量の竜を使役して、各地の守りに就かせられるなら一人で防衛できるかもしれないが、そんな一人に依存した状態で茜が万が一でも討たれれば終わりだ。


(そういう意味だと魔力譲渡も同じなんだけどな)


 だから行く行くは茜達も俺の魔力譲渡なしでも問題ないようになってもらいたいところではある。


 強大な力の代償で究極的なまでに燃費の悪い勇者ならともかく、この二人ならある程度までならそれも難しくはないはずだし。


「それとこれは茜からの情報でもあるが、領域外ではグールの進化も遅くなることも分かっておるぞ」


 人に戻せないか研究対象にされているグール。


 東京都から生きた?状態で連れ出された個体を茜に隠れて始末するように頼んでいた。


 だが領域内では数日で進化したグールは、その外では未だに進化する兆候も見せていないらしい。


「なるほど、そういう意味でも敵の支配領域は早めに潰しておくべきってことだな」


 そうすることはグールが進化して厄介な敵になること防ぐことにも繋がるのだから。


「今回はこんなところじゃな。また知りたい情報が有ったらスキルを使う前にでも伝えてくれ」

「了解。助かったよ、ありがとう」


 これらの情報があるだけで色々なことが変わるというもの。


 今後の方針などを決める上でもそうだが、敵から得た情報の真偽を確認できるなどの使い方もできるのだし。


 これらの情報を元に、次の行動をどうしようか改めて考えていると、


「ちょっと聞いてよ、お兄ちゃん!」


 妹が急に襲来してきた。

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