第39話 追憶 勇者と英雄の雌伏の一時

 邪神とその眷属である魔物に対して特に絶対的な効果を及ぼす破邪の力。


 それこそが僕が神から与えられた力だった。


 それを知った当初の異世界人たちは大きな期待を僕に寄せた。


 敵に対して特攻の力を有している存在が現れたとなったのだから、その気持ちも分からなくもない。


 だけどその期待はすぐに消え失せることとなる。


 何故なら僕の力は他の神から授けられた力と比べても、圧倒的なまでの魔力を必要としたからだ。


 そして残念なことに魔力なんてない世界で生きていた僕の中に存在する魔力は決して多くはなかった。


 全く無い訳ではなかったのは救いだろうが、それでも努力ではどうしようもない次元の問題だったのは間違いない。


 最初の内は多くの人がどうにかできないかと協力してくれた。


 魔力を増やすために様々な鍛錬方法を教えてくれたり、魔力が増える貴重な薬を与えたり、どうにかしてその唯一にして絶対の問題を解決しようと奔走してくれたのである。


 だけど残念ながらどんなに努力しようとその問題が解決することはなかった。


 かなりの魔力が増えても延びた時間は僅か数秒だけ。

 その異常なまでの燃費の悪さを再認識させられただけだった。


 その結果、僕はいつの間にか期待を寄せられることは無くなり、いつの頃からか使えない異世界人と陰で言われるまでになっていた。


 他にも同じような人も何人かいたが、僕は最初に期待されていた分だけ落差が激しくなったせいか、その中でも人一倍扱いは悪かったと思う。


 どんなに無能でも神が世界の危機を救うためにと異世界から使わせた存在なので、扱いは悪くとも殺されるとか危害を加えられることがなかったことだけが救いだろう。


 実際にそうでなければこんな役立たずなどすぐにでも始末してやるのに、という発言をしている国の高官がいるのも知っているし。


「……」


 それでも僕は今日も鍛錬を欠かさず続ける。


 異世界に来てから毎日、決してサボることはなく。


 今は魔力を少しでも増加させるために自分の魔力を使い切ったところで、魔力の回復を早めるために教えられた瞑想をしている最中である。


「なあ、お前」

「……」

「おい、そこの目を瞑ってるお前だよ。聞こえてるんだろ? 無視すんなよ」

「……悪いけど瞑想が終わるまで待ってくれないか」


 誰かが話しかけてきたけど今は瞑想の最中なので対応できない。


「……ふう、よし終わった。次は剣の鍛錬だな」

「待てこら!」


 次の鍛錬に進もうとしたら見知らぬ男に急に怒鳴り付けられてしまった。


 いや、そう言えば先程、声を掛けられて僕が待つように言っていたのだったか。


「ああ、すまない。次の鍛錬のことを考えていてすっかり忘れてたよ」

「いや、幾らなんでもその言い訳は無理があるだろ! ……ってその顔は嫌みとかでなく本気で忘れてたのかよ。お前、いったいどんな神経してんだ?」


 怒っていたかと思えば呆れた様子になる見知らぬ男。


 年齢的には僕と同じくらいだろうか。


 黒髪黒目の見た目から同じ立場の人間であることが分かる。


 いや、こんな時間に暇をしている様子からすると、それ以外でも僕と同じ立場なのだろうことが簡単に予想できた。


「それともそれだけ図太い神経を持っているからこそ、周りからこれだけバカにされても鍛錬を続けられてるってか? 使えない奴って扱われてる意味では同じだけど、俺にはとても真似できねえ行いだな」

「ありがとう。こんな僕のことを褒めてくれるなんて君は優しい人なんだね」

「褒めてねえよ!」

「え、そうなのかい?」

「お前な、今の言葉をどう捉えればそうなるんだよ……」


 大きな溜息を吐いて呆れた様子を隠さない名も知らぬ男。


 だけど僕はその言葉の意味がよく分からなかった。


 だって言葉遣いは荒くてこちらを貶すような感じで話しているものの、彼は間違いなくこちらのことを認めているのが僕には分かるから。


「君の言っている言葉の意味がよく分からないな。そもそもどうして嘘を吐いているんだい? 君だって僕と同じくらい鍛錬を続けているだろうに」

「……」


 絶句して驚愕しているのを隠せない様子の彼。


 どうやら自身が隠れて鍛錬をしていることを見抜かれるとは思ってもいなかったらしい。


「お前、なんで……」

「理由なんてないよ。ただ何となく僕には分かるんだ。どうもこっちに来てからそういう第六感的なものが研ぎ澄まされてるみたいでね。あるいはこの直感のような何かも神から与えられた力なのかもしれないね」


 神から複数の能力を与えられた人もいるので、僕もそうである可能性も決して零ではないだろう。


 でも仮にこれが全て僕の勘違いで事実はまるで違ったとしても、そんなことはどうでもいいことだ。


 今の僕からしたら理屈を無視して何らかの答えが分かるということが重要なのであって、その過程や理屈などは何でもいいのだから。


「僕は邪神を倒すよ。誰に何を言われようと関係なく、必ずね」


 そこで前触れなく発言した僕にまたしても彼は驚愕する様子を見せる。


「急になんだよ」

「いや、たぶんこれが君の知りたい事じゃないかと思ってね」

「……それも直感で分かるってのか。無茶苦茶だな」


 ガリガリと苛立たし気に頭を掻いていた彼だったけど、それが終わると先ほどまでとは表情が一変している。


 その顔は戦う者の、覚悟を決めた存在だけが持ち得る表情を浮かべていたのだった。


「その根拠は? それも例の直感とやらか」

「いや、これは違うよ。むしろ直感は絶対に無理だって警告を鳴らしているくらいだし」

「はあ!?」


 絵にかいたような反応をしてくれる彼に思わず僕は笑ってしまった。


 そのくらい本当にお手本のようなリアクションだったのだ。


「何を笑ってんだ! 神から与えられた直感すら無理だって言ってんのなら尚更」

「誰も彼もそれが可能だなんて欠片も思っていないということだね。敵である魔物やその大本である邪神すらきっとそうだろうさ」


 彼の言葉の続きを盗るかのように僕は発言する。


「改めて言うけど、僕は邪神を倒す。そのためにどうすれば良いのかも今は全く分からないけど、そんな些細なことは関係ないよ。だって僕がそうすると決めたんだから」


 自身で決断したのだから後はそれを貫き通すだけ。


 必要なのはそれだけであり、他人からの評価などは気にする価値もない雑音でしかないのだ。


 たとえこのまま破邪の力がまともに使えないとしても関係ない。


 それなら別の力を努力の末にでも手に入れればいいのだから。


「……ただの天然野郎かと思ったけどお前、イカれてるな」

「そうかな? まあでもどうやら君もそういう奴を求めているみたいだから、それは良いことだろう?」


 それも直感で分かるのかと言い出しそうな彼に僕は笑ってそれを否定する。


「だって君と僕は似た者同士な感じがするからね。だからこれは直感って言うよりはシンパシーって奴かな?」


 仲間意識を込めてそう言ったら、何故かとても嫌そうな顔をされてしまったのだった。

―――――――――――――

これにて第2章は終了です。

第3章では世界がステータスカードやスキルの存在に気付き始め、また東京以外の場所でも動きがある予定です。


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