第29話 脱出ポイントと奉納
確実に先ほどまでこんな陣はなかった。
だとするとこの部屋にいた魔物共を倒したことで浮かび上がってきたと考えるべきだろうか。
その辺りに落ちていた石を拾って陣の中に投げてみるが特に反応はない。
ただ光る線が地面を走ったかのようにして複雑な紋様がダンジョンの床に描かれているのみである。
(罠か? いやでももしかしたら……)
少し迷ったが、ここで悩んでいても仕方がない。
覚悟を決めて一歩、その陣の中へと足を踏み入れる。
『人類初の脱出ポイント到着者を確認しました。特典ボーナスが贈られます』
するとそんな声が頭の中に聞こえてきた。
どうやら予想通りこれが脱出ポイントだったらしい。
「ってことはここで脱出石が使えるのか?」
検証の重要性は思い知っているので実際に脱出石を使えるか試してみると、
『選択した脱出ポイントは非活性化状態です。脱出石を使用したい場合は脱出ポイントを活性化状態へと移行させてください』
またしても何らかの条件が満たされていないときた。
「クソめんどくせえ仕様だな、おい。嫌がらせか?」
脱出石を手に入れて際は脱出ポイントに辿り着けばいいみたいな雰囲気を出しておいて、その脱出ポイントとやらにも何らかの手を加える必要があると。
この分だと他にも条件が必要です、とか後出しでくることも十分にあり得そうだ。
(これを作った奴は確実に性格が悪いな)
でなければこんな面倒な手順を踏ませるようにはしないだろう。
基本的に説明なども一切ないし。
そう思いながら脱出ポイントとやらを活性化できないか色々と調べた結果、どうやらここでは奉納という行為ができるらしい。
ステータスカードのショップの隣に新しいコマンドとして出てきていたのだ。
「これをすれば非活性化ではなくなるのか?」
思わず独り言を呟いても相変わらず答えは返ってこないのでやるしかない。
だから俺はショップで買い物する時のようにステータスカードにある奉納のコマンドを選択する。
『対象者が奉納可能な物をリストアップします。奉納するものを選択してください。
HP
MP
ポイント
魔石
御霊石
0/20000』
奉納できる表示されたのは五つで、最後の数字が活性化に必要なエネルギー的なものなのだろう。
つまりこのエネルギーを満たせば脱出ポイントが活性化すると思われる。
だけどそのために奉納するものについては少し疑問が残った。
HPやMPはまだ分かる。
異世界でも魔力をエネルギーとする魔法陣は主流だったし、珍しいが血肉を生贄とするものも中にはあったのであり得なくはないだろう。
ポイントもショップなどで利用できたので、こういうこところでも利用できてもおかしくはないのかもしれない。
(だけど魔石と御霊石も選択肢に入るってのは何か引っ掛かるな)
どちらもショップでポイントに変更できるものだ。それなのにわざわざこうして選択できるということは、そうするだけの意味があるのではないだろうか。
そう考えた俺はまずポイントを奉納してみる。だがこれに変な点はなく1ポイントでエネルギーの方も1増加するだけだった。
だがその次にオークの魔石を奉納したことで理解する。
「なるほど、変換効率が違うのか」
通常のオークの魔石をショップで売却して手に入るポイントは300だ。
だから魔石をポイントに変換してから奉納できるのも300となる。
それに対して魔石そのものを奉納した場合は、なんと600もゲージが上昇したのだ。
念のため他の魔物の魔石でも比較したが倍も違うのはどの魔物でも同じらしい。
そしてこの分だと御霊石もショップを介さない方が効率的に違いない。
(だとするとHPやMPの方も効率が違うとかもあり得るか?)
そう思ったのがHPでもMPでも消費1に対して溜まるのも1なのは変わらないようだった。
「ここでポイントを消費するのは勿体ないし、奉納するのはMP一択だな」
本来なら中々回復しない上に回復手段が限られているMPを奉納するのは危険だ。
ここはダンジョン内であり、部屋の中の魔物は殲滅したが、別のところから他の魔物がやってくるかも分からないのだから。
だが無限魔力と魔力譲渡というチートがある俺にとって、それらは問題とならない。
だからそうと決まれば早速MPの奉納開始である。
今のINTが111なので五秒ごとに、それと同じ数値分だけ奉納がなされていく。つまり一分では1000以上も奉納がされるのだ。
(懐かしいな、この感じ。異世界でもよくこうやって色んな人や物に魔力を譲渡してたっけ)
もっとも異世界ではINTなどというステータスはなく、譲渡できる魔力は本人の精神力と慣れなどで決まったものだが。
だから多くの魔力を譲渡するために必死になって訓練を重ねたものである。
(ただでさえ勇者の奴のユニークスキルは魔力消費がとんでもなかったからな)
その力を十全に発揮させるためにこっちも苦労したものである。
そんな昔のことを懐かしんでいる間に奉納が終わりを迎えた。
別の部屋から魔物がやってくることもなかったので、本当にただ魔力譲渡をしていただけの楽な仕事だ。
だがそんな苦労の有無には関係なく奉納完了となったらしい魔法陣は眩い輝きを放ちだす。
『人類初の脱出ポイントの活性化が確認されました。特典ボーナスが贈られます』
『人類初の奉納が行なわれたことを確認しました。奉納によって神の力が回復しました。奉納者には奉納に応じた神の加護が与えられます』
その途端に色々と突っ込みたい内容の謎の声が頭の中に響き渡る。
だがまず確認すべき点は、これで本当に脱出石が使えるようになったのかということだ。
ここで得た情報を念話で茜達に共有するためにはダンジョンの外へ出ない事には始まらないので。
幸いなことに今度こそ条件を満たしたのか、脱出石は無事に使用できたことで俺は一旦ダンジョンの外へと脱出することに成功するのだった。
特典ボーナス 200000P
保有ポイント 422260P
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます