第26話 ダンジョンという名の魔物の巣窟

 これまで戦ってきた経験から俺はある程度までなら魔物のステータスについて推測ができるようになっていた。


 勿論それで分かるのはSTRやVITにAGIなど、肉体的な強さに関係しているものだけだったが。


 ゴブリンにしろオークにしろ、魔法などのINTを使うような攻撃をしてこないから仕方がないだろう。


 進化した個体も物理攻撃してくるオークナイトしか見ていないのだし。


 その上でゴブリンのステータスは大体5から10前後。オークが10から20といったところで、オークナイトだと30から50くらいはあると思われる。


 同種類の魔物でも強さには偏りがあるようで、特にオークナイトに関してはその偏りが強いように思えた。


(前に戦った進化したての奴がベテランっぽい奴より弱かった感じを見るに、魔物も時間や経験、あるいは御霊石などのアイテムなどで成長する形ってところか)


 だからこそ同じ外見でも油断はできない。


 熟練のオークナイトと思われる個体はスキルを使わない俺よりも地力は上だと考えられるので。


(魔闘気で強化すれば倒せるけど、敵が一体でない場合はクールタイム中に戦うこともあり得るからな)


 そうなった時でも戦える手段は確保しているが、それは切り札なので可能な限り温存しておきたいのが本音である。


 だとすれば敵を倒すのに時間を掛けてはいられない。

 援軍を呼ばれるのはこちらとしては困ることになる可能性が高いので。


「まずは門番を迅速に排除。そこからは臨機応変にやるしかないな」


 場所は前に門番であるオークナイトを観察していた建物の屋上だ。


 あれから定期的に門番が居なくなるタイミングがないか観察をしたりもしていたのだが、残念なことにあいつらは常に門の前に居座っているようである。


 死んだ際に魔石だけを残して消滅することからも分かる通り、奴らは生物に見えても俺達は決定的に作りが違うのだ。


 魔物の中には食事や睡眠などを一切必要としない種族もいるし、本能の赴くままに邪神に類する存在以外を徹底的に排除する。


 中には少数だが言葉を話す個体や種族がいても、その存在の在り方だけは決して揺るがないのである。


 だからこそ俺達と魔物は共存などできないとされている。

 それが異世界での結論だった。


 もっともそれもこの世界でも適用されるかどうかは魔力の件もあるので確実とは言えないかもしれないが困ったところだが。


(とは言え、基本的には異世界での経験や知識は通用しているんだ。今のところはそれを基準にして動くのが賢明だろう)


 異世界で得た知識や経験を活かして、だけどそれだけを鵜呑みにしないという難しい塩梅が必要になるだろうが、それはこの先で色々と考えていくしかない。


 だから今はあいつらを倒すことだけを考えよう。


 俺は念を入れて目出し帽を被ることで顔を隠すとスキルを発動した。


「魔闘気、発動」


 現在のINTは111、つまり約二分間、俺のステータスはその数値分だけ上昇することになる。


 スキル発動と同時に前もってショップで購入しておいたオークの大剣をインベントリから一瞬で取り出すと、それを強く握って屋上から飛び出す。


 漲る力が体全体に行き渡るのを感じながら俺は並び立つ建物の屋上や壁を足場にして駆けていく。


 オーク共の居城と思われる国会議事堂へと一直線に。


 そうなると門番として君臨している二体のオークナイトもこちらの存在に気が付いたのか臨戦態勢に移行する。


 遠方からこっそりと監視していてもその気配に何となくでも気付ける個体なのだから、これだけ力を秘めた状態で接近すればそれも当然だろう。


(だけど今の俺の方がステータスは高いはず)


 それを信じて俺は奴らの側面方向から一気に敵に近づくと、咄嗟に盾を構えて攻撃を弾こうとしている個体へ向けて全力で大剣を振り下ろした。


 そしてぶつかった大剣と盾が拮抗したのは一瞬だけ。次の瞬間には頑丈なはずの盾は大破して、そのまま大剣がオークナイトの身体に叩き込まれる。


 そうなれば攻撃を受けたオークナイトが物言わぬ肉塊になることは避けられず、スプラッタな光景が広がる前に魔石だけを残してそいつは消え去った。


「次!」


 残る一体は仲間が一瞬でやられたことを察知して、大きく息を吸い込んでいる。


 仲間を呼ぼうとしているのか知らないが、それを易々と許すほどこちらは優しくはない。


「おら!」

「ブモ!?」


 苦悶に満ちたくぐもった声を上げるオークナイト。


 その首にはこちらが投じた大剣が鎧を破壊しながら深く食い込んでいた。

 これでは助けを呼ぶために咆哮するなど不可能だろう。


 その隙を逃さず、俺は飛び上がると全力のかかと落としを奴の頭部に振り下ろした。


 ステータスが100を超えている今の状態での渾身の一撃。


 衝撃でオークナイトが立っていた付近の地面が多く罅割れを起こすほどの威力があるそれを、抵抗できずまともに受け止めてオークナイトが無事でいられるはずもなかった。


 そうして二体のオークナイトが魔石になったことを確認しながらも俺は周囲の警戒を怠らない。


 増援を呼ぶのは防げたはずだが、今の戦闘音を聞きつけた個体がいないとも限らないからだ。


 いつでも逃げ出せるようにしながら待つことしばらく、幸いなことに新手が現れることはない。


 魔闘気の効果が切れて、クールタイムが上がるまで待ってもそれは一向に変わらなかった。


「てっきり中から増援がやってくるかと思ったんだけどな」


 でもこの方がこちらとしては好都合なので問題はない。


 そう思いながら俺は残されたオークナイトの魔石を拾おうとして、そこに魔石以外の物が有ることに気が付く。


「これは……鍵か」


 魔石の方はオークナイトの魔石でこれまで手に入れたものと変わりはない。


 だがその傍に落ちていた鍵はこれまで見たことも無いものだった。


 試しにショップで売れるのか確認してみると、これはダンジョンの鍵というアイテムであり売却不可なアイテムだと表示される。


 効果は該当するダンジョンの封印を解除するというものであり、しかも使用可能な時間が今日の零時までとなっているようだ。


「門番らしき奴が落とした鍵ってことは、十中八九ここで使うんだろうよ」


 案の定と言うべきか、国会議事堂の扉を開けようと近づいた途中で半透明な障壁に行く手を阻まれる。


(……幾ら攻撃しても効いてる様子はないか)


 たぶんここで鍵を使うのが正規の侵入方法だと思うのだが、一応その前に無理矢理押し入ることが可能か試したが無理だった。


 魔闘気を使用した状態で攻撃してもまるで通用している様子はなく、全ての攻撃が無効化されてしまっている感じだ。


 仕方がないのでダンジョンの封印とやらを解くためにダンジョンの鍵をその半透明な障壁に当ててみる。


 これで正しいのかは分らなかったが、鍵穴なども見つからなかったのでとりあえず当ててみるしかなかったのだ。


 だがそれは間違っていなかったようで、これまで一切の侵入を許さなかった障壁に鍵がゆっくりと突き刺さっていく。


 そしてある程度まで食い込んだところで、パリンとガラスが割れるような音を立てて鍵と障壁の全てが砕け散った。


「これで通れるようになったはずか」


 新たな敵が現れることもなかったので俺はそのまま入口へと歩を進める。


 そしてその扉に手を掛けた瞬間、感じる気配だけで理解した。この中には大量の魔物が存在しており、その中にはオークキングのような強敵が待っていると。


 それでも俺に引き返すという選択肢はない。元々、ボスを倒しにきているので強敵と戦うことなど今更だし。


「……行くか」


 そうして俺はダンジョンという名の魔物の巣窟へと足を踏み入れた。

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