第19話 グールとその上位種

 異世界では死んだ人間の遺体が邪神の瘴気に長時間晒されることで魔物化。


 それによってグールとなり、更にそこから時間を掛けて上位種へと進化することがある。


 その名も上位ハイグール。


 ただ進化しても姿形が変わる訳ではなく、発揮される力などがある程度強化されるだけだ。


 また本能のままに動くのも変わりはない。


(だけどその先になってくると危険度が跳ね上がってくる)


 上位ハイグールから更に進化する場合は、決まった進化先がある訳ではない。


 何らかの別のアンデッド系の魔物に進化するのだが、それがマミーなのか吸血鬼ヴァンパイアなのか、はたまた生きている死体フランケンシュタインなのかは進化するまでは分からないのである。


 だがどの進化先でも共通して問題になるのが、この段階から一定の知能を持ち出すのだ。


 しかも人間の死体が変化した形で進化したこれらの魔物は生前時代の記憶や力を継承しているケースがある。


 つまり仮に美夜をあのまま放置して、この段階まで至った場合、なんとユニークスキル持ちの魔物が生まれる可能性があったのだ。


(そうなって他の魔物に対して、ありとあらゆる傷を癒す力なんて使われてみろ。まず人類の敗北は決定的となる)


 ただでさえ魔物は生命力が強い種類が多いのだ。

 その上で制限のない回復手段なんて持たれたら勝てる訳がない。


 それは絶対に阻止しなければならなかった。


 だからこそ俺は、あの場で速やかに美夜を御霊石としたのだ。


 もしかしたら蘇生スキルはグールに対してのみ効果を発揮する可能性もあったが、仮にそうであったとしても美夜をそのままには出来ないと考えて。


 その判断は間違っていなかったと思う。


 現にこうして、想像以上の速さでグールが上位ハイグールに進化していることから考えれば。


(だけどこのままだと確保して持ち帰ったグールとやらが上位ハイグールになるのは時間の問題だな)


 そしてグール基準での拘束では上位ハイグールを抑えきれない。

 その結果、危うく死にかけた人物が先ほどいたことからもそれは明らかである。


「となるとこれまで通り早急にグールを始末する必要があるな」


 その言葉通り、実際最初に家族を避難させた周辺にいたグールも俺が美夜を弔ったその日の夜。


 闇夜に紛れて始末していた。


 そいつらの家族などが必死になって戻ってきた彼らを殺さないで、と訴えているのも知った上で。


『茜、聞こえるか』

『聞こえてるよ。何かあったの?』

『急で悪いけど、周りにはバレないようにやってほしいことがあるんだ』


 魔力譲渡のパスを繋いだ際に念話の登録もしておいたので、こうして好きな時に呼び出せるのだ。


 しかも消費するMPは距離に関係なく1分でMPを1消費するというこのスキルの性質上、俺の無限魔力と相性が非常に良い。


 なにせこちとらMPが0な代わりに、INTの数値までなら幾らでもデメリットもなくスキルを使いたい放題なのだ。


 つまりこの念話も実質的に無限に使用可能だということ。


(今はどうにか通信網とかが生きてるけど、この先はそれも難しいだろうからな)


 現に今の東京の至る所で停電などが起きている。断線した電線の数は数知れず。その復旧の目途も立っていないのが現状。


 そしてこの先もそういう地域は増えていくことだろう。少なくとも人類側の戦力がもっと増えない限りは。


(あの自衛官の様子からすると、あの人達だけで奪われた地域の奪還までは難しい感じがしたしな)


 そんなことを考えながら茜に、こちらだとグールが進化する速度があちらよりもずっと早いことなどを伝える。


 そしてこのままだと遠からず知恵を持つ不死系の魔物が生まれるだろうことも。


『つまり大人の人達が捕まえてるグールをこっそり仕留めればいいんだね?』

『それも茜の姿は絶対に晒さずに。あくまで可能な限りでいいんだが出来るか?』

『クーちゃんがいるから大丈夫。透明化してもらえば見つかることもないだろうし』


 なんと俺を含めた異世界からの帰還者はスキルを持ち帰れなかったが、元々異世界の生物だったクーは保有していたスキルはそのままとなっているらしい。


 子供の竜なので、それほど多くのスキルを有している訳ではないが、それでもこの状況においては大助かりでしかない。


(いや、むしろ俺よりもクーの方が最強の切り札になる可能性すらある。やっぱり隠せるうちは隠し切るべきだな)


 なお、これまでクーが周囲に見つからなかったのもそれらのスキルを活用した結果とのこと。


(そりゃ任意で透明になれるなら見つかる可能性も激減するわな)


 これなら茜に任せても問題はなさそうだった。


 竜の友がある茜は特定の竜と視覚などの感覚を同調させることも、念話スキルのように遠く離れた場所から指示をすることも可能とのことなので。


『うん、こっちは任せて。みたま石っていうのも、なるべく回収するから。それでそっちはどう?』

『正直に言うと、殲滅は無理だな。流石に範囲が広すぎて1日で全部を殺し切るのは今の俺では不可能と言わざるを得ない。まあこれは元から分かっていたことだけどな』


 無限の魔力を持っていようが俺はあくまで個人。


 集団の、それも東京周辺という広範囲のありとあらゆるところに出現する魔物を殺し切るのは現実的に難しい。


(仮に広範囲を殲滅するスキルとか獲得したとしても、それだと周りを巻き込みかねないからな)


 現在の東京には自衛隊などもいるようだし。それら諸共魔物を一網打尽にする気は俺にはなかった。


 それにそんな強力なスキルは必要とするMPも桁が違うものだ。現状のステータスではそれを満たせるとは到底思えない。


『だからここからは当初の予定通りボスを探す方向で動こうと思う』


 そして倒せそうならボスを倒す。それでリポップが止まればベスト。


 止まらなければ他の方法が必要と分かるからベターといったところだろう。


(それにしても他の地域では出現する魔物は一種類だけなのに、東京ではゴブリンとオークの二種類なのは何か理由があるのか?)


 サハギンが現れた地域でサハギンナイトのような同種類の強力な魔物、所謂亜種的な魔物が現れるケースはあるようだが、そこに別の種類であるゴブリンが現れたりはしていないのがネットのニュースなどで窺える。


 それは海外でも同じのようで、今のところは東京が唯一の例外となっているみたいだった。


 それが全くの偶然だとは思えない。


(……幾つか思いつく候補はあるけど、現状だと絞りきれないか)


 だが可能性があるうちは警戒を緩めないようにしよう。


 なにせこちらと異世界でMP周りの仕様が違ったように、思わぬ落とし穴がないとも限らないのだから。


「さてと、それじゃあ中心を目指して進むとしますかね」


 魔物が現れる範囲は東京周辺とある程度決まっている。そしてその範囲が円形になっていることから、おおよその中心地は見当が付く。


「まずは新宿区辺りから始めますか」


 ショップから必要と思われるスキルなどは既に購入してある。この状態ならオークの亜種でも問題はないはずだ。

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