第17話 ユニークスキルの解放と変化 幼子編
竜の友となる力を有した幼子こと芹沢 茜。
といっても今の彼女はもう幼子ではない。
当時は幼稚園卒業間際だった彼女。だが異世界で五年を過ごした結果、もう小学生の高学年になるほどに成長しているのだから。
「それで茜、そっちはどうなった?」
「……うん、問題ないよ。大体の性能は把握したから」
年頃なのか、昔のようにちゃん付けで呼ぶと怒るとのことなので呼び捨てしてみたが、それで問題なさそうでなによりだった。
かつての茜が所有していたユニークスキルは竜の友。
文字通り竜と言葉を交わし、友としてその力を借りることが可能になるスキルだった。
異世界に転移した当時、幼い茜はその能力を理解できず、まともに発動できなかった。
だが茜は天性の動物好かれる体質とでも言おうか、竜以外でもあちらの魔物以外の生物に異様に好かれることが多かったのだ。
そして誰もが幼子では戦えないと注視していない間に、様々な動物経由でいつの間にか竜と交流を得た茜は、その力を借りることに成功してしまった。
(あの時は心底驚いたもんな。急に都市の上空に複数の竜が現れたんだから)
敵のドラゴンが強襲してきたのかと都市も大混乱に陥ったものである。
だが実際は、様々な動物経由で茜の存在を耳にした竜が、その姿を確認しにきただけだったのだから今では笑える話である。
なお当時はマジで死ぬかと思って心底ビビっていたのは内緒だ。
なにせ徹底的に隠れ潜んでいたはずの俺のことが、遂にバレたのかと思ったので。
「スキルの効果自体に大きな変化はないみたいだよ。竜と契約して、その力の一部を借りたり強化できたりするっていうので」
「だけどこの世界に竜はいないだろ? だとするとどうやって力を借りるんだ?」
魔物であるドラゴンと竜は明確に別の生命体だ。
だからドラゴン相手では茜の力は通用しないので、敵のドラゴン系の魔物をテイムできる訳ではない。
「……えっと、基本的にはショップで買えるみたい。それができるのは竜の友を持つ私だけみたいだけど」
「ん、どうした? 何か変だけど」
「き、気のせいだよ、あははは……」
何故か気まずそうに目を逸らしながら答える茜に違和感を覚えるが、何か変な事でもあっただろうか。
でも、どうやらここでもショップが活用されるようだ。
(一時的な竜の召喚は比較的少ないポイントとMPで可能みたいだな。その分、永続的な召喚はバカ高い上に、常にMPを消費するみたいだけど)
ただし永続的に召喚した竜は死なない限りは成長して、能力を強化することも可能となっている。
もっともその為にはショップで成長アイテムを買う必要があるみたいだが。
代わりに一時的な召喚の方は性能が決まっているみたいで、そういった融通は効かないみたいだ。
ただその分、使い捨ても可能という利点もあるが。
「現状だと永続召喚の方はポイント的に無理だな」
「そ、そうだね」
「……茜、何を隠してる?」
ギクッという言葉がピッタリなほどあからさまに動揺を見せる茜。その答えは思わぬところからやってきた。
「ギャー!」
「いって!?」
上空から何かが降ってきて、油断していた俺の頭に激突する。
「なんなんだ、いったい……って、おい! それって!?」
「クーちゃん! 出てきちゃダメって言ったのに!」
その名前には覚えがあった。かつて異世界で茜に一番懐いていた子供の竜。
茜が帰る選択をした時も嫌がって、茜の傍から離れようとしなかった奴だ。
なんでそいつがここに、現実世界にいるのだろうか。
「お前、まさか連れてきたのか!?」
「ち、違うもん! 私はそんなことしてないけど、クーちゃんがこっそりついてきたんだもん!」
「勝手に付いて来たってことか。おいおい、マジかよ」
そんなのありかよ、と思ったが別に異世界の存在を連れ帰っていけないとは言われてなかったっけ。
でも元世界に戻るにあたって剣などの武器があっても処理に困るだけだし、魔法などの力も使えないと聞いていたから、そうする考え自体が浮かばなかった。
「気付いて送り返そうにも門は閉まっちゃったから無理で、そうなったらほっとけないでしょう? だからお爺ちゃんに相談して、今まではこっそり飼ってたの」
「……本来なら色々と突っ込みたいところではあるが、いいや。そのおかげで助かりそうだからな」
「本当!? やったー!」
怒られると思ったのに大丈夫だったことで子供のように喜ぶ茜。
いや事実子供なのか。
それに子供でもクーは竜だ。
雑魚の魔物なんて相手にならないし、茜にこれだけ懐いているのであれば問題を起こすことも無いだろう。
「あ、そうそう。バレちゃったから言うけど、クーちゃんにも成長アイテムは使えるって」
「それは最高だな」
期せずして、永続召喚タイプの竜を一体確保しているみたいなことではないか。この大きなアドバンテージを無駄にする訳にはいかない。
「よし、茜も俺とパスを繋いでおくぞ」
これで茜もMP切れの心配はほとんどなくなった。
「それで頼みが有るんだが、先生と茜は俺の家族がいる避難所を守っていてくれないか?」
「なんで? お爺ちゃんはともかく、クーちゃんがいるなら、私は戦えるよ」
それは正しい。
クーがいるのなら茜はユニークスキルを活用できるし、何なら今の俺よりも強力な戦力となるかもしれない。
だが、だからこそ俺はこの序盤で茜の存在を明らかにしたくなかった。
「俺はもう色々と隠すことなく動いちまったから、敵がいたのなら能力とかもバレてる可能性が否定できない。それに対して茜やクーの存在は、まだ隠せていると思うんだ。俺だってクーの事を知らなかったくらいだし」
「つまり私達を温存したいってこと? 敵に対する切り札として」
「まあ、そういうことだな」
まだ十歳前後の茜だが、異世界で邪神と戦った精鋭だ。
こういう戦闘に関しての理解は早いし、なにより賢い子なのでこちらが言いたいことをすぐに汲み取ってくれる。
「それとこれは個人的なもので悪いんだが、なにより美夜の仇は俺が取りたいんだよ」
あいつはそんなこと望んでいないとしても。
「……私だって
「ああ、分かってる。それでも頼む」
不満げな表情の茜の目をジッと見つめる。
「……ちぇっ、分かったよ。美夜姉も好きだった
「いや、あいつはそんなこと望まないって言ってたからな。たぶん私情に走るなって怒られるんじゃないか?」
「もう、女心を分かってないな、譲兄は。表向きはそう言ってても、譲兄が自分のために動いてくれたら美夜姉は内心で喜ぶに決まってるんだから」
まさか小学生に女心を説かれるとは。少しばかり自分が情けなくて泣けてくるというものである。
「その代わりちゃんと無事に帰ってきてよ。仇も取った上で」
「勿論だ。無駄に命を散らすことはしないさ」
この現実世界で生きていくために俺は戻ってきたのだから。
それに美夜を生き返らせるためにも死んでなどいられない。
「さてと、それじゃあ行ってくる。そっちも気を付けろよ」
かつての勇者パーティメンバーだった美夜がやられているのだから、こんな事を言わなくても二人は警戒しているだろうけど、念のため口に出しておく。
「分かってるってば」
「そうそう。それに儂らのことより自分の心配をせえ」
そんな言葉を交わして二人と別れたら、
「……よし、じゃあやりますか」
どれだけ倒しても一晩で復活するならポイント的には、稼ぎ放題ということでもある。
だったらそのシステムも利用するだけ利用させてもらうとしよう。
「まずは範囲内の魔物を全滅させられるか。そしてそれが出来たら魔物がリポップしないかの確認だな」
今のところボス討伐が本命だが、それ以外の方法がないとも限らない。
なにより勝手な思い込みで一度失敗しているので、何事も検証しておくに越したことはないだろう。
(決して油断はせずにな)
そして俺は反撃への一歩を踏み出した。
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