第6話 妹の危機
家に着く頃にはほとんどの家族と連絡が取れて無事が確認できた。
そして当初はおふざけや悪戯だと思われていた魔物の存在もテレビやネットで次々に動画などが流される形で真実だと知れ渡り始めている。
(由里だけ連絡が取れないな)
幸いだったのは今日が祝日だったので兄姉夫婦を含めた人達が家に遊びに来ていたことだろう。
おかげで合流できた彼らは避難が行われている近くの中学校に無事送り届けられた。
近くの交番から警察が来てくれているので弱い魔物程度なら対処できるはずだし念のため両親と中学校に灯も設置してあるので何かあればすぐに転移できる。
問題は祝日でも大学が休みではなく登校している妹の由里だ。
再度電話してみるが通話は繋がるのに出ないし返信も来ていない。
講義を受けていたとしてもここまで休み時間になっていておかしくない時間は経過しているし何も反応がないのはおかしい。
だとしたら連絡が出来ない状況に追い込まれているのだろうか。
取り返しがつかないことになる前にこちらから向かってみるべきか。
だがその場合は美夜との合流が時間的に難しくなる。
(何かあった時の為にも治癒能力を持つ美夜の封印は解いておきたいんだが難しいところだな)
そう思って美夜にそのことを伝えるとすぐにメッセージが返って来た。
その内容は要約すれば、こっちもゴブリンを倒して封印は解くことに成功しているから心配いらない。
自分のことは自分でどうにかするからまずは妹の方へ行け、というものだ。
「流石は異世界の勇者パーティの一人。俺が心配するだけお節介だったな」
あいつの治癒の力は生きてさえいれば他人も自分も回復することができる代物だった。その力さえあれば強敵が現れても逃げ切れるだろう。
だとすれば俺はそちらの方を気にせずに由里の元へと行ける。
感謝のメッセージを送って俺は妹が通う大学へ向かうことにする。
そうしてバイクを走らせることしばらく経った時だった。見知らぬ番号から電話が掛かってきたのは。
「もしもし?」
「お兄ちゃん?」
その声は確かに妹のものだった。
「由里! 無事なのか?」
「お兄ちゃん、助けて。ば、バケモノが大学に入ってきて」
受話器越しに悲鳴が聞こえてくる。
どうやら危機的な状況に追い込まれているのは間違いないようだ。
「今、向かってるから俺が行くまでどうにか生き残るんだ。それと何があったか説明できるか?」
「え、えっと、豚のバケモノが急に講義中の教室に入ってきて教授や前の方にいた人を次々にこ、殺していったの。私と友達は後ろの方にいたからどうにか逃げ出せたんだけどその時に私は携帯を落としちゃって」
それで俺からの連絡を受け取れなかったのか。それに豚のバケモンということはそこに居るのはオークでまず間違いない。
「その後は外に出たんだけどそこにも他の豚のバケモノがいて、どうにか別の棟の教室に逃げ込んで隠れてる。ねえ、お兄ちゃん。一体何がどうなってるの? 私達、このままあのバケモノに殺されるの?」
恐怖で震える声で助けを求めてくる由里。周りから聞こえてくるすすり泣きの音の主は友達だろう。
その場に辿り着けさえすればどうにかできるがバイクをフルスロットルで走らせてもまだ三十分ほどは掛かる。それまではどうにか由里達自身で生き残ってもらうしかない。
「絶対に助けるから今から俺の出す指示をよく聞くんだ。その豚のバケモノの名前はオークで鼻が利くから隠れていてもいずれは見つけられる」
その言葉にヒッと息を呑んだ音が聞こえた。だからと言って無暗に逃げてもそもそもの身体能力が違う。
今から外に出て逃げても追いつかれるに決まっているのでその場から下手に動かないように伝える。
「恐らく今は外を逃げている人を襲いまわっている状況だろう。だけどそれも狩り終えて外で見つけられる獲物がなくなれば建物内に入ってくる。そうなったら臭いで居場所はすぐにバレる」
「そんな!? ど、どうすればいいの?」
正直に言えば由里達に出来ることは少ない。それに下手に抵抗しても無駄になったり相手を怒らせるだけになったりする可能性もあり得る。
だから実際には俺が辿り着くまで見つからないことを神に祈るだけという運任せであるのだが、それを本人達に告げることはしなかった。
「香水とか匂いの強いものは持っているか? あいつは鼻が良いから匂いの強いものや刺激物とかに弱くてそれで多少は時間を稼げる。だから部屋の中で身を潜めて奴らが入って来たならそれを顔面にぶつけて外に逃げるんだ。その際は固まらずバラバラの方向に」
「わ、分かった。でもここ四階の角部屋だから外に逃げるのは無理だと思う」
「……それなら音を立てずに隠れているんだ。下手に扉の前にバリケードとしての物を置こうとかはしなくていい。あいつらにそんなものは無意味だしその音で気付かれるのが早まる可能性の方が高い」
絶対に助けに行くから絶望して自暴自棄になったりせずにジッとしているように再三言い聞かせる。
(くそ、転移は無理か)
空間跳躍は灯でマーキングした地点にしか飛べないようなので転移を使用して先を急ぐことはできそうにない。ならばあとはバイクでかっ飛ばすだけだ。
先を急ぐためにも通話を繋いだままの携帯はポケットに仕舞って両手でしっかりとハンドルを握る。そして完全に法定速度など無視した速度でバイクを走らせた。
(頼むから間に合ってくれよ!)
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