第104話 天羽佳之助(元造船所社主)[1]
焼き鳥を串からはずして分解して食べるのは貧乏くさいという結論に二人とも達したので、
レバーと皮は食うものではない、という結論にも達して、とくに皮を得意にしているらしいつん
つん子さんは不満そうに言う。
「レバーなんか栄養豊富なんだし、皮もコラーゲンがいっぱいで体にいいのよ。なんでそんなに」
「コラーゲンって、あれだろ?」
つくねにたっぷりたまごをつけながら、隣の客がつんつんしているつん子さんを見上げ、からかうように言う。
「美肌成分とかいう。おれらみたいな男には関係ないよ」
「そうだよそんな」
佳之助氏が同調する。
「最近の若い男みたいに、見栄ばっかり張ってどうするってんだ」
「あら」
つん子さんは機嫌を直したのだろうか。
「女は何歳になっても、きれいな男にひかれるものよ」
「けっ!」
佳之助氏は言った。
「いいよ、上っ面を求めてやって来る女なんか、こっちから願い下げだぜ」
それで、横を向いて、
冷たい感触が喉を下る。
でも、それは途中できれいにすっと蒸発し、かっとした熱さが首のほうへと上がって来る。
生きる活力が炎になったようだ。心地いい。
佳之助氏はその勢いできいた。
「それでも、あんた、その、事故った店員さんがいなくなってからも、ずっと一人で店やってるのかい?」
「いや、若い子に来てもらったこともあるんですけど、続かなくてねえ」
つん子さんはあいまいに笑って、ちょっと下を向いた。佳之助氏が言う。
「若いやつらってのは、ほんと根性がねえな。おれらはよ、自分の力で、って、腕に力こぶ作ってがんばったもんさ。いまの若いやつらってのは、なんでも、楽なほう、楽なほうって考えやがる。そのせいで、世のなか、住みにくくなっていく一方でよ!」
そこで、また冷酒を注いで、くっ、とあおる。
隣の男が、速いな、という顔で、心配そうに見る。
二本めぐらいまでは佳之助氏も自分でそう思っていたのだが、さっきからこのペースで飲んでいてもだいじょうぶだから、たぶん、いいのだろう。
この男は冷酒は飲まない主義だと言うし、佳之助氏は、冬は
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