第88話 堀川龍乃(中学生)[4]
さっきから、
投げても、相手が殿様ということは刀を持っているだろうから、刀ではたき落とされるかも知れない。だいたい、投げると、カッコいいようだけど、途中で勢いは弱まる。
龍乃の想像した画面では、龍乃が投げた槍を抜いた刀でまっ二つにして、どうだ、という顔でこちらを見ている若い殿様の画像が出ていた。りりしそうだがどこか間抜けで嘘くさい顔の若殿だ。そんな相手でもまず勝てない。
ゲームでならそこで素手で格闘戦に持ち込むけど、ほんとうに刀を持っている相手にはそんなことをするのはばかげている。
駆けつけて刺すのなら、直前まで狙いをコントロールできるし、全力で刺せるし、そのうえ、殿様の刀とはリーチが違う。
でも、一対一で対決するのがあたりまえの格闘ゲームと違って、それは、殿様には取り巻きがいるのだ。
したがって、奇襲しかあり得ない。
それにしても、一撃で仕留めるとは、たいした腕前だ。ゲームでだって、勘をつかむまで何度も失敗する。
それとも、何本も投げたのだろうか?
「女だったんだそうだぞ」
「だれが?」
「その若い殿様を暗殺した犯人」
「へえーっ!」
龍乃はすなおに感心する。
「やるじゃん、江戸時代の女!」
江戸時代の女というと、家の中では男に頭を下げさせられるばかりで、しかも、男は「三くだり半」を突きつけて一方的に離婚することができた。一生泣いて暮らすような惨めなものだと思っていた。だから、たとえ時空を超えて転生とかできても、江戸時代の女には生まれたくないな、と思っていた。
しかし、
……海鼠……?
気にしないことにしよう!
「で、それはどういう人だったの? なんでその殿様を殺したわけ?」
「
ぱちくり。
「玉藻姫騒動」ということばは知っているが、その姫っていうのはだれなんだろう?
「玉藻姫って?」
「だから、その騒動で殺されたっていうお姫様だよ。その若殿が殺されるより前にな」
正流は、ぱっと目を閉じてから、また開いて、
「無実の罪だったって言われてる」
と言い、龍乃を見る。
そうか。「玉藻姫騒動」ってそういう話だったんだ。
正流のクールな解説が続く。
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