第65話 三善結生子(大学院学生)[1]
「あーもう、何よこれ?」
勢いでレポートをともかく三画面ぶん書いて、とても自分の文章を読み直す気になれず、直しは後にして、
途中で
警察によると、その地下の構造物から出て来たのは、紙の灰と木材の炭らしい。歴史的な遺構かも知れないから、やっぱり調査をお願いしたい。何日何時に来るか知らせてくれればすぐに泊まるところを手配する、という。
その内容はメモにして先生の机に置いてある。メールやメッセージを送ればいいようなものだけど、先生はこちらのほうが性に合うらしい。
その先生はティーカップを洗いに行ってそのまま戻って来ない。きっと、何か、
それで、『向洋史話』に戻ることにしたのはいいけど、下巻を取るつもりで上巻を取ってしまった。それに気づかず、ばらっと開いたページを見て、がっくりする。
「
それで、「あーもう、何よこれ?」という
滑川地というのは、結生子が生まれ育った
いちど自転車で行ったことがある。家は三十軒くらいはあるようだったが、ほんとうに人が住んでいるのだろうかと思うぐらいひっそりしていた。
まさに
そこからよそにお嫁に行った美人はかならず離縁されて戻って来る。そういう意味のことばだ。
それはわかる。
でも、それが、どうして、この歴史についての聞き書きの本で、テーマとして採り上げられているのだろう?
やっぱり、これ、民俗学とかそっちの本だよね、と思いながら、でも、結生子はその先を読んでみた。
ぐちゃぐちゃのレポートを書き
「
「岡下の古老が言った。世間で、滑川地の美人はかならず出戻るというのは、滑川地があまりに貧しいからである」
そんな意味だ。こんな調子の文章が続く。
「滑川地は浜がよくなく、港ができなかったので、漁に出ることができず、
まあ、あのいまの滑川地の
「
「その妻がそれに賛同して言った。ひとの行き来の多い町だったので、滑川地の美人は引く手あまたで、嫁にとっても
はあ。
なんだか、まったく逆だ。
滑川地が昔から貧しかったのかどうかは調べてみないとわからない。でも、「市の端っこだから発展から取り残されている」なんて考えるのは、たぶん、いまのひとの感覚だろう。
南にも海岸が続いているのだし、岡平と同じくらいの規模の藩もあったのだから、そことの交易の拠点になっていてもふしぎはない。
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