第46話 三善結生子(大学院学生)[3]
「公式見解」ではまったくわからない。
ただ改革への不満がたまっていたのは事実だろう。
その改革に抵抗した者を讃州易矩は容赦なく処罰した。
いくつかの漁村では、もともと住んでいた住民を山奥に強制移住させて山地の開拓に従事させ、そのあとに、
そういう讃州易矩のやり方に藩内には不満がたまらないはずもない。それが騒動にまったく影響していないとしたら不自然だろう。
この一連の事件、
地元では、この二番めの事件で、城中で藩主従達に毒を盛り、発覚して処刑されたとされる女が「玉藻」とか「玉藻姫」とか呼ばれることが多いからだ。
「玉藻姫」という名は「
だから、事件自体も「玉藻姫騒動」と呼ばれることはなかった。「玉藻姫騒動」という呼びかたも「玉藻姫」というお姫様の名まえも、この『向洋史話』より前の文書には一つも出て来ない。
ところが、この『向洋史話』では、この玉藻姫騒動が他のすべてのトピックを圧倒する一大トピックだ。
この本が編集された当時、この玉藻姫騒動は、岡平・
しかも、いまの岡平にとってもこのできごとは「大事件」だ。そのせいで
それは、いい。むしろ、その思い出と対決するために、逃げたくなる自分自身に対決するよう強いるために、結生子はここにいるのだから。
いま、記録のこの部分を読むのが
ここまで、二時間足らず、つまり大学の授業一コマ分よりちょっと長い時間で四百ページを片づけたのだ。
褒めてもらってもいいのに、ここからさらに五百ページ以上の玉藻姫騒動篇を読まなければいけないのか。
ふっ、とため息をついて顔を上げると、向こうでも先生が顔を上げた。
そのまま先生の顔をうつろな目で見ると、先生も結生子の顔から目を離さない。
「あらあら結生子ちゃん、もう集中力が切れちゃったの? だめよ、そんなことでは」と説教されるか、それとも……。
「そろそろいちどお茶でも飲んで休憩しましょうか?」
可能性が小さいと思っていたほうを先生が言ってくれたので、正直なところ、結生子はほっとした。
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