第43話 堀川龍乃(中学生)[3]
「
言って、今度は笑わず、日傘を手に持って体を斜めにした。
「海鼠って知ってるでしょ? もわもわってしたやつ」
「ああ」
いまのこのひとの「もわもわってしたやつ」ということばといっしょに、そのもわもわした感じが背中を群れになって
「藻の下がその海鼠だらけだったのよ。そんなところでだれも泳ぎたいと思わないでしょ?」
うわっ。
ということは、泳いでいて、ふと立とうとしたら、その海鼠の上に着地してしまうってこと?
うわっ!
さっきのもわもわが百倍になって足もとから首へとまっすぐ上がって来る!
「わたしはいやです!」
龍乃がこのひとに何か言ったのはこれが最初だった。失礼な女の子と思われただろうか。
慌てて
「どこから来たの?」
「
正流がまじめに答えている。
「どうやって?」
「自転車で」
「まあ。ちょっと距離あったでしょ?」
「一時間ちょっとかかりました」
まじめに答えている。
「でも、どうしてこんなところまで?」
「
まじめに正直に答えた正流に、女の人は、うん、とうなずいて見せた。
「よかったら、うちで冷たいお茶でも飲んでいかない?」
龍乃が正流と顔を合わせようとする前に、女の人は微笑のまま肩をそびやかした。
「取って食ったりしないから。それに、毒を
言って笑う。
正流と龍乃は顔を見合わせた。
このひとが悪い人とは思わなかったけど、知らない人にお呼ばれしたとわかると、あとでお母さんに怒られるかも知れない。
それに、このひとが悪い人とは思わないけれど、そして、たしかに、もうちょっとそばにいてどういう人か知りたいという気もちが湧くけれど、そのぶん、どこか正体不明だ。
「それとも、海鼠のサラダでもごちそうしちゃおうか? きゅうりのかわりに海鼠を切って入れたやつ」
「うわっ! やめてくださいっ!」
龍乃が目を閉じて体を背け、強烈な反応を見せたのを見て、女の人は笑った。
龍乃も、正流も笑った。
でも、このひと、ほんとにどこか正体不明だ。
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