第36話 堀川龍乃(中学生)
アスファルト
人の姿はなかった。
道幅が少し広くなったところに「
だれも乗っていない。運転手を含めてだれもいない。扉も閉まっている。
遠くから波の音だけが聞こえている。
バス停を囲むように家が四軒あった。そのうちの一軒に、色のはげかけたコーラの看板が出ていたから、そこは店だったのだろう。いまは雨戸が閉まっている。店の前の自動販売機だけが動いていた。
「
正流も、自転車を降りたまま、何も言わないでいる。
終点だから都会だろうと思ったわけではないが、てっきり少しは大きい街があるんだと思っていた。そして、そこからは、また別の場所に行くバスが出ているんだろうと。
そんなことはなかった。
このバス停の先は
夏の海辺なのに、やっぱり人がいるようには見えない。
海水浴とか、釣りとか、来ている人はいないのだろうか?
正流がぽつんと言う。
「下まで行ってみるか、いちおう」
「うん……」
あの朝のきのこ雲騒動が、昔の
お昼ご飯の後、
こういうのこそ先に
そこへ、その西原さんの家の跡地に家を新築するという家の女の人が建築屋さんといっしょに
「正流といっしょに自転車乗りに行ってくるね」
と伝えて、家を出てきた。お母さんは、ちょっとこちらを向いて
「晩ご飯までには戻っておいでね」
と言っただけだった。
滑川地ってところにいちど行ってみないか、と言ったのは正流だった。
北のほうには前に二人で行ったことがあった。
どんどん都会になるのかと思ったら、街も通るものの、ずっと砂の白い海岸が続いた。遠くの海のところにかすかに工場地帯みたいなところが見えたあたりで日が暮れそうになり、二人で全力で自転車を
今度は南だ。
「うん、いいよ」
龍乃は答えた。
「もし行けるんだったら、滑川地の先も行ってみよう」
「ああ」
こういうときに、単純に「よし! 行こう」とか言わないのが正流だ。
「行けるんだったら、な」
そして、行けなかった。
もちろん、この滑川地というところに道が分かれた分岐点まで戻れば、そこから南に道は続いていたから、まだ先には行けるのだろう。体力も時間も、まだあるといえば、まだある。
でも、ここまで来ればもう十分だと思った。
滑川地は、岡平市のいちばん南の端だ。
そして、そこは、江戸時代の岡平藩のいちばん南の端でもあった。
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