第32話 三善結生子(大学院学生)[3]
先生が続けて言う。
「それにどうせ出てないわよ一次史料には」
もう……!
学生がそんなことを言うと、先生は
「ねえ一次史料に出てないってどうやって調べたの? 出てないってことは一次史料ぜんぶ当たってからじゃないと言えないことなんだけど、ぜんぶ調べたの? 調べてないならどうしてそんなこと言うの?」
とくどくどくどくど言う。
で、自分では、それか?
まあいいけど。
それをきくのは先生の仕事であって、指導を受けている修士一年の学生の仕事ではない。
その先生が続ける。
「
「はあっ?」
いっしょに手分けして読んでくれるんじゃないの?
「早くして! いつ
「はあ……」
その『
ここの研究室が持っているのは、
そこから、
これこそ、いちどスキャンして、キーワード検索をかけられるようにしておくべきだな。
そんなことを言ったら、その仕事が
「明治に近いほうから探してね」
先生が声をかけた。
「もしあれが火事の跡なら、永遠寺に力のある時代だったらちゃんと後始末してるはずだから。後始末もしないでそのまま残ってるんだとしたら、その場所が永遠寺のものでなくなるすぐ前のこと、もしかすると、永遠寺の土地でなくなってからのものかも知れないから」
「はい」
すなおに従う。
後ろから探したほうが資料が出てきやすいかどうか、結生子にはわからない。
でも、先生の言うとおりにしておいたほうがいい。
たまに言われたとおりにやっても、
「もう何やってるの結生子ちゃん? いくらわたしがそう言ったからってそんなのではだめでしょう? 少し考えればわかることでしょう?」
なんて言われることもあるが。
もう慣れた。
なんにしても、この先生が自分を「
つまり、中世の人にとっての仏様のような存在だ。
感謝は、しなければならない。
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