第27話 三善結生子(大学院学生)[2]
「で、
はいっ?
「それ、いまやるんですか?」
いちおう、きいてみる。
「もちろんでしょ? いつ
また拗ねた少女のような言いかたで言う。
どうやって、というと、優先順位をつけて、ということになるのだろう。そんなのでは聖徳太子の足もとにも及ばないが、もともと及ぶつもりもない。
結生子は、鍵のかかった
書棚の鍵を閉めて、戻り、座って、鞄から自分のパソコンを引っ張り出した。スイッチを入れる。新着の表示が、先生から二人の学部生の卒論計画書が届いていることを知らせている。要領のいいことだ。
それを見る前に、クラウドサービスの
先生と自分と、二人分、二セットを共有のプリンタに送る。結生子一人ならばぜんぶタブレットでやるのだけど、先生は印刷しないと落ち着かないと言う。けっこうな量になるが、印刷代は研究室持ちだから気にしないことにする。制限枚数をオーバーしたらその紙代が先生の研究費からさっ
さて、次は何をするか。
自分のレポートは、何を書くかはだいたい決めているけれど、最初から書かなければいけない。先生から
それで卒論計画書を開いてみると、千菜美先生の手ですでに赤字がいっぱい書き込んである。もしかして、もとの杏樹ちゃんと仁子ちゃんの書いた文字より、千菜美先生の文字のほうが多いのではないだろうか。
そっちに先に取り組んだほうが効率がよさそうだ。
それにしても。
先生がいっぱい赤字で書いた上に、いまさら何を書け、と?
だからといって、
「とくに書き加えることはありませんでした」
なんて言ってそのまま先生に返すと
「あらあら結生子ちゃんせっかくお願いしたのに何やってるの?」
という、またあの少女のような拗ねた言いかたでもういちどこっちに送り返してくるだろう。
そこで、タブレットで杏樹ちゃんの卒論計画書を開き、タッチペンで直しを入れる。赤で入れると千菜美先生の文字と重なるので、自分はピンク色の文字色を選んだ。
そして、コメントをつけるためのアラを探すため、明治の元老院の論文計画を読み始めた。
そういえば、ピンクってずっとわたしに縁のない色だったな、と思いながら。
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