第21話 天羽佳之助(元造船所社主)[5]
こんな村、出て行ってやると思っていたところに、遠くの街で就職した娘の
家から通えばいいと言ってやったのに、そこからだとけっきょく一時間以上かかるからと断りやがった。
ならば、と、宮永に近い
ラスベガスはかなわなかったが、ともかく、この村以外に新しい家が手に入るのだ。
そうだ。あの新築の家、ラスベガス
少し前まで、坂の途中にしゃれた家があった。「ペンション」とかいう宿屋だったそうだ。ふん、そんな浮ついた宿なんぞ、開いてるやつも泊まるやつもばかだと思っていたが、娘の佳愛はあこがれて「あんな家に住みたい」といつも言っていた。
その家ももうない。ないことはないが、空き家になり、捨てられ、薄汚れている。
ならば、親の自分があの佳愛に同じような家をプレゼントしてやろうではないか。
きれいに反り返った赤い屋根に、緑の
佳愛といっしょに住むのだ。
佳愛は銀行員だから、どうせカネ持ちだろう。もう生活の心配はしなくてすむ。
あの若い建築家、たしか、そろそろ整地を始めると言っていたな。
いちど見に行ってみるか、と思ったとき、スマートフォンが鳴った。
大半の機能は使いはしないが、電話と健康管理のために買ったスマートフォンだ。
「はいはい。
「お世話になっております。
「おお。はいはい」
機嫌よく答える。いまこの若い建築家のことを考えていたところだった。
本松という若い建築家は続けた。
「じつは
「おお。はいはい」
いまそこに行ってみようと思っていたところだ。
「じつは、さきほど、
「事故ぉ?」
事故とは、何だろう?
どうせたいしたことではないだろうけれど。
「調べてみましたところ、どうやら地下に遺跡か何かあるらしいんですわ。いえ、前にここに住んでたひとが、どこにも記録の残ってない地下室を持っていたのかもしれないんですけど。もしもし?」
「あ……はい……」
遺跡?
遺跡って何だ?
「それで、いちおうですね、工事を停止して
佳之助氏の首筋が震え始めた。その震えはすぐに全身に広がっていった。
本松は何かずっとしゃべっていたが、何を言っているか、もうまったくわからなくなっていた。
「ちょっと待て! ちょっと待つんだ! いますぐそっちに行く!」
そういうと、画面をめちゃくちゃに叩いた。そのうちの指の一本が「電話を切る」のマークに触れたのだろう。
電話が切れる。
何だ?
何が起こったんだ?
文化財だと……?
工事を停止だと……?
警察……?
あれはおれの土地だ。おれの家だ。
だれにもじゃまはさせない!
警察になんか来られてたまるか!
ふふっ、と、その老いぼれ
あなたの思うとおりにはさせないのよ、と。
だが、その顔は浮かんでこない。
あの孫娘はどんな顔をしていただろう?
考えてみれば、憎みに憎んでいただけあって、佳之助は、祥造以外の三善家の家族にはほとんど会ったことがなかった。
とくに、その孫娘というのには、その運動会のときに遠くから見かけた以外、一度も会ったことがない。
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