第20話 天羽佳之助(元造船所社主)[4]
それに加えて、
最初は佳之助のほうで避けていたのだが、佳之助がそろそろ仲直りでもと考えても、相手が顔を合わせてもくれなかった。
あの
それだけではなかった。
娘の
佳愛が大学に行って、二人暮らしになった最初の夏、妻が夕食どきにふと言った。
「お父さん、いいかげん、
「何をっ!」
頭に血が上って、体がぶるぶる震えた。
「やつらは、このおれだけでは気が済まずに、佳愛までいじめて村から追い出したんだ!そんなやつらに頭を下げろってのか!」
「だから、それ、違うから」
妻は言った。
「あなたがそんなことで意地を張るから、佳愛が嫌気がさしたんでしょう? だいたい大学生になって……」
「黙れえっ!」
佳之助は立ち上がった。
「おまえはあの祝部だの
右手が
妻は、食器棚のガラスも片づけず、背筋をしゃんと伸ばした姿勢ですっすっすっと玄関に向かうと、ご飯粒も味噌汁も魚についていた味噌も
実家に帰ったという話だ。
妻の父親が電話してきて、妻には別居をさせると言った。
「なあにが別居だ! あんなひどい女育てやがって! おう! おまえの娘なんざなあ!
と告げて電話を切ったら、それっきりだ。それ以来、妻がどこで何をしているか知らない。
造船所を始めたころに、
造船所が忙しかったころには妻も目を輝かせて仕事を手伝ってくれた。工員とのトラブルや、工員どうしのトラブルも、妻がうまく
そして、あの三善のおかげで造船所がつぶれると、その妻が街のスーパーのパートに出て、パートと言ってもほとんどフルタイムで働いて、家計を支えてくれた。
妻が去り、その収入も絶えた。いまでは収入は手もとに残した株の配当だけだ。利息はほとんどつかないという。そんなはずがあるかと銀行に何度も文句を言ったが、やっぱり利息は増えない。どこの銀行に預け替えても同じだった。だから預金は少しずつ減っていく。残ったのは二千万だった。
そうだ。
その二千万で
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